スライムの幸せ
二日目以降、俺は父親スライムに強くなるためには何をすれば良いか、人間だった俺が死んでからどのくらいの月日が流れていたのかなど様々な事を教えて貰った。
人間の俺が死んでから今は1カ月後みたいだ。転生すると1カ月後に転生できるのか…?
スライムの成長の仕方には驚いた。木に張り付いて栄養を分けて貰って成長するのだ。木に張り付いているスライムなど見た事もなかった。なぜなら木に張り付いている間は攻撃されないよう木の一部に擬態しているからだ。
しかし、スライムとして強くなるのは地道だった。地面を出来るだけ早くヌルヌル這ったり、足が無いので体全体を使って飛び上がる練習をしたり…ぶっちゃけ人間のトレーニングよりキツかった。
そうこうしているうちにスライムに転生して20日たった。
「そろそろお前もお嫁さんを見つけないとな」
「そうね、私達ももう長くは無いし…」
スライムの寿命は短いのか?
「父さん、母さん、スライムの寿命ってどのくらいなんだ?」
「大体60日くらいだな。」
「今何日目⁇」
「もう40日は過ぎたかしら…」
だとしたら後20日程度で死んでしまう!
「孫の顔が見たいなぁ」
父親スライムが寂しそうに言う。
しかし、どこに行けばメススライムが居るのかわからない。
すると母親スライムが
「森の北側にはスライムが多く住んでるわ」
と気の利いた事を言ってくれた。
俺は黙ってすぐに巣を飛び出した。
20分くらい這って行っただろうか。自分達の巣は森の真ん中側にあったので割とすぐに北側に着いた。この森はそんなに大きく無いのだがこのバレンシア大陸には同じような森がたくさんある。
他の森にはそれぞれ様々な生態系があるのだろう。
おや、第一スライム発見。
近づいてみるとこりゃあ美人だ!人間で言うと村一番の美人くらいか。
なんて声をかけて良いか分からなかったが
「お嬢さん、良い天気ですね。」
と言った。すると
「あなた、素敵ですね。」
と言ってもらえた。そういえば修行を毎日行い、たくさん木から栄養をもらった俺はスライムとしてはかなり立派な大きさになっていた。
これはチャンスと思い、一緒に暮らしてくれないか?と遠回しにプロポーズした。
彼女はもじもじしながらはい。と言ってくれた。
彼女を自分の巣に連れて帰った。両親ともとても驚いていた。嬉しい驚きだ。
「こんな美人を…あんなやるねぇ!」
「今夜は頑張れよ!むふふ」
父親スライムが子供を望んでいるのは分かった。
しかしスライムはどうして子供を作るのか分からなかった。
そして夜
彼女と二人きりになった。
月を愛でながら聞いてみた。
「俺、父さんや母さんに孫の顔を見せてあげたいのだけれど、どうすれば良いかな?」
すると彼女は優しくこう答えた。
「二人で一つになるのよ。ほら、引っ付いて?」
言われるがまま彼女に引っ付いた。
すると彼女と自分が1匹のスライムになった。
すごく戸惑った。しかし、なんだか温かみも感じた。やがて1時間もすると二匹に戻った。
「あとは待つだけね…」
なんだか幸せだった。
翌日の朝。
「坊や!起きて!」
母親スライムにけたたましく起こされた。
!!
お嫁さんの元に連れていかれた俺はびっくりした。
お嫁さんのそばには小さいスライムが三匹いたのだ。そのスライム達が子供だと分かるのにそんなに時間はかからなかった。
「かわいいなぁ!」
父親スライムもベタ惚れだ。
なんだか幸せだったのが、本当に幸せになった。
スライムも人間と同じように暮らしているんだな。そう思うとスライムも良いな、とさえ思っていた。
しばらくすると、森の北側からスライムのさけび声が聞こえてきた。それは断末魔のようであった…
俺は巣を飛び出した。かわいい子供達、お嫁さん、両親を残して。
北側に行くとスライムの遺体がいくつか転がっていた。まだ息があるものがいた。
近寄ると
「人間だ、人間が襲ってきた…」
例えようの無い怒りが込み上げてきた。スライム達にも1匹1匹に生活があるのに……
俺はさけび声がするほうにヌルヌルと全力で這って行った。
しばらく這うと、見つけた。人間だ。二人いる。
何やら話ながらスライムを狩っている。しかしスライムとなった今ヒト語がわからない。しかし、仲間がやられていることに変わりはない。
二人のうち一人に飛びかかった。そして顔にまとわりつい。
息が出来なくてもがく人間。仲間が俺を剥がそうと引っ張ってくる。しかし離れない!
1分ほどで一人が動かなくなった。
顔から離れる。さて、もう一人をどう倒そうか。
さっき人を倒して自分が経験値を得たのがわかる。体に力が満ち溢れてくる。
もう一人も顔にまとわりついてやった。
外そうともがく。しかし無理だと分かったのか短刀を取り出し、俺ごと顔を刺しまくった。
だめだ…ダメージがでかすぎる。俺は地面にボトっと落ちた。同時に血まみれの男も倒れた。
視界が暗くなって…ゆく……
視界が真っ暗になったあと、また眩く輝きだした。みたことのある場所だ。邪竜と最初に会った
「あの世の手前」だ。
俺は死んだのか…そう思っていると黒い光がやってきた。そして話しかけてきた。
「スライムはどうだった⁇」
久しぶりの邪竜だ。
「スライムにも暮らしがあるんだな…」
俺は染み染みと言った。残してきた家族が心配だった。
「子供まで作って、人間を二人も倒して…かなり経験値を手に入れたようじゃのう。」
「そうか、次は何に転生出来そうなんだ?」
「アローモンキーは知ってるな?」
アローモンキーは密林に住む弓を使う猿の魔物だ。
「まだ魔物か…でもスライムよりはやりやすそうだな。」
「お前は元々ヒトじゃったんじゃから、サルも似たようなもんじゃろ。ワシからすれば。」
「バカにすんな!」
「まあ頑張れよ。ワシも魂を喰いまくってコツコツ魔力を貯めとるから。」
ちょっと期待。
「それじゃあ、行ってこい!アローモンキーとして経験値を稼ぐのじゃ!」
また視界が歪んだ。
転生する合図だ。
あたりが薄ら暗い。高い木々が光をあまり通さない。どうやら見事、アローモンキーにグレードアップしたようだ。