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第六話 緑のトメドナ(前編)

第六話(前編)です。

自らの意思で制御するためにも、トメドナの特訓に励むめぐりと、彼女を支える隔離街の者達。

そしてある日、新たな力と仲間の予感…?

第六話 緑のトメドナ(前編)



 雨が降り、雷が鳴った。そんな夜は幾日も過ぎる。朝になれば雲は立ち去り、暖かな太陽がゆっくりと現れ、春の風を運び込む。

 今日は日曜日。めぐりは一人で隔離街への行き方を覚えて、蛍と合流し特訓に打ち込むようになった。彼が本部にいる時は、陽本の戸を叩き、雫に見てもらった。特訓を始めた頃は何も変化しなかった。めぐりの実力不足もあり、発動方法が決まって間もないこともあり、どれだけ雨を降らせたいと思っても一滴も落ちてこなかった。蛍は「肩を落とすことはない。真剣に向き合うことが大切なんだ」と励まし、雫も頷いた。めぐりも極力落ち込まないように努め、熱心に特訓に望んだ。集中力と精神力が削られるため、見かねた雫が街を抜け、お菓子を買ってきてひと休み。その最中、話が弾むのも楽しかった。事情を知る街の住民が集まり、友好の輪は徐々に広がった。

 トメドナの紋様は現すことが出来たが、隠すことはまだまだ遠い技術だ。落ち込まない、時間はたっぷりあるのだから!と燃えるめぐりを、住民たちは大いに応援した。



  ☆ ☆ ☆



「おはようめぐり!あれ?寝不足?」

「おはよう有海ちゃん…。ううん大丈夫…。」


 学校生活が再び始まる月曜日。家に帰った後、蛍が教えてくれた自主的訓練をノートにまとめたり、おばあちゃんから隠れて行ったり、気疲れした状態で眠ったせいか…。国語、社会、理科、数学の授業中、眠りそうになって仕方がなかった。うとうとしてノートの記述は歪んで、先生に当てられた時全く耳に入ってきていなかったため、璃乃に聞いてなんとか乗りきった。

 そして、昼休みの時間─。


「璃乃~。あたしにも問題の答え教えてー」

「ダメだよ。有海ちゃん元気いっぱいなんだから。めぐり、大丈夫?おにぎり落とすよ?」

「えっ?わっ、と」


 五時間目の英語の授業最初に行う小テストに向けて、三人で話ながら食べていた。いや、食べながら話していた。今日のおにぎりの具は鮭。お腹が空いているのは間違いないが、食べるとまた眠くなるのでは?窓の外を見ても、何の変わりはない。


「簡単な対策でいいからさっ。お願い!」

「真面目に一つずつ覚えなよ。ご飯食べたら…」


 なんだかんだ言いつつ、優しい璃乃が昼休みに教えると言う前に、クラスメイトの武市が教室に飛び込んできた。


「テレビテレビ、テレビ点けろ!」

「今度はなんだ!?」

「先生に怒られるって言ってるでしょー!?」


 先日と同じような流れでリモコンをぶん取り、チャンネルを変える武市。ニュース速報が映る。


「何?また中継?」

「海を走る少年だってよ!」


 「海を走る少年?」と、教室に残る生徒大半の声が重なった。一体どういう事だと、各々が席を立ちテレビのある場所に近づく。中継はだんだんとピントが合って、真っ青な海一面の左下に、不自然な岩肌色を発見。そしてその上を走るのは…。


「何?これ…。」

「生き物?確かに人っぽい」


 中継はヘリコプターからで、乗員している局員が「絹浦市の港に向かっている物体は生きている人間のようです!しかしこの道は何なのでしょうか!?橋は建造されていない海に、突如現れた道…大地です!」と報道する。絹浦市の港まではあと5㎞くらいの距離だが、少年は足を止めることなくどんどん進む。不思議なことに、少年が海に足を出す瞬間に大地が隆起している様に見える。だが、そんな魔法じみた現象はあり得ない。


「こちらの声が聞こえるか、質問をしてみようと思います!!すみませーん!聞こえますかー!!」


 局員が搭載しているスピーカーを大音量にし、少年がいる辺りに音波を流してみると、少年は上空のヘリコプターに気づいたようで手を振ってきた。少年側が何を言っているかは分からないが、彼はあまり気に留めず、走るのを止めない。一直線に向かってくるその足は、ブロック状に隆起して道となる地を踏んでいく。


「なんなんだ…?怖くね…?」

「どうするんだろう、攻撃するのかな…?」

「そんなことしないだろうな。様子見じゃないか?普通の人っぽいし」


 クラスメイトがざわざわする中、めぐりはお弁当を食べることに集中していて、やっと食べ終わってテレビを見た。大体はナレーションを聞いていて分かったが、この情報は見なければ分からなかった。走っている少年の後ろに回り込んだヘリコプター。カメラが捉えた背中に、変な模様が…。


「あーっ!」


 思わず叫んでしまい、クラスメイトの注目を一気に浴びた。あれは模様ではない。能力者、及び可視化の者にしか見えない、トメドナの紋様だった。


「どうしたの!?」

「な、なんでもない」

「なんでもないわけないでしょ!?」

「いや、本当、局員の人が誰かに似てたなぁってだけで」

「なんだ、驚かすなよ…。」


 騒然とした空気は、教師に見つかり注意を受け、一旦落ち着いた。しかし、めぐりの心中は、午後の授業中も落ち着くことはなかった。



  ☆ ☆ ☆



 今日の授業が終わり、放課後、めぐりは真っ直ぐに隔離街へ向かった。一刻も早く、蛍に話したかったのである。勿論それはトメドナを持つべき者として当然で、めぐりが隔離街に辿り着くどころか本部の前を通ろうとした時に、蛍と合流した。万有院の要請もあり本部から出てきた蛍は、めぐりにも声を掛けるつもりで出てきたのだという。二人は一緒に絹浦の港に走った。

 港に着いて、同時に少年が降り立った。少年を恐る恐る見守る港の人達。記者達は恐れながらも徐々に距離を詰め取り囲んでいるようだ。しかし、少年は海の上を走ってきた時と同じく、周りの人間の様子を気にせず、船ばかり見ている。


「お!? これが船かー! でっけぇなー!」


 はしゃぎ回り、好奇心のままに行動する少年を目で追う。声が出せないぐらい驚いて何も言えないめぐりの横に蛍が並んだ。彼女に問いかける。


「めぐり、見えるか?」

「…う、うん。」


 降り立った謎の少年の背中には、昼休みの中継で見た時と全く同じ、トメドナの紋様が浮き上がっていた。光の色は…緑。


「大地を生み出し続ける力…ということなのか?」


 蛍の推測はあくまで独り言だったが、船にしか興味を示さなかった少年は、周りの大人達には目もくれず、めぐりと蛍の元へ走ってきた。


「よう!」

「だ、誰?ですか?」

「俺?俺は地核(ちかく) (しん)!よろしくな!」



 (後編につづく)




次回予告:

新と名乗る少年は、船だけでなくめぐり達にも興味を示した。彼は一体どこからどうやって来たのか。質問をしてもなかなか話が噛み合わず、そもそも、トメドナを知っているのか…?

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