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ハルと一緒に登校する初日の朝。ハルはブルブルと震えているようだ。確かに、ハルにとっては自転車という物に乗るのは2回目だが、運転するのは智也だ。ハルを落ち着かせながら、自転車を漕ぎ始めると予想通りハルが叫び始めた。
「大丈夫だよ。落ち着いて」
『……うん』
数分経つと、自転車のスピードに慣れてきたのかハルがあまり叫ばなくなった。
「少しは慣れた?」
『うん』
「それじゃあ、もう少しスピードを上げる」
すると、なんだか叫ぶのを我慢している感じが伝わってきた。
「その調子だ」
「何がその調子なんだ?」
通り過ぎた曲がり角から巧真の声が聞こえてきた。自転車を止め、後ろを振り向くと巧真が智也の隣まで自転車を漕いで来た。野球部の朝練がない日は巧真と一緒に行く約束をしている。ハルと話していたから、巧真との待ち合わせの場所に着いていた事に気が付かなかった。
「えっ……と、朝からやる気が出ない自分を鼓舞してた」
巧真は一瞬眉間にシワを寄せたが「そんな時もあるよな」と納得してくれたようだ。ハルの事がバレなくてよかった。
「あっ、そういえば、昨日、部活の先輩が言ってたんだけど、部活の中盤辺りから叫び声が聞こえなくなったらしいんだ。先輩が野球部に入ってから毎日聞こえてたらしいんだけど、聞こえなくなったのは昨日が初めてで、どうしたのか心配してた」
それを聞いた智也は、ハルを持っていることがバレるのも時間の問題だと思えた。だけど、その先輩に心配されるって事は、ハルの叫び声が毎回聞こえるのが習慣になっていたという事だ。なんだかすごいなと思え、智也は感心してしまった。
「それに先輩はこうも言ってた。叫び声を出してたやつはボソボソ誰かと話してたって」
ドキッとした。智也とハルが話してるのがバレてる。だけど、智也だと分かっていない事が救いだ。なんとしても、ハルにスピードに慣れてもらわないと。
凪名高校が見えてくると、ハルの名前を呼んでる声が聞こえてきた。ハルの名前を知ってるのは、人間では智也だけのハズだからきっと、ボール達がハルの事を心配しているんだろう。するとハルが大きな声で『大丈夫だよ。1週間経ったら帰るから』と言い、その後に『わかった』と聞こえてきた。ハルにも仲がいい友達がいる事に安心した。それにしても、ハルがいきなり大きな声を出すから、驚いてしまった。
「どうした?」
「なんでもない」
大きな声を出す時は事前に言ってほしい。でも、これで安心してハルを、スピードに慣れさせる事が出来る。
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