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大木の思い

職業体験最終日。

つまり少年が帰るその日。

部屋には変わらず老人が一人だけだった。違ったのは彼が窓の外ではなく部屋の入り口から廊下を見つめていることくらいだった。

老人は少年と初めて会ったときのことを思い出していた。


老人にとってはいつもと変わらない日だった。

今日も後悔をしながら外を見つめ、一日を終えるはずだった。

「よ、よろしくお願いします。」

聞きなれない若い男の声に老人は少し戸惑った。従業員にしては若すぎるその声を老人は「お迎え」と思ったからだ。なんでいまさら、このタイミングなんだ。老人は激しい怒りと全てが終わることに対する安堵を抱いていた。

しかし、現実は違った。

女性従業員の声が聞こえる。老人が入り口を見ると少年がたっていた。老人はとっさのことに頭を下げることしかできなかった。

老人はそれからずっと事態がわからなかった。なぜ少年がこの部屋にいるのか、なぜ私に話しかけるのか。老人は少年を無視し今まで通り外を眺めていた。

その少年が職業体験で一週間老人の世話をするらしいということがわかったのはその日の終わりに従業員に聞かされた時である。

次の日の朝、起きると老人の部屋にはいつも通り新しい花が飾られていた。一週間に一度変えられるその花のなを老人は忘れたことがない。この倫とした姿だけはずっと変わらない、彼の宝物だったのである。

老人にとって少年の話に答えることはとても体力を使う。声を出すこということが老人には苦痛であり機械音に頼れば少しはましだがそれでも苦痛であることに代わりはない。

老人はラジオを聞き流すように少年の話を聞いていた。大丈夫、一週間たてばいつも通りの毎日に戻ると老人は思っていた。

4日目の朝、少年が部屋を出ていってから老人には日常が戻った。また窓の外を眺める老人。

しかし、どこか、何かが違う。

老人には答えがすぐわかった。少年だ。

彼の声が毎日を浪費する老人にとっては大きな変化であり、老人の毎日に欠かせないものになっていた。

それから老人は少年が部屋に戻ってくるのを待っていた。

次きたらちゃんと謝ろう。

次はちゃんと話をしよう。

声を出すのがどんなに苦痛だろうと少年に自分の全てを話そう。

そう決心をしていた。



廊下を見つめる老人がが涙で頬をぬらすのは実に90年ぶりだった。

「あ、あの」

部屋のなかに小さな声が響く。

入り口には荷物を持った少年が立っていた。


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