第6話
一週空きましたが投稿します。
もしかしたら、手直しするかもしれません。
「というわけで、やってきましたゼント王国! 今私たちは神崎さんたちが召喚されたゼント王国の王都に来ています」
レポーター風に実況する要。 そこに見えるのは中世ヨーロッパ風の石の建物が並んだ、映画のセットのような街並みだった。
それにしても、周りを見渡し要は思う。
要が観察するに、仮にも一国の王都のメインストリートだというのに、活気があまり感じられないし、隅に目をやれば物乞いや浮浪児なども目につくな、と。
貴族の所有と思しき豪華な馬車が通る一方で、露店や物売りの数は少ないし、売っている物の質も悪いが、何より道行く人たちの目にも力がない。
花月からの報告や真央からの聞き取りで分かっていたが、想像以上の酷い状態に、またかと思う。
要が異世界に召喚(拉致)された被害者を追って赴く異世界の王国の大半が、このように身分による貧富の圧倒的な格差が見受けられる。
「花月」
「はい、要」
「聞いていた以上にこの国の状態は悪い。 またこのケースだ。 例のものを準備しておいてくれ」
「はい、そう思い準備は出来ています」
「ありがとう、では合図を待っていてくれ」
通信で要は花月を呼び出し、要件を告げると花月も了承した。
通信を切った要が真央を見ると、キョロキョロと落ち着きなく、青い顔で怯えた様子の真央。
「どうしました、神崎さん?」
「な、何でもないです」
強い口調でかぶりを振る真央の様子に、何でもなくはないと思いながらも、取り敢えずは様子を見ようと他の話題を振る要。
「それにしても、衛兵が堂々と賄賂を要求するとは、この国の役人は腐っているな。 まあ上の人間が腐っていれば下が習うのも道理だな。 マイナス10点」
「マイナス10点?」
要が見た光景は、行商人らしき男にたかる衛兵の姿だ。衛兵は手慣れた様子で袖の下を要求し、行商人は怒りを圧し殺して少なくない額の金銭を渡していた。
要は気に食わない様子で、マイナスの評価を付ける。 それを聞いた真央はどんな意味があるのを聞く。
「この国のことは神崎さんからの聞き取りの他に、花月が国中にバラまいた無人偵察機からの情報をまとめて報告してくれています。しかし、こうして実際に王都を歩いて、街中の人の様子や噂話などを集めて、私なりにその情報を補完することも重要です。 それがこの国を知ることになり、交渉の材料になりますからね」
「そうなんですか。 でも尾崎さんたちは大丈夫ですか?」
「大丈夫です、尾崎さん等の安全の確保のために部下達には、光学迷彩その他の能力で秘密裏に城へ先行してもらっています。 彼らに入れない場所はありませんし、何かあれば連絡が来ます」
少し安心した真央に、要は少し王都を歩こうと提案する。 そして要はフラフラとあちこちに歩いて行く。 すると露店の主と客らしき、中年オヤジ達の会話が聞こえてくる。
「おい聞いたか、また増税だとよ」
「またかよ! 今度は何に使うんだ?」
「膠着している魔族との戦争のための戦費の調達だと。 たまんねえな、俺たちに重税かけて、城のヤツラは連日豪勢な夜会だろ」
「ふざけやがって! 魔族なんてほっときゃいいのになんで戦争なんてすんだよ。 俺が生まれる前からずっと、お互い不干渉で魔族と戦争なんてしたことなかったのに」
「……花月?」
「はい要、先ほどの中年男性たちの会話の内容は事実です。 城の一室で官僚らしき者たちが、新たな税の為の法律を発布する準備をしていることを、無人偵察機を通して確認しました」
「マイナス10点」
要は花月に連絡を取り、事実確認をしていく。 横で聞いている真央は、事実という回答を聞くたびに、表面上はにこやかな表情をしている要の機嫌が、どんどん悪くなっていくのを感じた。
先ほど城壁の通用門で賄賂を要求されていた行商人が露店を開こうとしている。
すると、今度は治安を守る騎士団の巡回らしき兵士二人組に、露店を開くには自分らの許可が必要だと難癖を付けられ、また金を払わされている。
「これじゃ、全くの大損だよ、話に聞いていた以上にひどいな! 二度と来るかよ! 仲間にも王都に近づくなと回状を出そう」
結局行商人は商売せずに、立ち去った。
「事実です」
「マイナス10点」
村から出てきた農民らしき男たちが話をしている。
「魔族との戦争に向かった兵士に配る兵糧がなくって、夜毎に徴兵された農民兵士が逃げ出しているそうだぜ」
「無理もないよ。 どうせ兵站係の貴族が横領して、横流ししてんだろ」
「メシもなくってどうやって戦えってんだ」
「見つかった逃亡兵は見せしめに殺されているらしいけど、兵士の逃亡は止まらないだろうね」
「ああ、むしろどんどん士気が落ちて、いずれ反乱でも起きそうだぜ」
「事実です」
「マイナス10点」
主婦たちがヒソヒソ話をしている。
「うちの親戚がいた〇〇村が、盗賊に襲われたんだ」
「ええっ!? それで△△ちゃんたちはどうしたんだい!?」
「△△たちはなんとか逃げてきたんだけど、領主は兵士をよこすどころか、ダメになった村が納めるバズだった税の心配ばかりだと」
「なんだいそりゃ! 村や町を護るために騎士や領主がいて、護ってもらう代わりにあたしらが税を納めるんだろ! それなのにあいつらときたら全くの役立たずだね!」
「事実です」
「マイナス10点」
足を怪我をした父親らしき人物と手を取って寄り添う娘の話声が聞こえる。
「お父さん大丈夫?」
「痛いたたたた、クソッ! あの司祭のヤロー、寄進の額が少ないからって治療に手を抜きやがって!」
「教会も結局お金なんだね」
「ああ! 爪に火を灯すようにして貯めた虎の子の貯金も、今回の俺の怪我の治療でスッカラカンだ。 そこまでして教会に行っても、ろくな治療を受けられねぇ! すまねえ、ますますお前に苦労を掛けるな」
「花月?」
「事実です。 この世界では、宗教の教会が医療も担っていますが、とても聖職者には見えず、金ピカのブタです。 彼らは金払いのいい貴族相手には全力を尽くし、お金の無い平民には非常に冷たい。 あの親子のようなケースはそこかしこで見受けられます」
「マイナス10点」
その後も要は街の噂を拾いながら評価をつぶやく。そして王都を大雑把に一回りしたころ、ついに真央が道端にしゃがみ込み動かなくなった。
要は取り敢えず鞄から椅子を取り出し真央を座らせる。 ついで飲物と鎮静作用のある錠剤を出して真央に勧める。
真央は飲物を受け取り少し口を付けたが、錠剤は断った。
しばらく青い顔で椅子に座っていたが、ポツリポツリと話し出す。
「私はたぶんこの国でお尋ね者になっていますので、衛兵に見つかりはしないかと、気が気じゃないんです」
要の問いかけに、真央はこの中世ヨーロッパのような街並みの王都に、強い不安や恐怖を感じていると答えた。
原因は役立たずだからと召喚の儀式の生贄にされそうになったり、尾崎と城から逃げ出した後さんざん追い回されたときの恐怖が、非常に衝撃的な体験としてトラウマになっているらしい。
「尾崎さんを助けるんだと息巻いていたのに、自分でも驚いています。 本当、役立たずですね、私。 自分で自分がイヤになる!」
泣きそうになりながらグッとこらえる真央の様子に、ちょっと考えた要は安心させるように優しく微笑み、そしてハグする。
「コートの光学迷彩機能により姿を消し、検問である城壁の通用門から堂々と入場しましたが、誰も気がつかなかったでしょう。 大丈夫、見つかりませんし、尾崎さんも助けられます。 でもそんなことより、神崎さんは大変怖い思いをしたんですからどうしたって思い出してしまうのは仕方ないことです。 無理をしなくて良いんですよ。 いきなり日本から無理矢理連れてこられ、様々な体験によって本当はすごく傷ついているんだと様々な拉致被害者を見てきた私に分かります。 神崎さん、たくさん泣いて良いんですよ、理不尽だとたくさん怒って良いんですよ」
真央はその笑顔を見て、そして優しいハグに思い出す。 初めて会った時にも見たあの笑顔だ。 私を助けてくれた時、頑張りましたねと労ってくれた時と同じだと、子供のころに母親に抱きしめられたときのような深い安心感に包まれる。 こらえきれず泣き出す真央の頭を優しく撫でる要。
どのくらいそうしていたのか、ようやく真央は顔を上げ周りを見渡す。白昼堂々王都のメインストリートの壁際に、この国の物とは明らかに違う服装の男女が抱き合っているが、道行く人は誰も二人に気づかない。
周りの人が要と真央に全く気付かずに無反応であることを改めて確認し、やっと真央は落ち着くことができた。
そして落ち着いてみたら、自分たちの今の状態が意識され、真央は自分の顔が真っ赤になる音を聞いた気がした。
「それじゃあ、いよいよメインイベントのお城訪問と行きますか」
要の掛け声に、ただうなずく真央だった。
次回こそ敵の城に乗り込みます。
お読み頂き、ありがとうございます。
感想をお待ちしています。誤字脱字・矛盾などのご指摘はなるべく優しくお願いします。