花の名は。
次の日の朝、老人の部屋にはキレイな花が飾ってあった。
「キレイなお花ですね、なんていうお花ですか?」
「さあね、名前は忘れたよ。」
老人は窓を見たまま少年の質問に答えた。
初めて聞く老人の声は機械音で作られた無機質なものであったが少年の心を動かすには充分だった。老人が初めて答えてくれたことが堪らなく嬉しかったのだ。
「じゃあ、今度調べてきます。きっと素敵な名前ですよ、こんな素敵な花なんですから。」
少年はそれから寝る前に考えた話を1つずつ話した。相変わらず老人は窓の外を見たまま返事もしなかった。
しかし、少年には老人が聞いてくれているというだけで良かった。老人は少年を無視して居るわけではない。もしかしたら無視しているのかもしれないが少年の話は老人の耳に届いている。少年はそう思った。
「医学が発達した現代でも100歳を超えて生きている人は少ないのよ。なんでかはわからないんだけど理論的には生存できるはずなんだけどバッタリ死んじゃうんだわ。それでもウチの老人ホームには3人も125歳を超えた人がいると考えるともう少し国からの援助があってもいいと思うんだけどね。」
またしてもお昼休憩。今度は老人ホームで働く若い女性の話を聞いていた。彼女が話す話題は医療に関することから学生時代のことに移り変わりやはり最後はホーム内の噂話になった。噂話は昨日老婆から聞いたことと似たり寄ったりであった。
テレビの画面がまた昨日と同じニュースを報道している。彼女はそれを見ると口を開きかけ少年に止められた。
「何も言わないでください。まだ、ホームの話を聞いているほうが少しは気分がいいです。」
女性はきょとんとしてから、顔をキツくすると少年に対して警戒心をみせなから席をたった。
少年には狭い世界の話をするのも遠い世界の話も対して変わらずどちらも何も産み出さない無駄なものだが前者のほうがまだ許せた。それだけだった。




