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そんな寂しさを抱えたまま、智也は放課後を迎え、ハルと一緒に野球部が終わるのを待っていた。
今日の校庭はハルの仲間達が『慣れたか?』、『お帰り』、『人間は怖くなかった?』とかいろいろハルに聞いていているからいつもより賑やかだ。
智也はハルにこんなにも仲間思いの友達がいて羨ましくなった。
「いいなぁ」
『何が良いの?』
そう言われ、心で思った事が口に出ていた事に気が付いた。
「なんでもないよ」
『ハルー、これからソウがそっちに行くから一緒に投げてもらえよ』
そろそろハルとお別れの時間が近付いてきたらしい。
『わかった。智也のお陰で速いスピードにも慣れる事が出来た。本当にありがとう。これからは叫ばなくて済む』
ハルは本当に嬉しそうな声だ。それに安心した様な声にも聞こえた。確かに、ボール達は投げられながら普通に話をしているから、それがハルにも出来るようになると思うと、嬉しくなるのもわかる気がした。
「どういたしまして。でも、ハルの叫び声が聞こえなくなるのは寂しいな。ハルの叫び声を初めて聞いた高校説明会の時に、楽しくなりそうって思えたのはハルのお陰だから。こっちこそありがとう」
『叫び声を出してたことにお礼を言われるなんて、初めてだ』
『ハル、迎えに来た』
足元にあるボールが、さっき名前がでたソウなんだろう。
「君がソウなの?」
『そうだよ。ハルを速さに慣れさせてくれてありがとう。助かった。……智也、だよね』
「どういたしまして。それにしてもなんで僕の名前を知ってるの?」
『野球部に霊感がある男の子がいて、その男の子がハルと智也が会話してるのがわかったらしくて、智也って誰だとか言ってたから』
「えっ?」
ソウが言ってる事が本当ならきっと、巧真にバレてるハズ。急に不安になってきた。でも、巧真はそれを今日まで智也に聞かないでいてくれた。ありがたく感じたのと同時に巧真がその事を知ってからどんな気持ちを智也に抱いているのか、様々な事が智也の頭の中を埋め尽くし、ハルとソウに呼ばれても反応が出来なかった。
『智也……、大丈夫?』
「…………」
『智也!』
ハルの大きな声に気が付きしばらくハルを見つめた後「……、何?」と言うとハルが『きっと巧真君なら大丈夫だよ。智也の友達だし』と言った後、ソウが『そうだよ。そろそろ、部活も終わるみたいだから、僕達を野球部の子達に投げてくれる?』と言ってきた。
「わかった。この1週間楽しかった。ハルありがとう。それと、ハルを持ち帰った夜に聞いたハルの名前の由来。速いスピードに慣れたんだからあの由来じゃあおかしいから考えてみたんだ。聞いてくれる?」
『本当? ありがとう』
「ハイスピードが得意なボールでハル。どう?」
それを聞いたハルは嬉しそうに何度も繰り返して名前の由来を口にしている。それを聞いている智也も嬉しくなった。
『智也のお陰でハルが速いスピードに慣れることが出来た。ありがとう』
「うん。それじゃあ、ハルから投げるよ。いい?」
『うん! 智也、いろいろありがとう』
智也は片付けの作業をしている巧真を呼びハルを投げた。すると、ハルは叫び声を出さずにいられた。
『克服、出来たんだな。よかった。智也、本当にありがとう』
「どういたしまして。またね。ソウも投げるよ」
『頼む』
もう1度、巧真を呼び「ごめん、もう1球あった。投げるよ」と言ってから、ソウを投げた。
これで、ハル達とゆっくり話す事はないと思うと寂しくなった。
「ありがとう。あと少しで終わるから!」
「わかった。待ってる」
智也は返事をしたものの、待っているのがイヤになってきてうつむいた。
今日まで何も聞かないでいてくれた巧真。その事は本当にありがたく思う。頭を上げ、校庭を見ると、野球部の部員達が整列して、最後の挨拶をしている。きっと、霊感がある先輩にはハルが帰って来た事がわかったハズ。だから、部員達に何か言っているだろう。それを聞いた巧真が智也に何か言ってくるのも自然な事だと思え、智也は不安に押し潰されそうで、逃げたくなった。
でも、一緒に帰る約束をしているのに、逃げるのはおかしい。それにハルが言ってくれた言葉を信じる事にした。
『智也! がんばれ。大丈夫だよ』
突然、ハルの大きな声が聞こえて驚いたが、智也は心の中で「ありがとう。がんばる」と答え、巧真に聞かれても誤魔化さずにちゃんと話そうと、心に決めた。
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