老人の誘いは…
御幸にとって、痛い失態だった。
幼い二人の安全を最優先に考えていたはずなのに、降りかかってきた災難を防げなかった。
御幸「二人とも、大丈夫!?」
祐樹「ん?」
彩菜「うん、痛く…ないよ。」
心配する御幸の気持ちとは裏腹に、幼い二人の体に異常はなかった。
御幸「…ごめんね、二人とも。私がいながら…。ホントにどこも痛くない?」
祐樹「うん、大丈夫だよ。」
彩菜「大丈夫!…やっぱり、にんにんの言ってたとおりだね。」
メイ「?」
急に元気を取り戻した様子の彩菜は目を輝かせながら答えた。
祐樹「あーちゃん、どういうこと?」
彩菜「彩菜たちにも宇宙人のパワーがあるってことだよ〜!」
一瞬の間。そして、そこにいた皆が互いに顔を向け合った。間の抜けた表情、そして、すぐにみんなで笑った。笑ってしまった。
思えば今日初めての全員の笑顔だった。
祐樹「だね!」
メイ「私も〜かな。」
彩菜「きっとそうだよ〜。」
御幸は三人の話を聞きながら、母の言葉を思い出していた。
『笑顔を見せることは、周りの人に元気を見せること。御身の幸せを、全ての人に捧げて欲しい。あなたに『御幸』と名付けてパパもママも幸せよ。」
御幸(うん、頑張るよ。こんな時だから、もっともっと。)
御幸は改めて心の中で決意した。
?「なるほど、ここの帝様は麗しいのう。」
?「幼な子が元気なのもいいですわね。」
全員「え?」
ゆっくりな老夫婦のような声が聞こえ、三人と一匹は驚いた。
彩菜「え、何?」
祐樹「今、ぼくたちの『中』から声がしたような…。」
確かに祐樹や彩菜の近くから声がしたが、その声は急に改まった。
?「これは失礼、大人しくしていようと思うたが、つい話をしてしもうた。」
?「ほんに。かわいらしい子たちで、ついつい。許してください。」
メイ「誰な〜の?どこ〜にいる〜の?」
周りを見回しても、やはり誰もいないが、声の主は正直に打ち明けた。
?「まぁ、名乗ったところで問題ないじゃろ。わしは『四連惑星』の『ハミナ』じゃ。」
?「私はハミナ様の弟子で、『ヤオイ』と申します。いきなり体の中に入れさせてもらい、すみませんね。」
本人たちは至って悪気はないようだが、いきなり爆発したUFOらしきものから現れて、幼い二人に取り憑き、しかもいきなりしゃべりだすと言う、何とも人騒がせな老人たちと言えた。
ただ、取り憑かれた彩菜・祐樹はもちろん、御幸やメイもこの老人たちに悪意を感じなかった。
彩菜「もしかして、今の光がおじいちゃん?…たちなの?」
ハミナ「かしこいのう、その通りじゃ。」
今までの殺伐とした雰囲気の来訪者と違い、御幸もやや困惑気味に、しかし、持ち前の丁寧さをもって尋ねた。
御幸「す、すみません。お二人は…、えー、宇宙人さんなんですか?」
ヤオイ「さようでございます。」
それを聞いて、祐樹は胸を張って言った。
祐樹「やっぱりぼくたちに宇宙人パワーがあるから、光にやられないかったんだ!ドーン!!」
メイ「うーん、そうな〜のかい?」
女性宇宙人の時よりも幼い二人はずいぶん慣れてきていたようだが、御幸はどうしても最初に言っておきたいことがあった。
御幸「あの、私たちは宇宙人さんと決して戦いたくないんです。ただ、この子たちのお父さんを探したいだけで。だから、どうか…。」
ハミナ「ん?…この『幼な子二人』とそこの『神獣』が『帝様』を守られた訳ではないのかね?」
ヤオイ「…そうではないようです。ただ、この『帝様』は…『レイナ姫君』と接触されているようでございます。」
御幸はこの二人が何を話しているのかさっぱり分からなかった。
ハミナ「…そうじゃったのか…。まぁ、何はともあれ『帝様』、この『幼な子二人』はだいぶ疲れている様子じゃ。少し休ませてはいかがじゃろうか?』
御幸「え?…あ、はい、そうですね。!二人とも一回うちに帰る?」
彩菜「うん、お腹すいた。」
祐樹「ぼくも。」
一回御幸の家に向きを変えた三人を見ながらメイが尋ねた。
メイ「あ〜、みかどさまって言うのは何な〜の?」
ヤオイ「そこの麗しいお方です。」
そう言うと、光が御幸の前で点滅した
メイ「あ、みゆ〜きのことだったの〜。みか〜どではないんだけ〜どね。」
御幸は内心で何故自分のことを帝と呼ぶのか気になっていたが、祐樹や彩菜のことが心配でそれどころではなかった。
一方、老いた二人の会話は続いていた。
ヤオイ「『レイナ姫君』がここにいらっしゃるならば、『ミーシャ殿』もいるかもしれませんね。」
ハミナ「うーむ。…『ミーシャ殿』は我々の『計画』を知らぬ。このままでは災いが始まるのう。…急がねば…。ヤオイや。帝様たちが乗ることができる『ビーズリ』を出せるかの?」
ヤオイ「はい、おまかせを。」
そう言うと、いきなり黄色の光が彩菜を照らし出し、目の前にかなり大きい戦闘機のような乗り物が現れた。と言っても、現実にはかなり流線型のような、円柱のような形態で、残念ながら地球の言葉では形容し難いものであった。
彩菜「これ、UFOなの?」
祐樹「えー、乗りたくない。」
ハミナ「まぁ、その気持ちはもっともじゃが、事を急ぐでな、まずは入りなさい。ゆっくり中で休めるようにしてあるからのう。」
この時、御幸は迷った。
昨日から地球外生物や宇宙からの攻撃を間近で見て、被害を受けてきた。老人たちの口ぶりは穏やかだが、その後何をされるか分からない。
疲れている幼い二人のことも心配だったが、果たして…。
ハミナ「…確かにその点は気にされるじゃろうが大丈夫じゃ、御幸殿。私たちに任せなさい。」
ヤオイ「えぇ、幼な子二人もゆっくり休ませましょう。詳しい話を中でしますからね。」
御幸「え?」
数時間前に遭遇した女性宇宙人の時と同じ、いや、それ以上に自分の名前はおろか、考えていることすべてを見透かされていた。
間違いなく、彼らは完全に心を読めるのだ。
メイ「みゆ〜き、ここはあきらめ〜るしかないかもね。」
御幸「メイ?」
メイ「さっきの宇宙人と言い、この宇宙人たちと言い、能力がすご〜いね。なにをして〜も対応は難しい〜ね。」
御幸「…そう、だよね。…ってことは、私たちを殺そうと思えばいつでも?」
メイ「…そういうことな〜のね。」
それは御幸も薄々は理解していたことではある。だが、いざ決断するとなった今、幼い二人を巻き添えにしていいものか。
でも、今は、知りたいことがたくさんある。進みたい気持ちも強い。
彩菜「お姉ちゃん、乗るの?」
御幸「…う、うん。もしかしたら乗れば何か分かるかもしれないから。
…でも、二人はイヤだよね?」
彩菜と祐樹は、御幸が自分たちのことで悩んでいることを理解できていなかった。ただ、困っている顔を見て、すぐに答えた。
彩菜「じゃ、乗るよ。」
祐樹「うん、お姉ちゃんと一緒に行くって約束したから。」
…決して気を使った訳ではない。彩菜も祐樹も両親の離婚問題で、人知れず大人の複雑な顔色を見極めることができていた。だから、答えられた。
とっさの判断ではあったが、この時ばかりは御幸を大いに助けたものとなった。
御幸「二人ともありがとう。」
そう言って二人を抱きしめた。そして一息、深呼吸をした。
御幸「…ふぅ。分かりました。行きます。そして、いろいろと教えて下さい。」