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第六話 緑のトメドナ(後編)

第六話(後編)です。

テレビで中継された海を渡る少年。海を割って生まれる大地を踏みしめて走ってくる彼には、トメドナの紋様が見えた。

敵か味方か分からないまま、少年は明るい声で名乗ったが…。

第六話 緑のトメドナ(後編)



 いきなり自己紹介にとんできた少年、(しん)は目を輝かせてめぐりに尋ねる。


「なぁなぁ!ここどこ?なんて島?」

「し、島?」

「家族がいっぱいいるんだな、ここ!俺が住んでる島にも負けないくらい、」

「ちょ、ちょっと待って!あなたこそ、どこから来たの?」

「ん?この道を真っ直ぐ戻ると…」


 言葉の勢いに押されかけるが、こちらも聞きたいことが山ほどある。ひとまず、どこからどうやって来たのかを問い掛けると、彼は自分が走ってきた道を指さして答える。しかし、それでは到底納得できない蛍が二人の間に割って入る。


「その道は最初なかったはずだ。一体何をしたんだ?」

「何って?ここに来てみたくて来ただけだぞ?」

「だから、道なんてこの海になかっただろって言ってるんだよ!」

「うん。なかったな。でも俺泳げないし、船見たかったし」

「俺の質問分かってるのか…?」


 どうにも会話が噛み合わない。お気楽な新に苛つき気味の蛍。めぐりはハラハラしながら聞いていたが、報道陣が二人の様子に気づきひそひそと話し合ってるのを見て、慌てて仲裁する。


「まーまー!ここで喧嘩しちゃ人目につくよ!蛍も落ち着いて。万さんにこれからどうすればいいか聞いてみようよ」

「言われなくてもそのつもりだ」

「友達だろ!仲良く仲良く!」

「ちょっとあなたは黙ってて!」


 本部に連絡し万有院の指示を待つ間、新は特に珍しくもない普通の漁船を、初めて車を見た子どものように見ていた。と言っても、車も初めて見るようで、とんでもない島から来たのは確かなようだ。



  ☆ ☆ ☆



 万有院にその少年を連れてくるように言われ、道中勝手に行動しようとする彼を引っ張ってきためぐり達。本部に辿り着くと、新はまたもや目を輝かせる。


「でっけー家!誰の?」


 蛍は質問に答えず、無言で中に入る。めぐりも質問には答えずに引率だけする。二人とも既に満身創痍だった。

 階段を上り、二階の応接間へ。万有院が椅子に座って待っていた。相変わらずサングラスを掛けていて視線が合わない。それでも高圧的に見えなくなったのは、知り合ってしばらく経つからだろうか。


「万さん、ただいま戻りました」

「こんにちは、お久しぶりです」

「ああ。おかえり蛍、めぐりさん」

「誰?」


 誰が相手だろうと物怖じしない新。彼はどうやら人見知りなんてしないようだ。


「私は万有院。ここの管理をしている」

「へー!俺は地核 新!よろしくな、えーっと、万さん?」

「あぁ」


 初対面だろうと年上だろうと友達のように接する新に、再度苛つく蛍をめぐりが抑える。自分も思うところはあるが、彼がどういう人間なのかまだ分からない。


「君にいくつか質問をしよう」

「なんだ?」

「君はどうしてここへ来たのかな?」

「最近こっちの方で変なことが起きてるって聞いたからさ、気になって来てみた。あと、船っていうのを近くで見てみたくて。やっぱでっけーんだな!」

「変なこととは?」

「変なことは変なことだよ。ちゃんと知らないから気になったんだ」


 新の言う変なこととは、トメドナによる現象のことだろう。だが、トメドナについて知っている素振りはない。彼もめぐりと同じ、無自覚の可能性がある。


「君はどこから来たのかな?」

「島だよ。ここからちょっと遠い所にあるんだ。周りがぐるーっと海なんだ」

「ってことは…海洋国?」

「海洋国ってなんだ?」

「ごめんなんでもない」


 いまいち分からないが、彼が言うにはその島で生まれ育ち、島の外には今まで出なかったらしい。だからこれほどまでに世間知らずなのだろう。船を近くで見てみたい、というのも島に船がないのでは?と考えると、生活はどうなっているんだろう…。


「船は陸から来るって分かって、じゃあその陸はどこにあるんだろうって考えてたら、ここで変なことが起きてるって聞いて、で、来た!」

「それは誰に聞いたんだい?」

「たまに来る船のおっちゃんに。おっちゃんは食べ物とか水とかくれたり、天気とか魚の様子とか教えてくれるんだ。でも島には残らないで帰っちゃうから…」

「なるほど……」


 少し寂しそうな表情になる新。自分の生きていた世界が広いと思っていたらちっぽけだったことを知った。それは愕然と同時に興味が芽生えただろう。彼は興味の方が強かっただろうが。

 万有院と新が友好的に話を進める中、まだ疑いの目を向ける蛍と、居たたまれないめぐり。このままでは一番気になる点を聞けないのでは…?とめぐりが思っていたら、蛍がしっかりと刺した。


「万さん、一番確認したいことを聞いていません」

「あぁ。そうだな」

「ん?」

「さっきも聞いたが、お前はあの道をどうやって出した?お前が作ったんだろ?」

「俺が作った?」


 一回目の質問と同じ返しをされても困るので、中継時の映像を見せる。上空からばっちり捉えられている、足を出す瞬間に隆起した大地。それは現在も海に在るままだ。


「お前が島からここに来る時に、海の上を渡って来たあの道。どう考えても人間業じゃないし、自然現象でもない。だとすれば、お前の意思で作り出したもののはず。どうなんだ」

「俺が?ん?ん~?」


 蛍の問いに答えられず、何故か考え出してしまう新。

 すると、生中継の映像からどよめきが聞こえた。見ると、ブロック状に隆起して道となっていた不思議な大地が忽然と消えていた。ヘリから見下ろす局員の目及び、この映像を見ている人達にもあの道はもう視認できない。めぐり達も驚き画面に釘付けになったが、そこにはいつもと変わらぬ海があるだけだった。


「これは一体…?」

「どうして急に消えちゃったんだろう…?」

「うーん、あれは俺が作った?」

「えっまだ考えてたの?」

「なんなんだお前……」

「ふむ…もしかすると…」


 いつまでたっても答えを出さない新に対し、苛々を通り越して呆れてしまう。…いや。ひょっとして、出さないのではなく、出せないのでは?




 彼の話しぶりや映像の解析から、万有院も蛍の推測と同じく、新の力は『道や大地を生み出し続ける』緑のトメドナ、と断定。そして本人は自分の力について真面目に考えたことはなく、原理などは聞かれても答えられない。今起きた事を踏まえて考えると、緑のトメドナの解除条件は、自分の能力に疑問を持った時、ではないだろうかと推測される。その解除条件である以上、今後も深く考えさせては二次災害に発展する可能性がある。

 発動条件はめぐりと同じく、本人の意思に関係なく条件が揃えば自動的に発動される、最も多い発動方法だろう。だから、真面目に考えなくても新の気持ち次第で発動する。本人はそれが普通だと思って過ごしてきたのなら、今さら考えたって答えは出やしないのだ。


「お前、これからどうする気だ」


 蛍が言った。低く、冷たい声色で。隣にいためぐりも、背筋に緊張を覚える。無責任だったあの頃の自分に届いている気がした。しかし、新は気に留めない様子で答える。


「来たばっかりだからな~。島にはまだ帰らない。ここの色んな所見たり、あっ、変なことが起きたの知ってるか?それも教えて欲しい!」

「お前今の立場分かってるのか」

「立場?」

「その力で自分の好き勝手にしてきたようだが、もうそうはいかない。他人に迷惑をかける前に、ここで特訓してもらう」

「特訓?楽しそうだな!でもなんで?」

「地核…っ!」


 一触即発の雰囲気に押し潰されそうだ。めぐりは仲裁に入れないし、万有院は止めずに静観している。気が昂ぶって椅子から立ち上がった蛍が、新に掴みかかりそうになってやっと「やめなさい」と言った。彼に諭され、蛍はゆっくりと座り直す。


「地核君」

「うん?」

「君がこれからどうするのかは君次第だが、私は君に教えたいことがある。しばらくの間、ここにいなさい。寝泊まりする場所が必要だろう」

「そうなのか?分かった!」

「蛍、めぐりさん、今日はもうお開きで構わない。また集合をかける」

「…はい」

「…分かりました」


 にこにこしている新に苛立ちを隠せない蛍だったが、ようやくめぐりの様子に気がついた。体が震えていて何かに怯えている。何か、それは先程の自分の態度だろう。立ち上がれない彼女に手を貸す。帰ろうとする二人に新が声を掛ける。


「なぁ、またお前らに会えるか?」

「…」

「会えるよ。だって同じだもの」

「何が?」

「はぁ…。とりあえず、よろしくね。あたし、鶸 めぐり。」

「…」

「えっと、この人は照下 蛍。」

「おう!仲良くしようぜ!めぐり!蛍!」

「…多分あたし達、新君より年上だと思うんだけど…」

「だって友達だろ?」

「誰がだ!」

「ほ、蛍!」



 絹浦に突如として現れた、新たな仲間と新たなトメドナ。果たして、めぐりは自分のトメドナの制御を出来るようになるだろうか。いや、それよりこの二人、これから大丈夫なのだろうか…。



(続く)

次回予告:

めぐり以上に、トメドナについて考えていないお気楽な新。今後の彼の言動、及び行動に注意が必要になりそうだ。それにしても、蛍と新は相性が良くないようで…。

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