美しすぎてウッカリ異世界転生させてしまう死神の恋~ヤンデレ死神からはどうあがいても逃げられません~
仕事帰りに黒マント男に話しかけられた私。なんか変な色の肌をした外人さんは死神だと自称してきて、同僚と付き合って欲しいとか言ってきた。
転生トラックに轢かれたり、通り魔に刺されて神っぽいのと出会うまでに起きる出来事の裏話的な何か。
「異世界転生って知っていますか?
よくある寿命でもないのに神様のウッカリで死なされてしまって、チートあげるからってなだめられるアレ。
実はアレ。俺の同僚のせいなんです。
俺の同僚の死神にそれはもう顔がいい奴がいて。あまりにも顔が美しいもんだから、見た生者は人間だろうが、天使だろうが、悪魔だろうが、美の基準が人間と同じ種族はみんな死んでしまうんです。
天使や悪魔なら大丈夫じゃないかと思われるかもしれませんが、残念ながらみんな死にました。
俺の同僚は歩く人型殺人兵器です。
死神だから死なせるのは仕事ですが、よくある臨死体験を俺の同僚はさせることができません。
なんでしょう。もう、ね。
臨死体験ってやつは川の向こうでおばあちゃんがいたとか、死んだ知人が「まだ来るんじゃない」と言ってくるとか、色々なバージョンがあって生き返るアレです。
アレをね、俺の同僚はできないんですよ。
美しすぎる奴を死ぬ前に見ちゃった魂は奴に見惚れて、知人と会ったことすら気付かなくて、生き返る機会を失ってそのまま死んじゃうんです。
もう、ね。それで奴は何枚も始末書書いていてね、謹慎処分なんかよくあってね、俺、しんどいわけ」
と、フード付きの黒マントを着た黒髪の外人さんに言われた。男はアニメやSF映画の中にしか存在しないような青みがかった褐色の肌をしていた。
なんだ。肌を青く塗ってるか、全身タトゥーを入れている外人さんか。
コスプレまでしてたら、色はちょっと黒すぎるけど、あのSFアニメの完璧なコスプレができそう。
それにしても、異世界転生も外国のオタクに浸透したんだな~と感心した。
こんな中二設定、信じられるはずないでしょ
だって、自称が死神なんだよ?
信じられるはずがない。
一緒にいるフードを目深にかぶっている黒マント男(?)がいるけど、これは仕込みだろう。
そうじゃなかったら、ストーカーな友達をかばっているんだろう。
実は私、ここ数か月、目の前にいるフードを目深にかぶっている黒マント野郎にストーキングされていたりする。
気が付くと、視界の端に黒マント野郎がいるのだ。
職場だろうが、通勤路だろうが、カフェだろうが、カルチャースクールだろうが。
一言も話しかけてこないし、気味が悪くて仕方なかった。
ある一定以上近付いて来ないし、警察に通報しても無駄だったし、もうホント、最低で。
自分の頭がおかしくなったのかと思って、病院に行ったし。
「死神設定ね。あー、はいはい。で?」
「だから、こいつと付き合って欲しいんだ」
「はあ?」
付き合え?
このストーカーと?
「いやいやいや。ストーカーとは無理だって」
「断ったら、ストーカーが続きますよ」
「いや、無理だから。ストーカーなんか無理だから。ヤンデレは二次元限定だから」
「ストーカーじゃないから。こいつは話しかけられなかっただけだから。話しかけて君をウッカリ死なせたくないだけなんです」
「美しすぎるって言っても、あなたが勝手に言ってるだけだし」
フードを深くかぶっているから、顔見えないし、ウッカリ死なせてしまう美貌かどうか、わからないし。
「いや。ホント、こいつの顔ヤバいから」
「もういいよ」
ストーカー黒マント野郎が初めて口を開いた。すべてを諦めたような投げやりな声は人気声優のように聞き惚れてしまうようないい声だ。
「信じられないのもわかる。顔をさらせない、声もかけられない相手のことなんか信じられないもんな」
そう言って、ストーカー黒マント野郎はフードを脱いだ。下にあったのは黒髪と骸骨の仮面。
「?!!!」
なんだこりゃ?!
ますます信じられない。
やっぱり、外人さんたちにかつがれたんだ。
日本語もペラペラで母国語のように流暢だし、日本の文化にどっぷり浸かった日本通なんだろう。
日本在住何年目の外人さんなんだろう?
「おい、よせ! やめろ!」
自称死神の外人さんが慌てて止める。
「死なせたくないって思ったから話しかけなかったのがいけなかったんだ。始めからこうしていればよかったんだ」
声からして、なんかヤバイ感じがする。
私は二人から逃げ出そうとした。でも、その前に骸骨の仮面が外され、ストーカー野郎の顔が見え――――
「またあなたですか」
溜め息を吐くのは寿命の蝋燭を管理する死神。その部屋には人間たちの寿命の蝋燭が所狭しと置かれている。
「つい、ウッカリ殺すのは止めてくださいと言ったでしょう? これでまた異世界転生の手続きをとらなくてはいけなくなりますね・・・」
小言を言い飽きた寿命の蝋燭を管理する死神は異世界転生の手続きの手順を思い浮かべる。
「それは必要ありません。彼女はわたしと一緒にいてくれると約束してくれました」
「それはどういう意味ですか?」
「彼女はわたしのことが知りたい、信じられるようにして欲しいと言ったんです」
「・・・合意の上で死んだのですか。それなら異世界転生させる必要はありませんね」
仕事が減って安堵する寿命の蝋燭を管理する死神。
寿命の蝋燭の館を後にし、軽い足取りで自宅に戻る死神を同僚の死神は溜め息で見送る。
美しすぎる死神はこうして愛しい彼女を手に入れた。