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フロッグインザウェル  作者: だぶるごりら
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2 統一国家ルヴァンシュ

2 統一国家ルヴァンシュ

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「おはようございます、鈴さん。」


「ツイタ。ツイタ。ヤッパリツイテル!」


少し疲れた様子の清水が、穏やかな笑みを浮かべながら鈴の目の前に立っていた。ラクは相変わらずうるさい。


「立てますでしょうか。これから歩いて私たちの拠点ホームに向かいます。道中にこの世界のことと鈴さんを連れてきた理由をお話し致しますね。あと、私のことも少々。」


鈴は周りを見て驚いた。その世界はまるでターザンの物語の中にいるかのような世界。

2083年に来たというのであれば車が空を飛んでいたり建築物に囲まれた世界を想像していた鈴からすると衝撃的であった。

そして本当に別世界に来たことを理解し、気付いた時にはコスメバッグを持つ右腕から全身まで鳥肌が立っていた。


「うるさい。私、トイレに行きたい。鈴は頻尿である。」


鈴は人付き合いが苦手だ。容姿端麗で成績優秀だが、心の声が漏れ出てしまうから。しばしばそのせいで周囲から不思議ちゃん扱いをされてきた過去がトラウマになっている。


「ふふふ。マーベラス。そうやってはっきりものを申してもらった方が私は嬉しいですよ。トイレですね。しかし少しだけ我慢してください。数秒ずれてしまったようですので。」


鈴の耳に清水の言葉は入ってきていなかった。頻尿宣言をしたことの羞恥心だけが鈴の心を支配していたからだ。赤面にてコクッと小さく頷くと、鈴は清水とともに歩き始めた。


「この世界は転移前にお伝えした通り2083年です。ちなみに転移前と同じ2月5日。この世界はルヴァンシュという統一国家によって治められています。簡潔に申し上げますと、鈴さんの生きていた2020年からの63年間で世界は2回滅んじゃいます。その後に世界を再興させたのが現在の統一国家で、国名がルヴァンシュ。今の世界にはこの国しか存在しません。」


鈴は自称天才美少女だが、実際頭脳明晰だ。しかし、これだけの情報量ではまだ置かれている状況が分からないでいた。すでに魔法の存在を目の当たりにしている鈴は、ここまでの清水の説明は全て本当だと分かっていた。


「すいませんがもう少しお話聞かせて頂いてもよろしいですか。そうじゃないと警察につ、通報しますよ。ふ、不埒な目的の拉致でないのであればしっかり説明してください。」


『始めは処女の如くにして、敵人、戸を開き、後には脱兎のごとくして、敵、防ぐに及ばず』孫子の教えだ、なめんなバーカ。この天才美少女鈴ちゃんのド級無垢具合にシビれろ。知ってること全部話すまでトイレ行かないんだから。


「鈴さん、警戒しなくても大丈夫です。そうですね。ではまず私のことからお話しすることに致しましょう。私の名前は清水ではなくルドルフ。騙して申し訳ございません。」


「知ってましたよ。おじさん、本当はおじさんじゃないでしょ。いや人間じゃない。そうじゃないとね、男は私と目があった時にさかりのついた犬みたいにオッフオッフって発情して少し顔を赤らめるはずだから。」


直後に顔を赤らめたのは鈴だった。普通の人なら心の内にしまっておける言葉を、しっかりとした口調で堂々と吐き出したためだ。


「オッフオッフ。スズチャン、ユレル!」


「ラク、鈴さんをからかうのはやめてくださいね。いやいや、鈴さん、あなたという人は本当にファビュラスです。正解です。私の年齢はまだおじさんというには若い。まだ24歳。そして私は人間ではなく機械と人間のハーフ。この世界でも非常に稀有な存在です。それ故に普通の人間のように発情はしません。失礼致しました。」


「い、いえ、私の方こそ変なことを言ってしまいすいません。・・・あの、質問なんですが、じゃあルドルフさんは24歳なのにどうしておじさんみたな外見なんですか。ハーフだから?」


鈴の質問は至極当然だった。ルドルフの外見は完全に中年の日本人。変装している様子もない。


「私には2020年の世界にて鈴さんとお話しなければならない理由がありました。詳細は後ほどホームにて。そしてその為に営業マンとして一般的な外見を装う必要があったのです。魔法でね。信じていただくために本当の姿に戻りたいのですが、今は少々都合が悪いのです。少しずれてしまったので。」


ずれたずれたって一体なんのこと。ずれてるのはあなたのピント。何が稀有なハーフよ調子に乗っちゃって。機械ならむしろ私に落ちなさい。鈴はそう心の中で思いとどまることに成功して少し自分を褒めた。


「あ、さっきも数秒ずれたって言っていましたが、なんのことですか。」


「鈴さん、素敵な質問をありがとうございます。実は転移魔法の最中、外部から妨害を受けまして、設定していた時刻よりも8秒早い時間に到着してしまったのです。」


「外部からの妨害?敵がいるんですか?8秒って63年分移動したんだから計算誤差みたいなもんじゃないんですか?」


「ンマー、ワンダフル。質問が増えてきましたね。私の心が揺れています。喜びに満ちているのでしょうか。ホームまではもう少々歩きますので一つずつお話し致しますね。」


ルドルフ、ラク、鈴はターザンの世界のようなジャングルの中を歩きながら、会話を続ける。

「まずは外部からの妨害についてですね。端的に申し上げますと、この世界にはほとんど敵しかいません。鈴さんが私を味方だと思って下さるのであれば、ですがね。反対に鈴さんが私を敵だと認識されるのであれば、この世界のほとんどの存在が鈴さんの味方となります。それほどにあなたという存在は貴重なのです。詳細は・・・」


「『後ほど。』ですか。まあいいですよ、私は今のところルドルフさんを信用するしか、つまり味方だと思うしかなさそうですので。」


「スズ。アイソ。ワルワル。オンナノコ、アイキョウ、イルイル!」


「ラク、何度も言わせないで下さい。鈴さんに一時的でも私を信用しようと努力なさっているのです。その態度を批判するのは、シャビーですよ。」


よし。この目玉焼きスライムは後で燃やそう。火力を上げれば塵にできるし証拠も最小限に抑えられる。鈴、今は我慢の時間よ。


「鈴さん、お話続けても大丈夫ですか。」


「はい。その薄緑系グロ目玉焼きスラちゃんは後で燃やすのでそのままお話続けてください。」


「ふぉふぉふぉ。スラちゃんではなくてラクちゃんなのですが、随分と気に入られたようですね、ラク。ラクのこともホームに着いたらしっかりとお話し致しますね。ルヴァンシュでは、ラクのような存在が最も重要と言っても過言ではございませんので。さてと、ホームに着くまでに私の敵の事と8秒間の時間のずれのインパクトについてお話し致します。」


「先生。もう少し大きい声で話してください。頑張って聞いてきたけど、その音量このまま続けるのはさすがに草生えますから。」


「これは失礼。さてと、私とラクそしてホームにいる仲間はこの統一国家ルヴァンシュに抵抗する反乱軍の種。『シード』と名乗っている集団です。この国を管理する者たちとその管理システム全てが私たちの敵なのです。どういう訳か私とラクが鈴さんを連れてあの時間に戻ることが敵にバレていたようで、私が発動させた転移魔法にかなり強力な妨害魔法をかけられたようです。そのせいで8秒早く到着してしまいました。」


「さっきも聞きましたが、8秒なんて誤差じゃないんですか。」


「今回に限ってはそうとも言えません。なぜかというとその8秒間はこの世界に私とラクがもうひとりずつ存在してしまっていたからです。2020年にもタイムスリップする物語が色々あったかと思います。その中でタイムパラドックスという言葉を聞いたことはございますか。」


「はい。同一人物が同じ時間に存在して、出会ってしまうと起こるっていう・・?」


「スーパー。その通りです。わずかな時間且つ直接出会ってはいませんでしたが、タイムパラドックスの影響を私たちは受けてしまい、到着と同時に発動する予定だった幻影魔法を使えませんでした。そのため、私たちが到着した『時間』と『場所』をルヴァンシュの管理システムに正確にバレてしまったという訳です。」


「おいコラ。ルッドルフ。るっドルフェ。ルッドルフィン。何してんだよ。さっきカッコつけて機械のハーフですとか言っちゃってたのに妨害魔法直撃されて、挙げ句の果てにバレちゃってますてか。もう鈴ちゃんは呆れて物も言えない言えない。」


「ふふっ鈴さんたくさん物言えてますよね。いやはやこれに関しましては本当に情けない限りです。かなり強力な妨害魔法だったものでして。」


鈴はまた赤面して申し訳なさそうに質問をした。


「あ、あの今はその幻影魔法を使えないんですか。」


「そうなんです。今はルヴァンシュの管理システムに追跡されていますのでそれをかいくぐってホームに帰るだけで精一杯といったところです。今少しでも魔法を使用すれば完璧な空間情報を感知されてしまいますので10分以内にゲームオーバーです。」


「あの、私はゲームオーバーはしないです。」


「強気な性格もまたファビュラスです。しかし今はラクのおかげで管理システムの追跡をかいくぐっていますので無問題。後少し、そうですね、5分も歩けばホームに着きます。」


「ラク、ツイテル、ツイテル!」


ここまでのルドルフの説明から、鈴は自分が置かれている状況を理解し始めていた。鈴は孤児院で幼少期を過ごし、里親が決まらないまま18歳で一人暮らしを始めた。友人はネットの世界のみ。だからこの世界に来た後も、怖い帰りたいといった感情はなかったのだった。不幸中の幸いというやつだ。その後少し歩いた先に大きな木が現れた。トネリコの木だと鈴は分かったらしく口を開いた。


「トネリコの木の側に拠点を構えるなんて、ここに居ますよって言っているようなものじゃない。」

鈴はルドルフたちに心の声を伝えすぎたようで、少々愛想の無い話し方をしてしまってもお互いに気にしないようになっていた。


「おや、それはなぜでしょう。」


「なぜって、だってこの木はセイヨウトネリコの木。2020年の世界ではヨーロッパを中心に生息する木で、北欧神話に登場する世界樹だから。トネリコの木の近くには魔女が住んでいるって言われているわ。魔法の存在するこの世界ではこんな場所目立ちすぎるんじゃなくって。」


「鈴さんのお話はとても興味深い。ですが心配ございません。お伝えしたようにこの世界はすでに2回滅んでいます。今の鈴さんのお話を私は全く知り得ませんでしたので、おそらくそれは失われた歴史『ロストメモリー』の一つ。」


「『ロストメモリー』・・・どこまでもおとぎ話のような世界ね。それの詳細も後ほど?」


「ふふっ。その通りです。ではそのまま歩き続けてください。振り向かずに進んだ先にあるのが私たちの拠点。ようこそ我らがシードのホーム、『イグドラシル』へ。」



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つづく




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