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第2話

「あなた、日本人?」


 私、神崎かんざき 真央まおは座り込んだまま、茫然と目の前の人物に問いかけた。


「はい、神崎さんと同じ日本人です。 神崎さんを迎えに来ました」


 目の前のあり得ないほどキレイな男の人(だと思う)は、諏訪すわ かなめと名乗ると、私の問いかけに、そう答えて優しく微笑んでくれた。


「私、帰れるの?」


 心臓の音がうるさいくらいにドクドク鳴っている。 そしてゴウゴウと血液が流れる音が聞こえる気がする。


「はい。 日本に帰れます。 私があなたを保護したからには、もう大丈夫です。 今までよく頑張りましたね。 偉いですよ」


 ゆっくりとハッキリ帰れると答えてくれた諏訪さんは、私の頭を優しく労う様に撫でてくれた。


 私の中で、今まで押さえつけてきた様々な感情が一気に溢れ出し、涙腺が決壊した。


「お、「おじさん」が助けてくれたの、私たちと同じ日本人だって言ってた。 「おじさん」は私を逃がすために、大けがして、それで自分は囮になるって! お願い助けて、おじさんを助けて!!」


 そして涙で顔をくしゃくしゃにした私が、支離滅裂なことを言うと、諏訪さんは分かったという風に頷いてくれた。


 それを見た私は、何故だかもう大丈夫と安心し、疲労と空腹で気を失った。


 倒れる私を諏訪さんは優しく抱きしめてくれた。





 それはある日突然起きた出来事だった。気が付いたら、私は異世界にいた。


 私は放課後に学校の教室で、いつものように一人で読書していた筈が、突然教室の床に何かの図形が浮かびあがり、眩く光ったと思ったら、何故か見知らぬ広間で見知らぬ人々に取り囲まれていた。


 彼らの恰好は、私が教科書で見た中世ヨーロッパの王や貴族のような衣装で、兵士らしき人たちは鎧兜に槍を持っていた。


 突然こんなコスプレをした人たちの登場に、何が何やら分からずうろたえる私。実際は彼らはこの国の王やその側近と彼らを衛る衛兵だった。


 彼らは何かを訴えているが、言葉が通じず内容が分からない。しかもどこか上から目線でこちらを侮どるような気配が感じられて、とても気分が悪かった。


 右往左往する私に、次第に王たちは不機嫌になっていった。王とその側近である彼らにとっての勇者とは、魔王を倒す困難な任務も二つ返事で引き受け、絶対服従する便利な存在のことだった。


 しかしそもそも致命的な問題があった。間の抜けたことに私には彼らの言葉が通じていなかったのだ。


 どうやら召喚を行った術者が召喚の魔法陣に言語に関する記述を入れ忘れていたらしく、よくある異世界召喚ものの小説の様に異世界言語習得とはいかなかった。


 王の側近に、勇者としてこの世界を魔王の魔の手から救ってほしいと、けっこうな時間をかけて説明され、私はなんとか召喚された目的をおぼろげながら理解した。しかしいきなり勇者だの魔王だの世界を救うだのと言われてもとても現実とは思えなかった。だってそうでしょう。いくらゲームやネット小説ではよくある設定とはいえ、現実にこんな場面に遭遇してすぐに順応したらそれはそれで問題有りだと思う。まして私は、あまりその手のゲームや小説は今まで読んでこなかった。


 そして極めつけは、私には魔王を倒すことができるような才能はなかったことだ。


 この世界には個人が秘めている才能をある程度計測できる便利な魔道具があったが、それによると確かに私は魔力こそこの世界の常人よりも多いらしいが、才能は戦闘ではなく物作り系にあることが分かった。正直、私としては魔力なんてものが自分にあることの方が驚きだったが。


 しかしそれも常人よりは確かにすごいが、それでトンデモ武器や防具を生産できるとか、通常よりも何倍も効果の高いポーションを生み出せるとかではなく、あくまでこの世界の常人よりは多少才能があるので、もの覚えがよいとか失敗が少ないという程度だった。それでもこの世界の庶民だったなら十分食べていけるだろうが、王や側近たちにしてみればわざわざ異世界から召喚した勇者というには、大変期待外れだった。


 失望を隠さずこちらを侮蔑する彼らの態度に、私は腹が立ってきたが、孤立無援の状況は感じていたためにグッとこらえた。


「用がないなら、私を元の世界に帰して!」


「うるさい、この役立たずの無能が! 衛兵、こやつを牢に放り込んでおけ、次の召喚の儀式の生贄にする!」


 大声を上げた王に驚き茫然としていた私は、捕えようと近寄ってくる衛兵に簡単に捕まってしまい牢に放り込まれた。


 そのあとは生きた心地がしない怒涛の展開だった。


 周囲の剣呑な雰囲気に震える私は、新たな召喚の儀式の生贄にされそうになり、「おじさん」に寸前で助け出されたが、安心する間もなく「おじさん」と離ればなれになり、最終的に追手に捕まってもうダメかと思った時に諏訪さんに助けられた。


「おじさん」の安否が心配だ。







お読み頂き、ありがとうございます。

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