多勢に無勢で…
ブーウゥーン!
低く沈むような音が、二人の会話を遮った。おしゃべりをしていた幼い二人もすぐに御幸に駆け寄ってきた。
彩菜「こわいよ…。」
祐樹「何の音?」
不安そうに周囲を見回す二人に、御幸も根拠のない声をかけるだけで精一杯だった。
御幸「二人とも大丈夫。私がついてるから。」
彩菜と祐樹をぎゅっと抱きしめた御幸に向かって、女性は声をかけた。
?「…もしかして、攻撃を受けたのは…昨日のお昼くらい?」
御幸「攻撃って…、ひ、光の玉のことですか?」
おそるおそる答えた御幸に女性は説明した。
?「そうよ。あの光は『消滅砲』と言って受けた文明がみんな滅ぼされるもの…。でも、それは一つの通過点に過ぎないわ。」
彼女の瞳からは大きな危機感がにじみ出ており、御幸にもその言葉から嘘は感じられなかった。
?「とにかく、今は少しでも遠くに逃げて。このままじゃ、あなたたちまでやられちゃう。」
祐樹「!…また、光が飛んでくるの?」
?「ううん、あの攻撃よりタチが悪いわ。時空から『ヴョル』が現れる!」
彩菜「ジク…ボル?」
話がつかめないままの三人に対し、この女性の宇宙人は辺りを見渡していた。そして…。
?「この近くに先のとがった高い塔がないかしら。赤と白に塗られた…。」
御幸「塔、ですか?」
とっさに聞かれた御幸は連想できなかったが、彩菜は普通に答えた。
彩菜「先のとがった赤と白…ってあれかなぁ。」
祐樹「ん、どれ?」
彩菜が指差した先には東京タワーがあった。
?「うん、間違いない。あの上空にヴョルが現れるわ。」
祐樹「何?そのボルって?」
?「…えぇと、あなたたちに説明するには…。」
慌ただしそうに女性は考えていたが、このあと三人が全く予想もしない答えを返してきた。
?「ん~、…ユー…エフ…オー?」
三人は固まってしまった。が、沈黙を破ったのは祐樹だった。
祐樹「え、デュエルだよね?ぼく、テレビで見てるよ。」
彩菜「にんにん、違うよ。あれ、カードだよ?」
少し落ち着きを取り戻した二人が盛り上がっている合間に御幸は気がついた。
御幸「…ユー、エフ、オー、U…F…O…って、まさか!?」
?「そう、そのまさかよ。でも、必ず倒してあげるわ。…じゃないと、せっかく生き残ったあなたたちまで消滅しちゃうしね。」
この攻撃がUFO、つまり、宇宙人の襲来を意味していることに、御幸は驚いた。だが、地球人が何もできなかった相手を前にして、彼女は『倒す』と言う。
御幸「え?倒すって、そんなこと…。今は一緒に隠れましょ!」
?「大丈夫、ここは私に任せて。意外と『強い』のよ。」
強気な様子の彼女だったが、御幸はなお心配だった。
御幸「でも、まだ怪我が治ってないんだから安静にしないと…。」
?「大丈夫よ。それに…助けてもらったお礼もあるしね。何とか食い止め…、あれ。」
そう言った側から女性の足元はふらつき、彼女は祐樹に支えられた。
祐樹「だいじょうぶ!?」
?「…うん、大丈夫。これくらいの傷…、…くぅっ…。」
彼女は苦悶の目つきだった。やはり無理をしているようだった。
御幸「…ううん、ダメです。一人では行かせられません。」
?「…。あ〜あ、まったく、…どっかの誰かと同じだわ。『あいつ』なんかと同じとか笑えるし。…何とか開けた場所にさえ行ければ、倒せるんだけど…。」
祐樹「あいつ?」
ふらふらになりながらも、彼女は御幸たちに聞いた。
?「あなたたちは、今、この星の外で、何が起きているか知らないわよね。」
御幸「あ、はい。」
祐樹「え、何が起きてるの?」
?「もうすぐ分かるわ。…でも、私は絶対生き延びる!」
そう言い放った女性は突然全身が赤く光り、次の瞬間には空に五メートルほど浮いてみせた。
祐樹「うわぁっ…。」
彩菜「え!」
幼い二人は驚きのあまり、言葉を失ったが、追い打ちをかけるかのように、次の展開が続いた。
御幸「え、後ろ…。」
御幸は宙に浮く女性の後ろに、いきなり巨大な球体の光が現れる瞬間を見た。
ブーーーーーーーン!
聞き覚えのある低い音とともに、空間が一瞬歪んだように見え、そこから光る球体がいくつも現れたのだ。
今、東京タワー上空には無数の太陽が浮いているように見えた。だが、御幸たちにすれば恐怖の光の再現でしかなかった。
そんな恐怖心の中に誰かの声が聞こえてきた。
?「何ですって?約束が違うじゃない?」
彩菜「え?お姉ちゃん、なんか言った?」
御幸「ううん、言わないよ。」
祐樹「じゃあ、誰の声?」
その時、足下からも声がした。
?「もしかして、私の声もわかる~の?」
彩菜「え?」
間違いない。彩菜は自分の足下から声がしたのをはっきり聞いた。
祐樹「あ~ちゃん、今の声って…」
御幸「ウソ…。」
祐樹と御幸が驚く中で、彩菜は笑顔だった。
彩菜「ウソじゃないよ。メイが…しゃべった!」
メイ「やっと気付いてくれたんだ~ね。よかっ~た。」
見れば首と鼻を動かしながら、メイがしゃべっていたのだ。
御幸「ま、まさか、メイがしゃべるなんて。って、本当にメイがしゃべってるの?」
メイ「そうだ~よ、みゆ~き。今までたくさん話していたんだけ〜ど、気付いてもらえなかった~ね。」
恐怖心の中に救世主の声…と思いきや、何と飼い犬。
上空には空を飛ぶ女性型宇宙人、さらに巨大な光体がいくつも浮遊している。もはや何もかもが常識を超えていた。
メイ「…ところで、みゆ〜き。今、私の言葉が分かっても大ピンチだ~よ。」
?「うわっ…。(ドンッ)」
御幸「え?」
御幸たちの後ろにいきなり上から何か落ち降てきた。それは、今まで空を浮いていた女性だった。
?「くっ、こんなんじゃ、身が持たない…。」
彩菜「大丈夫?お姉ちゃん?」
彩菜が自分のところへ駆け寄って来たのを見て女性は目を見張った。
?「あやな…ちゃん…。」
女性は彩菜を一瞬見つめた。この絶体絶命の状況にもかかわらず、自分のことを心配している彩菜を…。
だが、その状況を嘲笑うかのように上空から声が聞こえてきた。
?「まさか最弱の星で、我々の攻撃を受けて、死ねない文明があるとは…。だが、『第三勢力』の生き残り共々掃除してやろう。」
?「…どこまでも汚いヤツら。まぁ、私が言えることじゃないか。…みゆき、あんたたちのことを巻き込んでごめんね。どうやら私、ここまでみたい。」
女性は力無く、うなだれた。だが、きっと悔しいのだろう、拳だけは強く握りしめて震えていた。
?「わざわざこんな文明ごときを消滅させたところで、閣下はお喜びにはならぬ。そいつの首を取り、我々の力を示すのだ。…いや、生け捕りが良いか。」
光体は更に明るくなり、御幸たちの上空を取り囲んだ。
祐樹「お姉ちゃん」
彩菜「こわいよ。」
彩菜も祐樹も泣きそうな表情になった。
メイ「みゆ~き、私を友達のように接してくれて嬉しかった~わ。」
メイも御幸に寄り添った。
だが、御幸はあきらめてはいなかった。
御幸「こんなところで死にたくない!みんなを絶対に!!」