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「バレリー・フォン・テイラー、この場でお前との婚約を破棄する!」
きたー!待ちに待った婚約破棄宣言!
私を睨みつけながら居丈高にそう宣言したのは、エドワード・ライル・エイグ。この国の第一王位継承者。つまり、王太子殿下だ。
今日は王立アカデミーの卒業パーティ。卒業祝いでにこやかに談笑していた出席者は、皆殿下のいきなりの宣言に驚きのあまり誰一人声を出すことなく立ちすくんでいた。巻き込んでしまった皆様には申し訳ないけど、少しお付き合いくださいね。
「何故でしょうか?理由をお聞かせいただけますか?」
笑い出しそうなのを堪えているせいで声が震える。それを悟られないように慌てて表情を作り、悲しみをたたえた瞳で殿下を見上げる。
「お前は僕の婚約者である地位を利用し、ジェニーを虐めていたであろう!証人もいる!」
ジェニー嬢は殿下の服をしっかりと掴み、プルプルと震えながらうつ向いている。そんな彼女の肩を抱き大丈夫だとつぶやく殿下の瞳は、婚約者の私に向ける瞳とは違いとても優しい瞳をしていた。
そしてその後ろには、殿下の言う証人とやらが3人、居丈高に私を睨んでいた。
「言いがかりはやめて頂けますか、エドワード様」
「とぼけるのもいい加減にしろ!皆の前で罵り、陰で彼女の私物を壊し、あまつさえ噴水に突き飛ばしたではないか!知らぬとは言わせないぞ!」
「そうです、私は見ました!バレリー嬢がジェニー様を突き飛ばすところを!」
「僕は、ジェニー様の教科書がビリビリに破かれている所を見ました!」
「ジェニー様が泣きながらバレリー嬢から逃げてきたところを見ました」
殿下の言葉に呼応するように口々に3人は私のいじめの現場を見たと話し出した。私の悪事を暴けたのが嬉しいのか、満足そうに頷く殿下。
ジェニー嬢を見ると、彼女は顔を上げることなくまだプルプルと震えていた。
「その様な事を理由に婚約破棄をすると?殿下はお忘れかも知れませんが、私との婚約は国王陛下の御名の下決められたことですわ。このことは国王陛下もご存じなのですか?」
「はっ!お前は何かというと父上の名前を出し優位に立とうとする。僕のすることにいちいち口を出し、次期国王としての自覚を持てと小言を言い続け、僕を見下していたではないか!お前のせいで僕の心は傷つきボロボロだった。そんな僕を癒してくれたのはジェニーだ。彼女のが側にいてくれると心が休まる、安心するんだ。彼女を愛している!これからはジェニーと共に生きていく。お前は不要だ!」
「本当に婚約を破棄して宜しいのですね?後悔はしませんね?」
まあ、これだけの人たちがいる中で宣言したんだから、「冗談だったー」で済むわけはないんだけど、一応ね、まだ婚約者だから確認はしないとね。
「婚約は破棄する!これ以上話す事は無い!さっさとここから出て…「とのことです、お聞きになりましたか?」
言質は取ったし、さあ、本当の断罪劇を始めますか。殿下の言葉を遮り、にっこりと笑いながら私は彼の後ろにいる人物に声をかけた。
「ああ、そなたの言うとおりだったな」
そう言いながら現れたのは、この場にいるはずのないお方。
「何故父上がここに…」
「エドワード」
国王陛下は、ゆっくりと殿下に近づき、おもむろに頬を叩いた。
「この、愚か者が!!!」
パシーンと小気味よい音がホールに響く。あら、痛そう。でも、子供のしつけは親の役目ですもんね。
私は笑い出しそうになる頬を引き締め、陛下へ頭を下げる。
「皆、今宵の場を騒がしてしまった事、息子に変わり謝罪する。すまなかった」
「父上、僕の話を聞いてください!」
「うるさい!黙っていろ!」
陛下はむんずと、殿下の首ねっこを掴むと、そのままずるずるとホールから引きずり出していった。
私もその後を追い、ホールの扉に手をかけ、
「卒業生の皆様、関係者の皆様、大切な卒業パーティを台無しにしてしまい申し訳ございませんでした。邪魔者は退散致しますので、ごゆるりとパーティをお楽しみください」
優雅にお辞儀をし、パタンと扉を閉めた途端。
「楽しめるかーーーー」
という絶叫がホールに響き渡った。ですよね。でも、文句は殿下にお願い致しますわ。