先輩、このお話は全年齢向けなので安心してくださいね
※このお話は全年齢向けです。
「ふぅっ……! くっ……ふっ!」
必死に声を殺し、熱を散らすように身をよじるシュウ。
それを楽しげに見ながら、カレンはいっそう攻めを強める。
「いけないですよ先輩、もっと頑張って我慢しないと、可愛い声が外にいるルナちゃんに聞かれちゃいますよ?」
「カレ、もうっ……許し、てくれ!」
「ええー? だって、どんな辱めにも堪えるくださるんじゃなかったんですか?」
シュウは自分の上に跨るカレンに懇願するも、すげなく断られる。
恥ずかしさのあまり顔を隠そうと腕で覆うとするが、それもカレンは邪魔してしまう。
「ほらほら、生徒会会長として、九神道家の跡取りとして、もっと頑張ってみせてくださいよぅ!」
「カレン、本当に……っ!」
「うーん、そこまでいうのなら、いったん休憩にしましょうか?」
こくこくと必死に頷くシュウ。
「わかりました、あんまりやると先輩が泣き出しちゃいそうですしね」
カレンが動きを止めると、安堵したようにシュウは強張らせていた体から力を抜く。
「……それにしても先輩って、本当になめらかな肌をしていますよね。触っていて気持ち良いです」
注意されないのをいいことに、シュウの端正な筋肉のついた胸板の感触を撫ですさって楽しむカレン。
その間も、視線だけはシュウの端正な美貌に釘付けだった。
ほのかに赤くなった目尻は、シュウの切れ長の目を色っぽく彩っていた。涙に濡れた黒色の瞳は、羞恥心に負けてカレンから逸らされている。普段ならば凛とした印象を与える秀美な眉は、苦しげに寄せられている。
やわらかなくちびるの間からは、浅く短い息が漏れていた。
「ふっ……ぅ……」
休憩の間にどうにか息を整えようとしているらしいシュウに気がつくと、カレンは意地悪に微笑む。
完全に油断しきっている姿に、抑えようもなく嗜虐心が刺激されたのだ。
「あ、先輩、もうお休みは終わりですよ?」
「カレン、待っ、ふぅっ……!」
「ごめんなさい、聞こえないですぅ」
小さくて細い手をシュウの素肌のうえへ滑らせると――カレンは的確に弱いところを狙って、くすぐっていた。
「――ふふ、先輩ったら、本当にこちょこちょに弱いんですから!」
カレンがすっかり満足したころには、シュウは疲労困憊して起き上がることもできなかった。
「……ふぅ、先輩、ご苦労さまでした」
なにか大事なものを失った気分のシュウには、返事をする気力さえない。
「んん、ごちそうさまでしたというべきでしょうか?」
小さな頭をちょこんと傾げるカレンが、いまは悪魔のように見える。
呆然としていると――少しだけ、本当に少しだけ不安そうな声音で、カレンが、
「先輩、やっぱり怒っていらっしゃるんですね」
「――そんなことはない」
気だるい体をなんとか持ち上げたシュウは、しゅんと項垂れるカレンに、決然とした声をかける。
「少しでも君の役に立てたなら、それでいい。……その、プライベートな場所でなら、また好きにしてくれ」
後半の言葉を言い切るのにはなかなかの勇気が必要だったが、それでもカレンに微笑みかけることができた。
紅茶を十杯は入れられる時間くすぐられた後にしては、上出来な返事ができたとシュウは自分を評価する。
「先輩、なんて健気な……!」
感動に身を震わせたカレンは、その言葉を待っていたとばかりに、
「では手ぬるいのは今日で最後にして、次からはもっともっと激しいのをいかせてくださいね」と舐めるような視線でシュウを見る。
「手ぬるい?」
愕然とした声を上げてしまう。
「ええ、まだまだ先輩にしていただきたいことはたっくさんありますし、今日はその中でもソフトなのを選びました」
「ソフト……」
その上が想像できずに、絶望に満ちた表情になるシュウ。
「そうですよ? あんなことで根を上げていたら、七十八万二千三十九周めのシュウ先輩に笑われてしまいますよ」
「その俺に君はなにをしたんだ……」
「えっ、聞きたいですか? かなりえぐいですけど」
珍しく、本気の迷いを見せるカレン。いつもなら喜々と話すというのに、だ。
ただならぬ雰囲気を感じて、「いや、遠慮させてくれ」とシュウはすぐに断った。
「ああ、よかったです。監禁の末に精神崩壊してしまったあのシュウ先輩の話は、さすがに憚られるので。私も狂気に呑まれていたから手加減がなかったんですよ」
「……頼む。なにもいわないでくれ」
まあともかく、と嬉しそうに両手をカレンは打ち合わせる。
「私、シュウ先輩の体のことなら、なーんでも知っているんです」
まったく嬉しくない宣言をしてから、カレンは「あっ」と声を上げてぶるりと震えた。
「……どうしたんだ?」
「いえ、いまのセリフ、よかったなと思いまして」
こほんと咳払いをすると、カレンはもう一度言い直す。
「私、シュウ先輩の体のことなら、先輩さえ知らないようなところまで、隅から隅まで、どこまでも研究し尽くして熟知しているんです」
ほんのりと赤くなった頬に両手を当てるカレンは、ふぅと熱い吐息を漏らした。
「ですから、先輩が壊れずに堕ちてきてくれるように少しずーつ慣らしていきますから、安心してくださいね」
安心できるわけがないとさすがに言いたくなるも、カレンは口を挟むことを許さない勢いでひとり喋り続ける。
「はぅっ……それにしても、先輩が自らお触りさせてくれるパターンは初めてです。あと十万周はこれの繰り返しで狂わずに済みます」
恍惚とした表情と希望にきらきら輝く瞳をシュウに向けながら、未来に心躍らせるカレン。
いろいろと突っ込みどころはあったものの、とりあえず幸せそうにしているのでいいかとシュウは自分を納得させてしまう。相当に毒されてきているのだろう。
「これである程度狂気は減らせたということだろうか? できれば、いますぐにでも失踪した生徒たちのところに案内してもらえると助かるのだけれど」
「その件に関しては、私は今夜にでも三人を連れ帰るので任せてください」
「――駄目だ」
シュウは厳しい表情で、取りつく島もなく却下する。
「私が信用できませんか?」
「違う。危険すぎるからだ」
「大丈夫ですよ、いままで何回も成功してきましたし」
「もしかしたらその記憶自体がカレンをひとりでおびき出すために、捏造されたものかもしれない。俺も同行させてもらう」
こうなると、シュウが意見を変えない人間だと知っているのだろう。カレンは渋々といった表情で、了承した。
「ただし、その場合二つばかり条件があります」
「聞かせてくれ」
「まず、アシュリー君とディーデリッヒさんに今回の事件について釈明する役割を、私に任せてください」
そのことにどのような意味があるのか、シュウはしばらく思案する。
けれど結局、余計な詮索をすべきではないという結論に出た。ここでカレンに説明を求めれば、また彼女のなかのデジャビュを溜める原因になってしまうかもしれない。さらにいえば、協力を申し出るカレンを信用できていないということになってしまう。
「いいだろう。生徒会副会長に、その仕事を一任する」
「ええ、完璧にこなすので期待していてくださいね」
もうひとつはなんだろう、とシュウは身構えながら次の言葉を待つ。
至極真剣な表情をしていたカレンは、やがていたずらっぽく笑うと、
「あと、先輩がおやすみしていては連れていけないので、必ず起きていてくださいね」
勿体ぶったわりには当たり前の要求だった。
肩の力を抜いたシュウは、「了解した」と嘆息しながらいう。
「そうですか? ちゃんと夜が更けても起きていてくださいよ?」
「子どもじゃないんだから、起きていられるに決まっているだろう」
それにしても、カレンの口ぶりからして、決行は夜でなければいけないようだった。
――夜にならなければ開かないところ、ということか?
シュウは候補地をいくつか思い浮かべてみるが、どこも当たりだとは考えられなかった。
「あのぅ……?」
と、おずおずとした声が、扉を隔てて投げかけられる。
甘く柔らかい声は、ルナのものだ。
彼女がまだ自分達を待っていたとは露知らず、シュウは驚く。
「カレン、もしかして彼女はずっと外で待っていたのか?」
「ええ、先輩が喘いでいる間も何度か声をかけてくれていましたよ。……シュウ先輩の可愛らしい声が、聞かれていなかったといいですねぇ?」
あまりの恥辱に、目が眩むのを感じた。
それから、ようやくシュウは自分の服装に注意が向いた。
いつのまにかシャツはほとんど剥ぎ取られ、上半身がさらけ出されていた。さらにいえば、汗も掻いているし、髪も乱れている。
生徒会会長として許しがたい、風紀を乱すような格好だ。
「――ふふ、なんだか勘違いされちゃそうですね」
恨めしい気持ちで、顔を綻ばせているカレンを見る。
けれどルナをこれ以上待たせるわけにはいかないと、シュウはいそいそと身だしなみを整え始めた。その間もカレンは食い入るようにこちらを見るものだから居心地は悪いけれど、四の五の言っていられる状況ではなかった。
「ふぇ、あのぅ、入ってしまってもよろしいでしょうか?」
待ってくれとシュウが口を開く前に、カレンがすかさず返事してしまう。
「ええ、どうぞどうぞ」
「なっ……!」
扉は間髪入れずに開かれ、入ってきたルナは驚きに固まった。
カレンの暴走は止まらない……。
たまにはこんなヒロインがいてもいいのではと思い書きましたが、ドン引きされていないか不安です。
ちゃんとシリアスな構成も考えているので、気長に付き合ってもらえると嬉しいです。カレンのセクハラパートが挟まれてしまいますが……。




