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家に着き、自分の部屋に入ってから智也はすぐにセカンドバックからハルを取り出した。
それにしても、帰り道の間中、ハルが叫んでいた為、巧真の声が聞き取りづらかった。セカンドバックの中に入っていれば、速さの感覚はあまり無いから大丈夫かなと思っていたら、ハルは違ったみたいだ。
『あー、怖かった』
「いろいろ、ゴメンね」
『……、いいよ。あの場合……、仕方ないし……』
言葉では仕方ないと言っているが全然良くなさそうだ。それになんだか、機嫌も悪そうだ。でも、仲間達から離され、1人になれば誰だって、不安になり、機嫌も悪くなるかもしれない。
「怖くなくなるコツを教えるからさ、機嫌直して」
『本当?』
智也の一言でハルの機嫌は直ったらしく、智也に『早く、早く』と言い、急かしている。そんなハルを見て単純だなと思えた。
「……、うん」
コツは全部で3つ。
1つ目は「覚悟を決める事」
2つ目は「速さに慣れる事」
3つ目は「天に任せる事」
智也が3つの事を言うとハルは『ソウ達と同じ事を言うんだね』と言われてしまった。1つ目と3つ目はサッカーボールのレンに、2つ目はソウや他の野球のボール達に言われたらしい。
ボール達も人間と同じ様に考えるのかと智也はなんだか親近感がわいた。
『でも、レンに言われた天に任せるっていうのが、全然、わからないんだ』
それを聞いた智也は本棚から1冊の本を取り出し、ハルに読んであげた。
『つまり、忘れるってこと?』
「うーん、やるべき事をしっかりやって、その事に対する執着が無くなった時――つまり、忘れられた時、天に任せられたって事じゃないかな」
『……、そっか』
ハルはそれっきり黙ってしまった。それも仕方ない。ハルにとってのやるべき事は、速いスピードで投げられる事を我慢して投げられ続ける事だ。今のハルにとってはキツイ事だ。そんなハルを見て智也は1つ、提案をしてみた。
「ハル……、少しでも慣れるために僕と1週間だけ一緒に行動してみない?」
『どういう事?』
智也は凪名高校に自転車で通っている。一緒に自転車に乗っていれば少しはスピードに慣れるんじゃないかと思ったからだ。すると、ハルは『また……』と言い出した。きっと、今日の帰り道の事を言っているんだろう。しばらくブツブツ言っていたがハルの覚悟が決まったらしく『……智也、1週間、よろしく』と言ってくれた。
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