初めての邪竜
辺り一面に眩い空間が広がっている。
身動きが取れない。しかし苦しくは無い。
そうか、俺は死んだのだ。
案外すんなり受け入れられた。しばらくすると眩い空間にどす黒い光の玉が一つ浮かび上がった。
それは徐々に近づいてくる。そして俺の前で止まった。その玉から何か聞こえる。
「勇者は憎いか?」
俺はハッとした。そして正体もわからない黒い光の玉にこう答えた。
「憎い。」
答えたつもりだったのだ。しかし声は出ていなかった。不思議に思っていると
「そうか、お前は死んだばかりだな?ここでは声は出ぬよ。念じるのだ。」
また黒い光の玉が話してきた。
そして俺はこう念じてみた。
「ここは、どこだ?」
「あの世の手前だ。」
どうやら念は通じたらしい。コツを掴んだ俺はまた、聞いてみた。
「どうして俺はあの世の手前にいるんだ?あの世に行くべきじゃないのか。」
「未練があったのだろうな。死ぬ前の世界に。ワシもそうだからのう。」
未練…あったと言えばかなりあったが、叶えられそうもない未練だ。
「お前の未練は何だ?心当たりは無いのか?」
今度は相手の方から聞いてきた。
「強いて言えば…勇者どもを殺せなかった事かな。だが一農民、いや、それ以下の俺には叶うはずの無い未練さ。」
すると突然、光の玉はこう切り出した。
「………ワシは邪竜じゃ。」
「⁉︎」
「ワシの未練もそれなんじゃ。七勇者にやられたことじゃ。七対一で戦って負けた。ワシは自分の負けが認められんのじゃ‼︎」
「勇者ってそういうとこあるよな…」
「同情は結構…ところでお主、ワシは邪竜じゃぞ?魂だけと言っても恐怖なり何なり感じんか?」
「黒い光の玉の正体が邪竜って知ってびっくりはしたけど、むしろ親近感を感じるよ。ある意味、俺も勇者にやられたようなもんだからな。」
「なるほどのう」
俺はさっきからあることが気になっていた。
この空間が現世に未練を持つ自分のような魂が迷い込むなら他の魂もあるのでは無いかと。
思い切って邪竜の魂に聞いてみた。
「ここには他の奴の魂もいるんじゃないか?」
「よく来るぞ。」
「じゃあなんで特に見かけないんだ。」
「それはな、みんな不甲斐ない奴らばっかりだからワシが食っちまうからじゃ。」
「な、なら、なぜ俺のこの魂は食わない⁈」
「興味があるからさ…ここに来た奴で勇者達を殺せなかったのが未練なんて奴は居なかったもんだからな。」
「そうなのか…それなら、魂が魂を喰らったら何か起きるのか?」
「ワシは邪竜の魂じゃからな、本来は魂同士、何も出来ないんじゃがワシが他の魂を喰えば少〜しずつ魔力が溜まるみたいなんじゃ。」
「さすが元邪竜ってとこだな。」
「その魔力を使えばもしかしたら勇者達を倒すことは可能かも知れん。」
「どうやって⁉︎呪い殺したりするのか⁇」
「魔力がまったく足りんわ。」
「邪竜として生き返るのか?お前の骨は神殿地下に埋葬されてるぞ。」
「まだ骨は残っているのか…しかし生き返ることも無理じゃ。」
「じゃあどういうことだよ。」
「お前にある特殊な能力を付けて生き返らせる。」
「俺に?どんな能力だよ。」
「グレードアップ能力だ。」
「?」
「つまり、お前が生きてるうちに経験値を貯める。すると次の輪廻転生時にその経験値を引き継いで転生できるってことじゃ。」
「輪廻転生も出来るようになるのかよ…!」
「お前の魂なら、必要なワシの魔力が今くらい少なくても出来るだろう。」
「所詮邪竜に比べればしょぼい魂だよ…
で、経験値を引き継いで転生すればどうなるんだ?」
「より上等な生物に生まれ変われる。」
「経験値はどうやって確認するんだ?」
「経験値を獲得すると体がわかるようにしておいてやろう。個体のレベルもわかるようにな。」
「なるほど、経験値を貯め、レベルを上げて上等生物に転生し続ければいつかは勇者達に勝てるくやつになるかもしれない…」
「そうじゃが、勇者は人間なのであろう?なら寿命までに倒さねば復讐は出来まい。」
「そうでも無いかも知れないぞ?奴ら、不老の研究に力を入れてるらしい。奴らが不老になれば俺達も都合が良い。」
「そうじゃな。では早速お前の魂に輪廻転生能力とグレードアップ能力を刻むとするか!」
そういうと邪竜の魂の黒い光が強まった。
それと同時に俺の視界がグラグラ揺らぐ。
転生するようだ。そして周りが大きく歪んで来た時、
「魔力が少なすぎて、転生は最下等生物からスタートになりそうじゃ…経験値貯めて頑張ってくれ…」
との声が聞こえた。
そうして視界が真っ暗になった。
しばらくすると目が覚めた。
周りはどうやら平原のようだ。俺が人間の時に生まれ育ったミブ大陸では無く、どうやら緑豊かなバレンシア大陸に転生したようだ。
しかし、どうにも視点が低い。
手と足の感覚もない。
移動しようとしたが、歩きことは出来ない。
ズルズルと体を引きずるようにして、近くの水場に行き、姿を確認しようとすると…
水面にはジェルのような正真正銘、スライムが1匹映っていた。
俺は最下等生物、スライムからスタートらしい。
がんばろう




