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第8話

お待たせしました。


もしかすると、手直しするかも知れません。

「それではスワ殿、武器の有無を確認し、王のもとへご案内致します」


「よろしく」


 衛兵隊長は門番に武器を持っていないか調べさせた後に、要たちを案内する。


「ナイフ一本持っていない丸腰で、ここに来るとはたいした度胸ですな」


 隊長が呆れたように呟く。


 要はその呟きには答えず、耳に着けたイヤホンマイクを通して花月からの報告を受ける。 その報告の内容は、隊長が自分たちを案内する場所は謁見の間ではなく中庭であること、そしてその中庭には王とその側近の公爵たちや宰相らがいること、最後に周囲を近衛兵たちが護っており、また伏兵もたっぷりいることだ。


 同じ情報は要と真央の後に続く部下たちにも共有される。 さらに部下たちが着けたサングラスにはこの城のミニマップが表示され、自分たちのアイコンが中庭に向かっていることや、そこが敵の兵士を示す赤い点で埋め尽くされていることを視覚的に把握する。


 隊長は要たちを気の毒に感じ、これから自分が案内する場所は、間違っても交渉の場になることはなく、要たちが金輪際城の外に自分の意思で出ることはないだろうと考えていた。

 この衛兵隊長はゼント王国の役人としては珍しく、賄賂を贈らない貰わない役人で、仲間からは堅物の変人で通っていた数少ないまともな役人だ。

 彼はこの国が身分の高い人たちほど腐っていることを知っていたから、王たちが異世界から魔法で人を拉致していても驚かなかった。彼らならそれくらいやるかもなと納得した。

 そして同時に、彼は奥さんと二人の子供のいるごく普通の人なので、自分の家族がそんな目にあったらと考えれば、居ても立っても居られないだろうとも思う。

 だから彼は日本国の特使というこの若い青年とコロン王との交渉が、何とかうまくまとまってくれれば良いと、――そんな可能性はこの国の上層部を見る限り望み薄だが――祈るばかりだ。


 しかし隊長がそんなことを考えている時、実は要は花月の報告を聞いて、ふぅん、あっそうと思っただけだった。

 どうぞご勝手にと一ミリの脅威も恐怖も感じていないし、それは報告をした花月も同じだ。 バックアップ要員だから状況を伝えただけで、そこに全く危機感はない。


 ただその時要が行ったことは、花月から同じ報告を受け自分のすぐ後ろを緊張した面持ちで歩く真央に、合図を出しただけだ。

 予測できる限りの相手の反応や、実際の状況によってこちらがとる行動パターンを複数用意し、その行動パターンの中から、要は今後の展開を見極め、選択したものを知らせるための合図だ。


 真央は要からの合図で、打ち合わせの中でいくつか教えられたパターンを思い出す。

 相手が大人数でこちらを囲んで捕らえようとしてくることも、当然想定済みだ。それに関してどう対処するかも打ち合わせ済みであり、要から出されたこの合図のパターンはこちらは……せよの合図だ。


 真央は緊張がドンドンと高まってくるのを感じる。

 当たり前だ。 相手はこちらよりも圧倒的に数が多く、しかもこちらを捕らえようと手薬煉引いて待っているのだ、怖くないはずがない。

 しかし要の背を見ると自分でも不思議なほど落ち着けた。

 真央の目の前を歩く要の背中は、背筋が伸び姿勢がよく歩く動作は美しいが、華奢で鍛えた筋肉が秘める力強さのようなものには欠けてる。

 これから向かう中庭には人殺しの訓練を積んだ精兵が大勢いて、おそらく修羅場になるであろうことは、真央にも分かる。

 真央は要が実際に敵を倒すところは一度しか見ていないし、そんな場所に向かうには、その背中は頼りがいがあるか、ないかと聞かれれば、正直ない。

 しかし、その背中を見ていると、真央はとても安心できた。

 まるで目の前にとても頑丈な大きい壁があるかのようだ。 大丈夫、この人の後ろは世界一安全な場所とそんな気持ちになる。

 なぜそう思うのかは分からないが、おかげで余分な力が抜けて集中力が高まるのを感じる。

 さあ、尾崎さんたち待っていてください。 今助けに行きます。

 お腹に力を入れて真央はそう決意するのだった。


 やがて要たち一行は中庭へと続く扉の前に到着する。

 そこには謁見の間の門番から急遽中庭の門番に変わった者が待っており、そこで隊長から案内役を引き継いだ。

 その者も要の美貌に呆然とするが、何とか中の者に要たちの到着を告げ、中庭へと続く門を開けた。


 隊長は何の気負いもなく、まるで良く知る建物の中庭に向かうように歩く要とそれに続く者たちが、これからどうなるか気ががりだった。


――――――――――――――


 要はまるでピクニックに来たように何の気負いもなく進む。


 そしてこちらの顔を見て息を飲む者たちを尻目に、急遽造ったであろう地面より2、3段高い仮の玉座に座る王の前に歩み寄る。

 その間にもさりげなく周りの状況を確認することも忘れない。 王の玉座を取り囲むように左右に並んだ近衛兵の数はおおよそ、300は超えるだろうか。


 そして玉座から適当に距離を取って立ち止まる。 真央と要の部下たちもそれにならう。


 真央は要に視線が集中するのを感じた。 王も公爵たちも兵士も一人の例外もなく、その若者の圧倒的な美貌に釘付けだった。

 奇妙な沈黙が続き、玉座に最も近い位置に立つ宰相らしき男が、最初にハッと気がつき発した言葉に、皆やっと動き出した。


「陛下。日本国よりの特使、カナメ・スワ。お目通りをしたいとのことです」


 周りの兵士らも気が付き、「先頭のアイツ、ずいぶん若いな」や「女はこっちに回してくれねえかな」などなど、侮ったりや卑猥な私語をする。


 王も周りの人々も、やっとこの特使を名乗る、黒衣の一団を観察する。

 最初に目を引いたのは羽織るように着用している黒いロングコートだ。それは王たちが目を見開くほどの上等な一品。その下の服もやはり黒色に細かな柄の細工が入っている。靴や鞄も見たことの無い素材でできた、やはり見事な物だ。これを人数分そろえるのは王国でも中々難しい。できなくはないが、これだけ高品質の物を、特使の一団全員に与えるとは侮れない。


 王は魔法も使えない異世界の蛮族の国が、この大陸一、二を争う大国の王に、謝罪と賠償を要求するなど何を血迷ったかと思ったが、密かに周りを見渡せば、服装から特使の一団を警戒するし出す者と、蛮族がそんな高価な服を生意気に、と悔しそうに見ている者とに別れている。 これは使える部下の見極めに良いかも知れん。


「余がゼント王国国王のコロンである。 して日本国よりの特使とのことだが、スワ殿」


「はい。 コロン陛下、まずは面会の申し出を受けてくださり、ありがとうございます」


 王の呼びかけにひざまずかず、立ったまま答える要に姿に、周りの人々が不快そうに眉をひそめ、口をはさむ。


「日本国などといかなる国とも知れない国の使者が、王に謁見し立ったまま話そうというのは無礼ではないか、ひれ伏したまえ」


「――よい、サンドマン」


「はっ」


 サンドマンという名の公爵が王に頭を下げる。 王は頭を下げた部下に鷹揚にうなずき、要に対して尊大な口調で語り掛ける。


「……日本国特使、スワ殿。遠方より揃いの盛装で来られた貴君らに対して、余は礼儀作法についてとやかく言うつもりはない。 して要件は?」


 遠方は田舎、礼儀にとやかく言わないは、どうせ礼儀も知らない文化レベルの低い蛮族だから、言ってもムダだろうという意味がありありと伺え、サンドマン公爵も周りの部下たちも要たちを嘲笑する。


「その前に王にお納めいただきたいものがございます。 しかし何分、我が日本は周りを海に囲まれた豊かな自然が自慢の島国ですので、お気に召していただけるか。 恥ずかしながらつまらないものですが」


 要はこちらを見下す王たちの反応には全く頓着せず、部下に準備するよう指示する。


 王も周囲の人々も要の口上を聞き、最早呆れて言葉も出ないという感想を隠さない。


 特使が外交の場で発する言葉には細心の注意を払う、というのは常識だ。 下手な言葉で自国を侮られるような真似は、相手を強気にさせ交渉の主導権を奪われる。 その結果、不利な条件や不平等な公約を押し付けられ国益を損ねるからだ。


「つまらないものを陛下に献上とは、いやはや全く呆れましたな」

「豊かな自然が自慢とは、どんなド田舎の者だ」


 王も先ほどの警戒心は間違いかと、要たちの評価を下方修正する。


 しかし、そんな王の思惑も、いつの間にか用意されたテーブルに、要が品物を並べていくうちにどんどん消え、声が出なくなる。 反対に兵士たちは次々と現れる品々に驚き、ざわざわと私語を始める。


 まず見事な陶磁器、漆器の数々から始まり、迫力ある金箔工芸、切り子などの繊細なガラス製品、しなやかな質感の木工竹細工、上品な和紙その他。

 男性を虜にする確かな品質とデザインの置き時計、懐中時計、葉巻、ライター、灰皿、ルーペ、万年筆や文房具などなど、そして酒類。 さらに武具として刀、太刀、槍まで。

 女性に喜ばれる見事な絵柄の和ろうそく、花卉、扇子、ハンカチ、スカーフ、熊野の化粧筆などの小物類から煌びやかな宝飾品やシルバーアクセサリーの数々。


 出るは出るは、どれもこれも目を見張る素晴らしい品物ばかり。 先ほど田舎者だ、礼儀も知らない平民だとさんざん悪態をついていた者たちも、ぐうの音も出ない。 というか品物から目が離せないらしい。


「これらの品々は我が国で名高い名工の作ばかりですが、一点モノの国宝という訳ではなく、代金を用意し依頼すれば、誰でも造ってもらえるものです」


 真央は要の説明を聞きながら、うるさい小者連中が、皆一様に黙ってしまったことに溜飲が下がる思いだった。

 これらも打ち合わせの通りの展開で、作戦通りこちらがガッチリ主導権を握っている。この後の展開も予測して、準備してある。

 真央は、諏訪さん、頑張って!と密かにエールを送るのであった。


 兵士たちは単純に要の披露した品物がきらびやかで高価そうだとか、刀や槍について話ているが、コロン王を始め側近の公爵や宰相はさすがに品物を見る目が肥えているらしく、要の披露した物がどれをとってもゼント王国ではおいそれとは真似のできないレベルのものであることが、分かってしまった。 そのため度胆を抜かれ、まだ見ぬ日本国とはどのような国なのか、畏怖を抱き始めた。


 そして、十分に先制の示威行動ができたところで、要は話を切り出す。


「さて、この度我が国の政治家のトップである総理大臣が、私を特使として貴国に派遣した理由は、貴国に不当に拉致された日本国民であるマオ・カンザキに対する賠償と、同じく拉致され今なお不当に拘束されている他3名の日本人の即時釈放と拉致及び不当な拘束に対する賠償、さらに今後二度と召喚術を行わない旨のコロン陛下の確約を要求するものであります」


 そう言って総理大臣からコロン国王へ宛てられた親書しんしょを取り出し、茫然としている王に直接手渡しした。


 因みにこの親書は日本語のものとは別に、この世界の共通語の訳文が同封されている。


「あ、因みにおとぼけはナシでお願いしますね、こちらにいるマオ・カンザキの他に三人の日本人がいることは分かっていますから」


 魔法もろくに使えない異世界の蛮族国家の特使という評価から、王はようやく相手が自分たちを上回る文化レベルを持った異世界人だと認識し始めた。 田舎者のフリでこちらを油断させ、警戒心が弛んだところで、こちらが真似のできないもので威嚇する。 周りは愚か王自身も、まんまとその効果的な揺さぶりに引っ掛けられた。 そして近衛兵と魔法兵団300人が取り囲む中庭にやって来ても、まるで動じる気配がない。 


 王はこれ以上の動揺はマズイと、次に何が出るか分からないと、気を引き締め直す時間が欲しくて、時間稼ぎにトボけようとしたが――――。


「何のことか皆目見当が……、特使殿何をしているのかな?」


 要はまたもや部下に指示を出し、脚の付いた大きな黒い板の様な物とバレーボール大の金属球を一つ取り出す。

 それは日本人にはお馴染みの薄型テレビモニターであり、それと一緒に出てきた金属球は無人偵察機サテライトだ。


 とても鞄に入るはずのないモニターが出てきたところを目撃し、王も公爵たちもこの世界にない四次元鞄に大騒ぎするが、サテライトがフワリと浮き上がり、要と王の上空3メートル当たりをクルクルと廻り出した為、近衛兵が慌てて王の周りを取り囲む。


 要はそんな王たちをさりげなく無視して、リモコンを操作し電源をオン。


――――ピッ


 そこに映し出されたのは空を見上げる王たちの呆然とした間抜けヅラであり、そのモニターの動画は上空を飛び回るサテライトが映した物だ。

 サテライトがクルクルと上空を飛び回ると、当然それに合わせてモニターの映像も変わっていく。 初めて見たTVモニターと録画映像に思考停止している王たちに、さらに畳みかけるように要はモニター画面を3分割して、一番大きい画面に音声付きの録画記録を流す。


 そちらを見た王たちは驚愕する。


 その場面では、この国の国王や宰相や公爵といった身分の高い者たち十数人が集まり、次の勇者召喚の儀式について話し会っていた。


「やっとあの忌々しいオザキらを捕まえたのだ、さっさと奴らを生け贄に次の儀式を行ってしまえ」


 コロン国王は苦々しく思っていた尾崎たちの生け贄の儀式を速やかに執り行うよう指示を出す。

 宰相や王の親戚筋の公爵らも同調する。


「今までは魔力不足で、まともに機能しなかった召喚魔法も、異世界人を三人まとめて生け贄にすれば、正常に機能するだろう」


「いかにも。 魔力をバカ食いする召喚魔法のために、国の内外からどれだけ奴隷や平民や亜人をさらってきて生け贄に捧げたことか」


「うむ、これでまともな勇者が召喚されれば、いよいよ魔族どもの領地を切り取る戦もはかどるというものだ」


「はい、奴らが暮らす土地は豊富な鉱物資源や宝石が採れ、上質な薬草が数多く群生し、珍重な魔物がコレクターに高く売れます。 その産み出す富みは量り知れません」


 そこに集まった者たちが皆、もたらされる富みに心を弾ませている。

 そこへ門番から日本国の特使が訪れ、王に面会し、拉致した国民を返し謝罪と賠償を求めていると知らせが入った。


「日本国? 知らんな、宰相?」


「日本国ですか? ああ、思い出しました。 オザキやカンザキたちを召喚した国の名前が、確か日本国だったはずです」


 王の問いかけに宰相が答える。

 その答えを受け、王は記憶をさらってやっと思い出す。


「ほう、あの珍しい位に魔法に対する防備が欠けた、どことも知れない未開の国か。 全く、今どき魔法すら知らんとは、どこの蛮族が生意気に国などと名乗り国王たる我に謝罪と賠償だと、片腹痛いわ」


 近年稀な笑い話を聞いたとでもいった風に、がははと嘲笑わらう王に、その場の皆が同意し追従するように笑い声を上げる。


「門番、追い返せ」


 末席にいた者が、門番に指示を出す。


「いや、待て。 その特使とやらに会って話しを聞いてやろう。 その後は捕らえて生け贄にすれば良い」


――――ピッ


 再び要はリモコンでモニターを操作し、一番大きい画面の動画を一時停止する。


――――ピッ


 さらに2番目に大きい画面には現在囚われている尾崎たちが映し出される。 どうやら地下の牢屋のようだ。 だいぶ痛めつけられている様子だが、辛うじて命に別状はなさそうだ。


――――ピッ


 最後の画面は先ほどと同じ、いや、より驚愕して顎が外れんばかりの王の変顔のアップが映し出される。 汚いオッサンの顔など誰得だ?と日本語でつぶやきながら、要はリモコンを操作しカメラを引いて側近や近衛兵も映す。


「さて、言ったはずです。 おとぼけはナシでお願いしますね、と」


 要は微笑みさえ浮かべ、驚愕する王に再度要求する。


「さっさと三人の日本人を連れて来い」




お読み頂き、ありがとうございます。 話しの進行が遅く、申し訳ありません。


誤字・脱字、矛盾などのご指摘は、やさしくお願いします。


感想を書いたりブックマーク登録をしていただいた方、本当にありがとうございます。


おかげ様でやる気がどんどん上がっております!!

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