気づき
煙を吐き出しながら、俺は問う。
「なんで、クリスマスって毎年来るんだろうなぁ…」
私、日村悟は、今日で20歳になりました。今日は、12月24日、クリスマスイヴです。ぶぶぶ…と、スマホのバイブレーションがメッセージの着信を伝えた。俺はすぐさまスマホを開いてメッセージを確認した、女子からバースデーメールとか来ないかな?とか期待していたからだ。笑えよ。
『しょーた:さっちん!はぴば!今年も一人気ままに楽しい一年を!ww(意味深』
『晃:さっちん~~!さっちんもついに20歳!また年齢離れちったなぁ~』
『霧矢:日村さん、誕生日おめでとうございます、女子からのバースデーメールだと勘違いしましたか?残念ながら、御堂でした。乙。気の利いたメッセージ?そんなものはありません。』
「……霧矢のやろう…あいつ今度会ったら蹴り入れてやる…」
ダチと後輩、計ヤロウ3人からしかこないバースデーメールに毒づきながら、ポケットから新しいタバコを取り出す。
「あー、でも!ハタチだから堂々とタバコが吸える!最高!!ぷふぅーーー!」
「悟!!あんた何タバコ吸うとんや!あかん言うてるやろ!!」
……オカンにどつかれた、クソ痛え。
第一説 12月24日
改めて、俺は日村悟、今日からハタチだ。
思春期すぎてからは毎年クリスマスは一人で過ごしてる。男友達と過ごす?それは負けた気になるし、なにより皆女の影がちらついてていや。
「あ、そういえば明日バイトだったな、昼ショート…早く準備してねよ」
クリスマスの黒歴史を思い返しながらふと明日、日付的には今日の予定を思い出してベランダから腰を上げた。たばこの吸殻を回収して、俺は部屋に戻った。
「おふろ♪おふろ♪さーむいっ日ーはおふーろにかぎるぅぅーーーう!!」
超テンションになりながら俺は風呂に入るために俺は部屋を移動した。俺の家は三階建てで、3階に俺の部屋と親の寝室、二階に風呂場がある…と、風呂場の前にきたとこで俺はあることに気がついた。
「か…鍵がかかっている…まさか…まさか……っ!!」
どこぞの救世主気取りの顔でいると風呂場から声が聞こえてきた。
「うち風呂入ってんの!はいってくんなよぉ!」
案の定、風呂場から我が愚妹の声が聞こえてきた。
「おい!お前風呂長ぇんだよ!早くでろ!!」
「うるさい!台所の蛇口ひねって水出して、それで頭でも洗えボケ!!」
「あぁん?!てめぇふざけんなよ風呂のガス切るぞこら!それかお前のこのあと着る服に今日食った肉丼の残り汁吸わせるぞ!!」
「ひぃぃぃぃ!!ごめんなさい!早く出るからパジャマ肉汁漬けだけはやめてぇ!」
勝った…!と、俺は思った。これで俺は手早く風呂に入って、寝て、明日のバイトに備えて寝るのだ!
と、自分に浸っていると不意に風呂場の扉が開いた。
「ごめんっておにい~!はい、お風呂上がったから入ってもいいよ!」
目の前には、タオル1枚のあられもない姿の義妹、ゆりかの姿があった。
「わ!ばっかおめ服着ろっテイッテンダロモットハジライヲモテェ」
つい女体に気が動転してへんな日本語になってしまった。うちの義妹、なかなかおっぱい大きいからな…おっと、背筋を伸ばして歩けなくなるからこのくらいにしとこう。
「あ、私ぃ…お風呂暑くていっぱい汗かいちゃたからぁ…私の匂いでいっぱいかもね…」「うるせぇ!お前はさっさ飯食って寝ろ!!」
うちの妹は男の俺をすごい煽ってくる、マジうざい、なんてもんじゃない。実の妹ではないから余計にだ。タチが悪い。
だが、この身も心も寒い冬を温めてくれるこのお風呂の前に、叶うものなどない!!
「ちへーせーーんにーー!とーどくぅぅぅぅぅぅよぉおぉぉぉおにぃぃい!!」
俺は風呂に入ってご機嫌に鼻歌を歌っていた……
まぁ、そのあと寝落ちしたんだが。
そして翌朝、俺は夜中になんとか意識を取り戻して布団に潜り、至福の時間を楽しんでから目が覚めた。
「あ…9時…飯食ってバイトの準備しなきゃな…」
俺はのそのそと布団からでて、光の速さで着替えを済ませてリビングに降りた。
「あんた、今日バイトちゃうのん」
降りてきて真っ先におかんが聞いてきた。
「あーそうだよ、飯食って準備したら行くから」
「あんたバイトばっか行ってるけど、単位は大丈夫なんやろな!!」
「うっせーな、大丈夫だって」
何かにつけて絡んでくるおかん、くそうるせぇ。まぁ、単位は大丈夫と言ったが…すまん、ありゃ嘘だ。ちょっとやばい、でも、あそびたいから、俺、働きマース!!
「あら、よく見たらメッセ来てるなぁ…どれどれ」
俺は朝飯のパンにかじりながらスマホをいじる。
『小春:日村さーん!はっぴばーすでー!!私は今USJなうでーす!それでは!!』
「…くっそ、なんだこの嫌がらせに近いメールは…」
朝からテンション下げられたけど、特に気にしてる余裕はない、どうせこのあと、カップル相手に飯を提供する仕事が待っているのだから。
「らっしゃいませー」
超低い声で、呪詛のように唱えながら勤務する二十歳、彼女いない歴イコール年齢。
新年の書き初めには、彼女募集中と書くつもりだ、書き初めしないけど。
「ねーねーまこち、一緒にこのビーフチャーハン大盛りたべよー」
「いーよゆかりん、俺が食べさせてあげるね」
「いやーん」
こいつらこの世の果てまで連れて行ってから百烈脚叩き込んでやろうか。
「日村くん、オーダーおねがい」
「あ、はーい」
今日この時間一緒に勤務するのは一つ年上の夏野さん、いわゆる合法ロリ系女性だ。本人に言ったらはっ倒されるから言わないけども、可愛い。
「はい、お待たせしましたー」
そうこうしながら客をさばいていく。気づけば15分休憩がもらえる時間だ。
「日村くんと夏野さん、休憩いっていいよー」
「あ、はーい、では休憩いただきます」
「はーい、わかりましたー」
俺がこうして働けるのは、この可愛くて美人な先輩のおかげだ!あぁ、こんな素敵な人と働けるなんて俺幸せ……、そうだ!夏野さんと一緒に15分過ごそう!と、思い立った俺は一緒に過ごそうと夏野さんの姿を探すが…見つからなかった、ちょっとだけへこんだ。
そして、勤務時間が終了し、時刻は16時15分。携帯には大学の知り合いからのメールが入っていた。
「みちる:研究室の年度末レポート、締切明日ですよ、日村さん提出まだだって教授が言っていたので、伝えました。あと誕生日おめでとうございます」
みちるは俺の後輩で一回生、あまり感情を顔に出さないからよくわからんやつだと思ってる。やたら可愛い顔してるんだけど、それが余計にキツイというかなんというか。
俺はひとまず
「了解、ありがとう」
とだけ一言返信して、それから俺は大学の研究室に向かった。
バイトが終わるなり店をでた俺は相棒、刹那号にまたがり通常の三倍速で大学に向かった…が、手は悴むが体は熱いという冬特有の状態になったため、大学に着くなり外庭の喫煙所でホットコーヒーを買い、一服。
「ぷふぅーーー…勤務あとのたばこーしー…さいこ…」
半ば脳みそがとろけたような顔と心理状態で浸っていると
「日村さん…またタバコ…」
「ん?よ、みちる。なんだいたのか」
さっき俺に連絡をくれたみちるに遭遇。こいつは俺にひたすら禁煙を押し付けてくる。禁煙しなければ俺のレポートをシュレッダーにかけると言いたこともあるくらいだ。
禁煙は押しつけ武装じゃねえぞ…。
「なんだよ、俺は今日でハタチだぜ?問題ないだろ」
「私がタバコ嫌いなんです、研究室も煙たくなったら嫌ですから」
「あ、あのなぁ…室内じゃ吸ってないだろ俺」
俺は夏の暑い日も寒い日も、雨の日も、火がつかないくらい風が強い日でも、絶対に室外で吸うようにしている。喫煙所もあるから、マナーも○だ。
「学内での喫煙なんてマナー悪いですよ」
「……」
こいつは俺の心の中でも読んだのか?とか思ったが今はさほど問題ない。
「はいはい、消せばいいんでしょ消せば…」
俺は火を消して研究室に向かおうと思ったが、それよりもこんなとこに何故みちるが来たのかが気になって聞いてみた。
「で?なんでみちるがここに居るの?タバコ?」
「ふざけないでください。飲み物買いに来ただけです」
「そっか」
そう言ってみちるは自販機に、俺もついていく。
みちるが飲み物を決めたのを見計らって自販機にマイコイン投入、そのままみちるが普段よく飲むいちごみるく(ホット)を連打。
「あ…」
みちるのコインをもった指が空を裂いた。
「俺のおごりだ」
と、ドヤ顔、俺超うぜえ。
「…ありがとうございます」
うっざ!とでも言わんがばかりの顔でそう言うと俺の手からいちごみるくを受け取った。こんなので優越感に浸ろうとする俺も馬鹿らしいが…。
「これ…」
みちるが俺に行き場をなくしたコインを俺に渡してくる。
「いらねえよ、財布にしまえ」
「いや、ジュース買う小銭ぐらいありますから」
「あーもううるせえなぁ、それあれだよ、自販機に最初から入ってたんだよ金が。だから俺がそれを受け取ると後輩から金せびったみたいになるだろ」
俺はよくわからないことを言いながら後輩から渡されそうになる小銭を避ける。
でもみちるは諦めない。不屈の闘士を持って挑んでくるようだが、君では俺に勝つことはできないよ!
「う…先輩が…いじめる」
とか、震えた声で言い出す始末、泣いたら俺が折れると思って…え?!泣いてる?!
「先輩は私が嫌いですか…?」
うつむきながらそういうみちる、俺は焦る、なぜなら俺は、女の涙に弱いから!
「な…んなわけねえだろ!嫌いな奴にジュースおごったりしねえよ!」
「じゃあ…奢られる気なんてないのでこれ受け取ってくださいね?」
さっ!!っと顔を上げてそういうみちるは笑顔だった、それが怖かった。
俺は無言で頷いて120円を受け取った。
「へくちっ」
「あ、風邪ひくと嫌だし、部屋入るか」
みちるが唐突にくしゃみをした、上着を着ていないから(マフラーはしてる)冷えたのだろう、と思ってそう俺は声をかけた。
「嫌です」
「おう…は?」
このまま研究室にもどってデスクに向かうつもりだったし、そういう流れだと思っていたら違った。まさか拒否されるとは。
「なんで、風邪ひくだろ?」
「……これ…」
そういってみちるが渡してきたのはプレゼント包装された小箱。これって
「もしかして…」
思考と発言がまざって口に出していた疑問の言葉に、そうあって欲しいと思う言葉をみちるは返してくれた。
「そうです、誕生日なのでプレゼントです。すぐに成人式なので、きっと役に立つと思います」
「ん?えっと、開けていい?」
「…どうぞ」
俺は恐る恐る、丁寧に包装をほどいていき箱を開けた。
「あ…タイピン」
「た…たとえ成人式が袴だったとしても、将来使えるから大丈夫だと…あ、でもなんかそれだと私が…みたいな…あぁ!あぁ…」
なにか最後の方は聞き取れなかったが、みちるがあわあわしだした。
「みちる」
「あー…あわわ、どうしよう」
「みちる!」
「はいっ?!ご、ごめんなさ…」
「ありがとう」
「…っ!」
俺は心からお礼を言った。ただ単純に嬉しかったから。やっぱり、なんだかんだと言いながら、可愛い後輩から誕生日を祝ってもらえるのが、嬉しかった。
「…ばか…」
「ん…なんでだよ」
「…なんでもないです、それより、研究室にケーキがあるんです、ほかのみんなも待ってますよ」
「え?それは待たせちゃ悪いな、いこうぜ」
俺は嬉しいサプライズにわくわくしながら、みちると一緒に研究室に向かった。
第二節 新年度
新年あと15秒で明けます、はいカウントダウンしまーす、新年明ける10秒前からカウントしまー…あれ、あと何びょ…(ごーん、ごーん、ごーん…)はい、年明けました。新年明けましたおめでとうございます。
この時間帯はあけおめーるとか、粋なことしたがる若者しか本当にいないから電話もネットも超混線状態。この時間帯に連絡とるのは至難の業だからまた朝おきたらやろう…とか思ってたら早速、奇跡的に俺のケータイは震えた。
「お…誰だ、俺に新年初メールを送れた幸せモンは…」
とか、お前誰やねん状態でメールボックスを開いた。
『みちる:あけましておめでとうございます、よかったら初詣いきませんか?返信待ってます。寝てたらごめんなさい』
「……起きてるけどな…とりあえず」
今からか?と、問いかけの返信を送った、送ってから今の混線具合を思い出す。
「いや、今の時間じゃ届かねぇか…あほか俺は」
と、一人ぼやいているとケータイが震える。
「うお…着信入るのか…みちるからか…もしもし」
「あ、新年明けましておめでとうございます、メールよりもこっちのほうが早いかなと思ったので」
「なるほど、で、初詣、今からいくか?」
「はい、寝八坂神社でいいですか?」
「あぁ、他は誰か来るの?」
「わからないです、全部返事待ちです」
「んーりょーかい、じゃあ今から30分後に寝八坂神社でOK?」
「はい、ではまたのちほど」
そして俺は電話を切り、シャワーを浴びて私服に着替えて急ぎ家を出たのであった。
「…よぉ、はやいな」
「あ、明けましておめでとうございます」
「ん、今年もよろしく。待ち合わせの時間までまだ10分あるぞ、家近いんだからもっとぎりぎりに来たらよかったのに」
「先輩、待ち合わせするといつも約束より早く来るの知ってますから」
べつにそんなつもりはないのに、と内心で思いつつ、さっきからずっと気になっていたことを思い切って聞いてみた。
「ほかのやつは、来るの?」
「……」
みちるが無表情にこちらを見ている、だけど、これは内心考えてるときの顔だ。
「返事待ちです」
それだけ言ってみちるはそっぽを向いた。
「いきましょう、待っていても寒いだけなので」
「おう…」
新年明けて早々、時間は深夜1時だというのに神社は人でごった返していた。
大学の近場に下宿してる学生の集団も見えれば、カップルの姿もちらほら。
「私たち…ほかの人から見たらどういうふうにみえるんでしょうかね」
「ん…なんか言ったか?周りがうるさくてよく聞こえなかった」
「いえ、人がいっぱいいるなって思っただけです」
本当は聞こえてたけど、あえて俺は聞いた。同じこと考えてたことが照れくさかったからだ。
俺たちは無言で、二人ならんで賽銭の列に並ぶ。どれだけ時間が経ったのかはわからないけれど、あと一人で順番というところで俺は思い切って聞いてみた。
「なんで俺なの?」
「……」
みちるは答えなかった。一瞬の沈黙のうちに俺たちの番になった。あらかじめ用意してた5円を賽銭箱に放り込んで手を叩く。
「……考え過ぎか…」
本当に小さく俺はつぶやいて目を閉じた。さてどんな1年をお願いしようかと考える。すると、不思議と周りの音がより鮮明に、でも遠く聞こえた。よこにいるみちるの息遣いが聞こえるぐらいに。
考えてくださいよ。
「…ん?」
みちるがそういった気がして、目を開けてみちるの方を見た。みちるはまだ手を合わせ目を瞑ってお願いしているみたいだ。でもすぐに目を開けて「いきましょうか」と言った。
すこし人ごみから離れたところにある神社の喫煙所のあたりに来て、俺は手持ちのタバコを取り出して火をつける。
「……ふぅ…珍しいな、わざわざ目の前でタバコに火をつけたのに何も言わないなんて」それどころか、みちるは神社に来てから会話を交わそうとしない。
「……」
完全に無視…というわけではないがみちるは声を発さない。
「…?どうした、具合でも悪いのか…」
問いかけたところでついにみちるは口を開いた。
「きもちわる…限界…」
そう言ってさっと近場の茂みの方にかけて行って…。
さらさらさら…きらきら…と、それなりの量の具入りのスープ(比較的綺麗な表現のつもり)を口から出す。
「え…みちるお前大丈夫か?!」
俺は本気で心配になってみちるに駆け寄った。
「…酒くさっ?!」
「うぅ…酒臭くなんかないですよ、確かに父さんに少し飲まされましたけど…」
「なんだよ、時期だから余計に心配したじゃん…なんだよ、だから口数が少なかったのか」
多分、人ごみに酔ったのもあるんだろう、それでいっきに気分が悪くなったんだろう。
「これじゃ…もう嫌…死にたい…」
「何言ってんだよ、そんなくらいで嫌いになったりするわけないだろ?」
「好きになってもらえなきゃダメなんですよ私は!…あ…」
「……え?」
今何かとんでもないこと言われたような気がした、ちょっと顔がにやけそう。
「それってどういう…」
「~~!!私は、日村さんが好きなんです…だから初詣も誘ったんです、でも、ホントは実行する気なかったけど、お酒の勢いで踏み出したんです…でも、お酒に負けて全部台無し」
みちるは顔を赤くしながらそう言った、それはお酒のせいなのか、恥ずかしいからなのかはわからない。
「俺は…」
わからなかった。もし、このまま流れで付き合ってしまっていいのだろうか…もし、俺のその軽率な行動で…。
「俺は…みちるのことは好きだよ」
「?!じゃあ…」
「でも、それはそういう好きなのかどうかはわからない…」
みちるを傷つけたくない。傷ついて欲しくない。だから俺は今の俺なりにできる答えを出した。
「だから、俺にはわからない…願わくば、ここで終わって欲しくないんだけどな」
「……」
みちるは驚いたような、でも無表情で…ただ瞳に雫が浮かんでいた。
「なんか…初詣どころじゃないな…わるい、俺帰るな。また休み明けにな」
みちるはきっと辛い気持ちだろう。俺の真意はどうあれ、形としてはごめんなさいをしたわけだから。なのに、俺は自分のいてもたってもいられない気持ちに負けて、その場から逃げ出したのだった。