表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/12

第五話 三年前の遅い雨

第五話です。

蛍の一言に思うことがあって黙ってしまっためぐり。

家に帰ったあと、思い返すのは過去の出来事。

第五話 三年前の遅い雨



 蛍が帰った後、めぐりは何事もなかった顔で、玄関をくぐった。フォーチュンを籠に戻し、祖母と夕ご飯を食べ、一日の疲れを風呂場で流し、自分の部屋のベッドにばふんと倒れこんだ。濡れた髪を乾かさないと寝られないと分かっていたが、ごろんと寝返りを打つ。枕がじっとり湿る前に起き上がる。目の前に・・・色あせた写真立て。そこに映るのは、めぐりと・・・。


「お父さん・・・。お母さん・・・。」


  ☆ ☆ ☆


(回想)

 私の両親は私が7歳の時に喧嘩をして別々に別れてしまった。幼いあの頃は分からなかったけれど、離婚したのだ。私はお父さんにもお母さんにも「一緒においで」と言われず、仕事に行くと思っていたお父さんを見送り、学校に向かう私をお母さんが見送ってくれた。帰ってきたら家には誰もいなくて、買い物に行ったのかと思っていた。お菓子の袋を開けて食べていた。夜になっても帰ってこない。夜の8時頃にはもう眠くて眠くて、座布団を並べてそこに寝転んだ。まだかなぁ、遅いなぁと思いながら私はあっさりと眠ってしまった。

 起きていたことのない夜の1時。ゆさゆさと揺れる夢の中。お父さんとお母さんが違う方向に歩いていく。はっと目を覚ました時には二人ともいなくて、おばあちゃんがぎゅっと抱き締めてくれていた。おかげで暖かかったけれど、お父さんとお母さんが喧嘩して、仲直りできなくて、バラバラになってしまったことを聞かされた。

「それって、ずっと?」

「そんなことないよ。今はどっちも素直になれないだけだよ。仲直りできるよ。そうしたらめぐちゃんとまた過ごせるよ」

 おばあちゃんはそう言って、「起こしてごめんね。明日学校だよね。おやすみ」と歌を歌ってくれたけど、私はお父さんとお母さんが心配ですぐには眠れなかった。


 以来、私はおばあちゃんの家に迎えられた。大きな大きな家に。参観日や運動会など、おばあちゃんが来てくれた。友達のりっちゃんや貴臣と遊んでいたし、学校も楽しかったから、両親のいない寂しさは周りにあまり伝わらなかった。伝えたいことでもなかった。お父さんとお母さんは優しいんだよ!は自慢になるけど、お父さんとお母さんは今喧嘩中で家にいないんだ!は自慢でもなんでもない。知っているのは、りっちゃんの家の人と貴臣の家の人、それぐらいだった。


 3年後、私は小学四年生になった。クラブ活動が始まり、ウォーキングクラブに入った。先生についていきながら、町を色んな道を通って知るのが楽しかった。学校から離れた所に雀や鳩もいた。鳥が好きな私は写真も撮りたくて、先生の携帯電話で撮ってもらって眺めたが、自分のものには出来なくて少し悔しかった思い出もある。家に帰って、おばあちゃんにクラブのこと、学校のことを話すのが当たり前の日々。フォーチュンにはクラブの時に出会った鳥たちのことを話した。

 ある日、学校から帰ってきたら、居間でおばあちゃんが誰かと電話をしていた。お隣の和田さんかな?それとも向かいの井上さん?おばあちゃんは鼻をすすりながら、少し震えてお話をしていた。リン、と電話を切る音。「誰と話していたの?」と私が興味津々で、あと少し心配しながら聞いた。おばあちゃんは机の上のティッシュを掴んで、鼻水をビィーッとかんでから答えてくれた。

「めぐちゃん。とってもいいことがあるよ」

「何?冷蔵庫にケーキがあるの?それともうちにうぐいすが来たの?」

「もっともっといいことだよ。めぐちゃんのお父さんとお母さんがね、仲直りしたんだって!」

 私は、今まで七夕の短冊やサンタクロースにお願いしていたことがぶわっと思い出せて、ケーキよりうぐいすよりずっと嬉しかった。お父さんとお母さんが!仲直りしたんだって!じゃあ私、またお父さんとお母さんと一緒に暮らせるんだね!私はぴょんぴょん跳ねた。ランドセルを背負ったままだったから、肩に食い込んで痛かったけど全然気にしなかった。ランドセルを下ろして再び跳ねる。

「ねえねえ、今度はおばあちゃんも一緒におうちで暮らそうよ!」

「ふふ、そうだねぇ。今、お父さんとお母さんが会ってお話ししているんだよ。仲直りして、これからのことを話すために」

「私も会いたい!」

「お話が終わってからね。今夜は雨が降る予報だから、傘を持っていって迎えに行く?」

「行くー!」


 私は自分の差す傘と、お父さんとお母さんの分の傘と、おばあちゃんの傘を確認しに玄関に走っていった。ちゃんとある。今日はとっても素敵な日!早く夜にならないかな、今から雨が降っちゃえば、傘を差してお迎えに行けるのに。




 雨が降ったのは夜の11時。私がうとうとしながら、二人が「ただいま」と帰って来るのを待っていた11時。テレビをなんとなくつけていた11時。ニュースが流れる。


『ホテル火災 逃げ遅れた夫婦 遺体発見』


 10歳の私に、読める漢字は少なかった。目も全然開かなかったし、ぼんやりとそのニュースを聞いてた。おばあちゃんがお茶をこぼしていた。ティッシュを渡しても拭かなかった。

 おばあちゃんは電話をかけていた。何度も何度もかけていた。井上さんにも和田さんにもかけていたらしいけど、時間が時間で出てくれなかった。お母さんのお母さんにもかけていた。繋がったらしい。小さな声でぼそぼそと喋るおばあちゃん。でもすぐに静かになった。おばあちゃんは─泣いていた。私はなんで泣いてるのか分からなかった。ニュースは流れている。


『消防隊が駆け付け、消火を進めたが風も強く、高層階までホースの水が届かなかった模様。夫婦の身許が分かる物がなく、現在捜査中。なお、先ほど降ってきた雨もあり、今は沈下しております。もう少しこの雨が早かったら…と現場の方たちは呟いております。ですが、原因は花火の不始末によるものだと・・・・・・』


 もう少しこの雨が早かったら・・・?

 それは誰なの?誰がどうなったの?

 ねぇおばあちゃん、誰がどうなったの?なんで泣いてるの?私に教えて。


「めぐちゃん・・・。」

「うん」

「お父さんとお母さん、迎えに行こうか。雨、降ってきちゃったしね」

「うん!」




 迎えに来て、お父さんたちを見つけるためにきょろきょろしていた私は、怖い顔した刑事さんたちが話しているのを聞いてしまった。


「遺体の身許が分かりました。」

「よく分かったな。」

「フロントで預かっていた貴重品に、名前入りのアルバムが残っていたんです。」

「それで、誰なんだ?手を繋いで亡くなっていた、あの夫婦は。」

「名前が・・・


・・・(ひわ) 景一(けいいち)さんと、(ひわ) 宣子(のりこ)さんと見て、間違いないでしょう。あと一人名前があるんですが、ここには来ていないようです。」

「あと一人?」

「鶸 めぐりさん、どうやら娘さんのようです。」

「娘残して二人で逝っちまったのか。自殺じゃないにしろ、後味が悪すぎるなァ・・・。」

「その子にどう説明しましょうか・・・。」

「他に保護者がいるだろう。その人に事情聴取と説明だ。」

「わかりました。」


 雨の音が、強く深く、耳に残った。ザァァと強く降り注ぐ雨。・・・もっと。・・・もっと早く降ってよ。そうしたら、もしかしたら・・・。遅いよ、今さらなんて、もっと、もっと・・・!!


 最後に覚えているのは、水たまりに座り込んでびしょびしょになって泣いてる私を、おばあちゃんがぎゅっと抱き締めてくれていたこと。刑事さんたちの話ももう忘れてしまった。

 遅すぎたあの雨を、あんなに恨んだことはない。もし自分が自由に雨を降らせることが出来たなら。そう思ったことが確かにある。でも悪いのは雨じゃなく、花火の不始末という行為。でも、雨が悪い気がしたんだ。誰かのせいにしたかったんだ。



  ☆ ☆ ☆


(現在)

「・・・・・・あっ!! 寝てた!?」


 髪を乾かさないと寝られない。ドライヤーのゴオオオという温風にさらす。冷たくなった足の先。涙のあとが残ってる頬。目をこすれば赤くなる。


「・・・トメドナ・・・、雨・・・か・・・。」


 私がいつか願ったことがこの力の原因ならば。私が次に何をするか。とりあえず、特訓だ。


「おやすみなさい。」


 誰に言うでもなく、めぐりは部屋の電気を消して、ぬいぐるみに寄り添い、眠った。



(続く)

次回予告:

誰にも迷惑をかけないよう、誰かの助けになれるよう、トメドナの特訓に密かに励むめぐり。

蛍のサポートや隔離街の雫に助けられ、目には見えなくても少しずつトメドナの力に慣れていく。

そんな中、遠い島からやってきた少年がニュース速報され?



お久しぶりです。次はもっと早めに…です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ