かがみの世界の物語
鏡のない世界に暮らす3姉妹のものがたり。
《ここは鏡のない世界。水面に映る自分の姿を、目を細めながら確認する。そういう世界の物語》
物語冒頭、いきなり病に倒れる父親。3姉妹を寝室へと呼び寄せる。代々この町を統治する、自分も含め先祖たちには、代々首に3つの痣がある。しかし娘の中に、その痣がない者がいる。真の娘とは認めずに、遺産相続からは外したい。そんな話しをされてしまう。
「首に三つ星の痣がある娘だけに遺産を残す」
痣が確認できたのは、三女の娘の首にだけ。私がどうだかわからない。しかし、三女は取り乱し、「痣はあるかと」騒ぎ立て、自分の痣を確信し切れていないよう。ここはすました顔をして、「お可哀相に」と揺さぶりをかける。
次女の首には痣がない。それなら次女の顔を見て、絶望の色が出ていないかと観察する。「お姉さん、顔色が優れないは大丈夫?」と朗らかな顔で微笑みかけてくる、この余裕はなんなのか。
《疑心暗鬼の娘たち、いったい誰がその娘?》
「私は愛されている!私は父からの愛を一身に受けてきた!私は真の娘だ!!」そう叫んだ三女が、気が狂ったように走り回り、次女の制止も聞かぬまま、階段から滑り落ちて息絶えてしまった。
下の娘が狂うと言うことは、自分が痣の娘と確定できない要因があったはず、つまりは、まだ3人の中に痣を持った者がいたということに…。そう思った次女だったが、すぐに他の可能性に思いあたった。まさか、三女は恐れていたのではないか、3姉妹、すべての首に痣がないという結果を…。父の口ぶりからそんなことは無いはずだが、あの、頭の弱い娘のことだ、そう解釈できたかはわからない。私が三女に揺さぶりをかけてしまったのが裏目に出た…。
「ああ、頭の弱い妹よ!ソナタは何故に頭が弱い…。」
次女の落ち着く姿が、今の私には落ち着かない。何故にこうも落ち着いている。「大丈夫ですよ、お父様は、私たちを愛しております。」三女の亡骸の側で涙を流しつつ、穏やかな顔でこちらを見る。母の不貞の娘なれば、真ん中だけとは不可解だ、私もそうであるということか…。静にそう理解する長女。
遺産相続を拒否されて、それでも固持した遺留分で、惨めに無惨に生きていかねばならないのか、そう思うと哀れで仕方がなく、未来を憂い、衰弱して死んでしまった。
《父の愛する娘たちは、こうして誰もいなくなった》
「2人の可愛い愛娘に囲われて、さぞや哀れな気持ちに溢れ、自分の出生を悔やみながら、どこぞでのたれ死ぬかと思いきや、憎いお前だけが生き残ったのか…」次女を睨みつける父親に、少しだけ哀しさを残した微笑みで次女は言う。
「私はただ、信じていただけです、お父様の愛を。」
可愛い2人の娘達の死に、暴れる父を前にして、少し寂しそうな次女の声、
「可哀相に、お父様は愛すべき娘を、すべて失われてしまったようですね。」
《父の愛すべき娘たちは、こうして誰もいなくなった》