1
今日は凪名高校の説明会に、友達の巧真と一緒に来ている。校門をくぐると、いきなり叫び声が聞こえてきて、智也はビックリした。だが、隣にいた巧真は平然と歩いている。当然だろう。智也に聞こえた叫び声は、人が発したものではない。
智也は幼い頃から物の声が聞こえる。これは智也だけの秘密だ。
智也は先程の叫び声がどこから聞こえてきたのか、キョロキョロ周りを見ながら探している。智也の左側には何台も車がある。きっと、先生達の駐車場だろう。右側には校庭があり、運動部が部活をしていた。さっき聞こえた叫び声は、左側から聞こえた気がして、校庭の方を眺めた。
「何してるんだ?」
巧真は智也が隣にいないことに気が付いてくれた様で、後ろに振り向き立ち止まっている。
「えっと……、校庭が広いなって思って……」
物の声が聞こえる事を、巧真にバレちゃいけない。幼い頃にその事を友達に言ったら「嘘つき」と言われヒドイ目にあった。巧真がそんな事を言わないのはわかっているが、巧真に何て思われるのか怖くて言い出せずにいるから、こうして誤魔化すしかない。
「そうだな。どんな部活があるのか楽しみだ」
智也の隣に来ていた巧真を見ると、野球部を見つけて目を輝かせている。巧真が「高校生になったら野球部に入る」と言っていたのを思い出した。
ふと、校舎についている時計が視界に入り、時計を見ると1時15分前を指していた。
「巧真、そろそろ行かないとだ」
巧真に声をかけると「そうだな」と言って、校舎の入口に向かって走り出した。
智也も同じように動き出すと、先程の叫び声が再び聞こえてきた。今度は『がんばれ、ハル』、『ボールでしょ! しっかりして』と応援している声や『人間に聞こえてるかもしれないぞ』と茶化している声も一緒に聞こえてきた。茶化している声に対して『人間に、聞こえる、わけ、ないよ……、ギャァー』と言う声が聞こえてきた。きっと、今、聞こえてきた声が、ハルのものなんだろう。
実際に叫び声が聞こえている智也にとっては、ハルに対して聞こえてるよとツッコミたい所だが、今は急がないと説明会に間に合わなくなってしまう。
校舎の中に入り、靴を履き替えながらふと思った。いつもだったら、物の声が聞こえても聞き流しているのに、今日はボール達の会話に心の中で、ツッコンでいた。その事に驚きながらも、もっとボール達の会話を聞いてみたい、話してみたいと思っている。
「なんでだ?」
「なにがだ?」
声に出ていたらしい。巧真に「なんでもない」と言ってから、説明会が行われる教室に2人で向かい始めた。
智也は、凪名高校に受かったら、楽しくなりそうだと思え、自然と笑顔になっていた。
読んで頂きありがとうございました。