静かな街は…
少しずつ日が傾いてきた。三人はやや緊張した面持ちで店の中、外を見て回った。
彩菜「だれもいないね~。」
祐樹「だれもいないよ。」
御幸「そうだね。…二人ともこっちにおいで。」
御幸は周りを見ながら、ちょこちょこ走る二人の手を引いて歩いた。
誰かいないのか?
また光体が現れやしないか?
これからどうするべきなのか?
…一生懸命考えたものの、御幸の頭に名案は浮かばなかった。いや、そもそも最善策が何かなど、分かるはずもなかった。
空から降りてきた光体から身を守るために、一番安全だと思えた屋内にいたにもかかわらず、この有様である。考える前に絶望するのも致し方なかった。
だが、それでも、御幸は諦めていなかった。
御幸「(絶対この子たちは守ってあげなきゃ。父さんたちと約束したんだから…。)あ、そうだ。二人ともお腹空いてない?」
彩菜「え、…うん。」
御幸「じゃあ、私のうちでご飯食べる?ちょっとしたものなら作れるから。」
御幸は善意のつもりで聞いたのだが、ここは祐樹が拒否してきた。
祐樹「ダメ!…ぼく、先生から教えてもらったよ。知らないおじさんについて行っちゃダメだって。」
御幸「えっ!?…と、それは…。」
御幸は咄嗟に言葉を返せなかった。確かに、普通にそんな声かけをすれば、周りからは誘拐に捉えられてしまうだろう。この子たちを納得させるためには、しっかり考えなければ…。
しかし、今度は彩菜が自信たっぷりの表情で答えた。
彩菜「だいじょうぶだよ、にんにん。」
祐樹「え、なんで?」
祐樹は彩菜の言葉に不満そうに聞き返したが、その理由はあまりに単純だった。
彩菜「知らない〈おじさん〉について行っちゃダメって言われたんでしょ?じゃあ、〈おねえちゃん〉ならだいじょうぶだよ。」
御幸「(…え~、それって…)」
さすがに無理がない?…と言おうとしたが、止めて正解だった。
祐樹「あ、そっか!お姉ちゃんならだいじょうぶ、か!」
御幸「(…いいんだ、それで。)」
彩菜「それに…。お姉ちゃん優しそうだから。」
御幸「え!あ、ありがとう。…じゃ、行こうね。」
急に褒められて悪くない気持ちの御幸であった。
こうして御幸の家に向かい始めた三人だったが、…それにしても街を包む空気は異常だった。野良猫が歩き、鳥は飛んでいるのに、人がいない。車が走っていない。
改めて伝えておくが、ここは地方の田舎ではなく、東京・品川である。マンションや建物が一面を覆っている一大都市。それなのに、御幸たち三人だけが様子を伺いながら歩いているのだ。これ以上の不気味さはない。
しかし、何はともあれ二人をショッピングモールから自宅まで連れてきた御幸はほっとしていた。また光が現れたら、今度こそダメかもしれない。
だが、心配なことはもう一つあった。
御幸「(無事だといいんだけど、大丈夫かな。)」
そう思いながら自宅の扉の鍵を差し込んでみると…カサカサッと音がした。
彩菜「!!」
祐樹「お姉ちゃん、…何かいるみたい。」
びっくりする二人だったが、御幸は二人の肩に手を当ててやさしく答えた。
御幸「うん、大丈夫、無事だったみたい。」
そう言って玄関を開けてみると…、
【ワンワン!】
祐樹「あ、犬だ!」
彩菜「かわいい~。彩菜知ってるよ。これ、ダックスフンドでしょ?」
御幸「えーと、…チワワだよ。メイって言うの。(ダックスフンド、人気なのかな。)」
つい変なことを考えつつ、御幸は扉を閉めた。
御幸は自宅でチワワを何年も前から飼っていた。ただ、今回のことで家からいなくなってしまったのではないか、そして、初めて出会う見知らぬ子どもたちに驚きはしないか、不安に思っていたのだ。
しかし、蓋を開けてみれば、そんな心配も杞憂だった。子どもたちもメイもすぐに楽しく触れあっていた。
まったく幼い子たちはたくましい。さっきまで泣きそうだったのに、今は犬とはしゃいでいる。そんな二人を見ながら、御幸は感心しつつも、急に感情がこみ上がってきたのを感じたが、何とか我慢した。考えないようにした。
御幸「じゃあ、今からご飯作るね!」
…ところが、御幸はその時、ある大切な事に気がついた。