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1週間が過ぎるのは早かった。最初の内は少し速いスピードで走ると叫び声が聞こえていたが、日が経つにつれてハルは大分叫ばなくなっていた。慣れたみたいだ。
「気分はどう?」
『……自転車のスピードには慣れてきた。それに、智也がたくさん勇気づけてくれるから……、投げられても、大丈夫な気がしてきた』
「なら、よかった」
『でも……』
ハルが言いたい事は何となくわかる。智也も同じ気持ちだ。
智也もこんなに長い時間、物――ボールのハルと話したのが初めてで、なんだか初めて得した気分になれた。今までは物の声が聞こえることに嫌悪感を持っていたが、ハルと話す内に物の声が聞こえるのも悪くないと思え、楽しく過ごせた。
「寂しくないよ。ハルにはソウ達――友達がいる。それに、声が聞こえなくなるわけじゃないから時々は話せるよ」
『そっか』
「今日、ハルを野球部に返したいんだけど、巧真に渡すのも変だし。何か良い案ある?」
すると、ハルが『1週間前と同じ様に大きな声を出してみんなに聞いてみる』と言ってくれた。それを聞いた智也は、またかと思ってしまった。1週間前の時と同じ様に怪しまれるんじゃないかと不安になった。
通学路の途中で会った巧真と一緒に、凪名高校に着くとやはり大きな声でハルが喋りはじめた。今回は、事前に大声を出すことがわかっていたから驚かずにすんだ。
『今日、帰るよ』
『わかった。今日のキャッチボールの時、僕が迎えに行くから、智也に一緒に投げてもらって』
智也の名前を知っているのはハルだけのハズ。なんで知っているのか不思議に思えた。
『わかった』
ハルはそう言った後、智也に向かって『ソウと一緒に投げて』と言った。
「……、わかった」
なんだか智也は急に寂しさを感じ、ハルに寂しくないと言った手前、寂しいとは言えなかった。
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