ハグマタイル山脈
ハグマタイル山脈はサイララル西を縦に跨る大山脈である。雲を突き抜ける高山であり、また多くの資源が産出される鉱山でもある。
付近に温泉地もあり、多くの鉱山夫たちは温泉地近くの簡易宿に長く泊まり、鉱石を採掘する。単独で掘る者、雇われた者と集まる鉱山夫はバラバラだ。
と言うのも、サイララル王国にて、【ハグマタイル山脈にて採掘された物は、採掘者に管理と権利を一任する】との盟約があるからだ。
個人で良質な鉱石が採掘できたものの命が危ぶまれるのでは、と当初は噂になり、ならず者の中には採掘が巧い者から奪えばいい、と悪びれなく言うものもあった。それなら集団を雇おうと考える商人もいた。
だが盟約には王国の裏があった。採掘者として登録された者は、王国と契約を結ぶ。
【採掘物から得る利益の三割を王国に納めよ。その見返りに王国が保護する】
これに署名すれば契約成立だ。王国と契約できるようなツテを持ち、採掘の巧い個人は丸々利益の七割が手に入る。また、商人に雇われた者は商人が契約し、利益は商人にかかる費用を引いたものからそれぞれの報酬として支払うため、個人で採掘する者よりも下がる。が、集団の利として命はもちろん、宿や飯の心配をせず、安全に採掘ができる場合が多い。
主に採れる鉱石は魔鉱石、ウルツァイトと呼ばれる宝石、そして、流通しているカニイと呼ばれる貨幣の原料だ。良質なカニイが採れると、王国の専門技師が波長調整した後にどのようにしているのか、大カニイ、中カニイ、小カニイとなる。これらは複製も難しく、また品質も高い。
サイララル王国内でも、主要な鉱山であり、流通貨幣の産出地でもある。他国との貿易の要の、魔鉱石や宝石の産出も多い。
その場所を【黄】が爆破とはーーー。
「……あれか」
吾達が見た光景。山脈の複数箇所を爆破したのだろう。大規模な山崩れが起こり、鉱山への採掘場入口は全て塞がれていたのだった。
「ギーメ、リーメ。上から広範囲に偵察を」
[……波長を繋いで欲しい]
[50/50で切れる]
「タイメ、波長調整は可能か?」
[(3グリックまでなら)]
吾の第三の眼から、離れた右眼と左眼に波長調整を行う。
念の為、たゆたう霧を薄くかけ、周囲から見えにくくしておく。
ギーメ、リーメが空に飛んだ。
[……右眼下、用意][左眼下、95/100接続]
[(調整完了)]
吾の眼前に、上空からの光景がありありと広がる。規模、高さ、被害状況、そして考えられる【黄】の位置ーーーあそこだ。
「戻れ、移動する」
またも獣のように、四つの脚のようになった手足を車輪に変える。移動形態をとった吾は、顔の前に透明な波長の防壁を薄く張った。
このまま、【黄】のところへ向かう。
「ミミ、仲間に連絡を入れておけ」
「はいはい、連絡済みです!」
いつの間にだろう。ミミの優秀さに驚かされる。
「はいはい、これは進化ではなく、慣れの問題ですよ」
「すごいな、ミミ」
何も言わなくても伝わるのか。かつて一体だった時のように。
「はいはい。……まぐれですよ?」
防壁に守られてそんなことを言い合いながら、移動する。
探すのは山脈から離れて被害を受けず、状況が一望できる場所。上空からは見えにくい場所。
海側の砂岩窟。
水の精霊が祭られている聖域に潜んでいるはずだ。
光が射し込むのは入り口付近まで。その奥は水と砂の迷宮とも呼ばれ、水の巫女と司祭のみが道を知り得る。
【黄】を手引きしたものがいるのか。
砂岩窟の上から、温度変化を把握する波長を送る。
ギーメよりパルスレーザーを透過させ、洞窟内温度を測定し、生物位置を把握する。
おそらく【黄】と思われる温度の傍に、【赤】の温度が二人。協力者だろう。
「波長を切り替え、合わせよ。ギーメ、リーメ、タイメ」
[……熱波長][80/100完了]
[(円半径微調整)]
移動形態のまま、唱える。
「白光線よ、真円を描け!」
砂岩窟に真円の白波長が走り、穴が開く。
「なっ!」
「え?!」
「くっ……!」
穴を開けた先には、【黄】と、【赤】の司祭、【赤】の水巫女の三人が居た。