礼~終焉は唐突にその姿を現す~
またまたファンタジー始めました。
今度はチート転生です。
至恩くんの活躍を、どうぞお楽しみください……
転生したら、チートになりました。
けど、自分なりに努力をして今度こそ幸せをつかもうと思います。
俺、水無月至恩は三十代半ばの契約社員だ。
何のへんてつもない、他にいくらでも代わりがいるようなただの社畜。
それが現代を生きる俺だ。
とはいえ、俺はその事にたいして特に不満を持ってはいない。
一応衣食住は確保できており、なまじ顔だけはましなため人並みには女遊びの経験はある。
付き合って数年たつ彼女もいないと言えば嘘になる。
お世辞にも綺麗とは言えない見た目ではあるが、綺麗好きで清楚ないい女だ。
彼女、というよりはパートナーのような存在であり結婚しようとまではいかないが、俺も彼女も今の距離感に不満はないし、悪い気はしていない。
また、社畜とは言ったものの俺の勤める会社はなかなかの大手企業であり、給料も悪くはない。
男一人が一軒家に住めたり、彼女とデートをしたり飲み会に行って奢ってやれるほどの給料はもらっている。
だから俺は、今の生活にたいして特に不満は持ち合わせていないのだ。
それに、会社の雰囲気も悪くはない。
上司は優しいし、周りのやつらも俺のことを信用し、頼りにしてくれている。
そのうち上に話して係長にでもしてやるよ。と上司や先輩にも言われている。
俺の生活は、極めて充実したものだった。
だが、人というのは貪欲なもので。
どんなに満たされた場所にいても、つい願ってしまうのだ。
ああ、
「なんか、すげぇ不思議なこと起こらねぇかな」
と。
キキィーーーーーーッッ
パッパーッッ
「きゃあぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
鋭いブレーキ音と、甲高い叫び声が響き渡る。
振り返った俺の目に飛び込んできたのは、幼い子どもにその何倍もあるような怪物のように大きなトラックが突っ込んでいく光景。
気付けば、思考よりも先に肉体が動いていた。
子どもを抱き込むように抱え、身を丸くする。
ドン!!!
まるで巨大な竜巻にぶつかられたかのような衝撃。
そのあとに感じたのは、浮遊感。
ドサッという音と衝撃で、俺は地面にぶつかったのだということを感じとる。
子どもは大丈夫だろうか?
薄れていく意識の中で、俺はなんとか首を動かし、子どもの姿を探した。
子どもは、俺の腕の中で可哀想なほどガタガタと震えていた。
「・・・・お、い、おま、え……だいじょ、ぶ。か…………?」
掠れる声で訊ねれば、子どもは震えながらこくんと頷いた。
それに安心した俺は、子どもの頭を優しく撫でながら笑みを浮かべる。
良かった、無事なようだ。
俺はその事に安堵し、息を漏らした。
・・・ああ、どうしてだろうか。
急に眠くなってきた。
自分の意思に反して、ゆっくりと瞼が下へ下へと下がっていく。
周りに集まってきたやつらが、「しっかりしろ!」や「待ってろ、すぐ救急車が来るからな!」やら、「傷の手当てを!」などと叫んでいるのが、遠くの方で聞こえる。
「至恩!しっかりして、至恩!!死なないで、お願い……!!私、貴方のことが好きだった。ずっとずっと、傍に居てほしいよ……」
あいつの声が聞こえる。
なんだ、近くにいたのか。カッコ悪いとこ見せちまったな。。
(心配すんなよ、俺は平気だから。こんなくらいで、くたばりゃしねぇよ)
そう言ったつもりだったが、果たしてそれはあいつに届いただろうか。
もう眠くて仕方ない。少し、休んでもいいだろうか?
遠ざかっていく意識の最中、あいつの泣き声が聴こえた。
ああ、目を覚ましたら今度こそ言おうか。
俺がどれ程お前が好きで、出来れば一生のパートナーになってほしい。と言うことを。
その後、俺がこの世界で目覚めることはなかった