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第11話

日に日にPV数やブックマーク数が増えています。


これからも異世界転移召喚事故対策部ファンタジー課・拉致被害者奪回班(仮)をよろしくお願いします。


8/10 読んでいて分かりにくい部分に若干手を入れました。 大筋はいじっていません。

 私は今夢を見ているのか……。


 私はコロン王に要請された勇者召喚の儀式を行うため、教会により派遣された一介の司祭に過ぎない。 勿論、多額の寄進を貰い、そのうちの幾らかは私のフトコロに入るはずだった。 強制的に異世界に召喚される者がどのような人物かや、これからどうなるのかも興味がないし、その儀式の生け贄になる者の素性や人数も知ったことではなかった。 興味があるのはフトコロに入る金貨の額だけだ。


 しかしここで驚いたことに、今夜儀式を行うという日の昼間に、生け贄と同国の特使を名乗る集団が現れた。 その中には先日の召喚の儀式で呼び出したものの、オザキたちの手引きで逃げられたマオ・カンザキも交じっていることが確認された。

 聞けばこの特使は、この大陸で一二を争う大国ゼント王国に抗議し、オザキたちの解放を要求しているらしい。


 私はコロン王たちと一緒に、自らドラゴンの巣穴に飛び込んで来たその道化たちを嘲笑し、マオ・カンザキを含むこの特使団を捕えるショーを見物するために中庭に出た。


 ところが――――


 蓋を開けてみれば驚くべきことに、彼らはなんと20人前後の人数で、この国の精鋭である近衛兵と魔法兵団300人を完全に手玉に取っている。 この目で見ても信じがたい光景だ。


 こうなった原因は見当が付く。

 それは相手は切り札の一つであろう、バラまかれた未知の光の粒だ。

 まさか、魔法を使えないようにするなどということが出来ようとは、見たことも聞いたこともない。 

 それはまさに驚愕の一言に尽きる。

 なにせ王国軍の力の根幹は、まさに魔法の技術や武具類が担っているのだ。

 その魔法を使えないようにするということは、彼らは翼をもがれた鳥も同然の無力な存在になるということだ。これは極めて相性の悪い相手だ。

 さらに厄介なことに、相手は個人個人が相当な武を持ち、このままでは近衛兵と魔法兵団は壊滅させられるのを待つばかりであり、しかもそれだけではなく、彼らは我々が見たこともない不思議な魔道具を多数用意して来ている。

 おそらく、今後の計画もキチンと立てているのだろう。 このままでは、良くて王とその側近たちが攫われ他国の手に落ちるか、最悪は殺される。


 そうなれば、今はこの王国の力で押さえつけられて属国の扱いを受けている複数の周辺国が、黙って見てはいまい。 ゼント王国は実は聞いたこともない国の使節団約20人に自国の王城を良いように蹂躙され、あまつさえ王たちを攫われ、もしくは殺されたことはすぐに知れ渡り、情けない国と侮り、すぐさまゼント王国包囲網を敷き、一斉に攻めて来る、もしくはタイミングによっては、王たちを助ける名目で軍を進めてくることもあり得る。


 これはマズイ。 急いでこの場から逃げ、教会に報告しなければ。 ああ、それにしても魔法を封じる光の粒は治癒系の魔法も使えなくするとは! この効果一体どれほどなのか!? それを知らずに逃げる訳には、クソッ!!



――――――――――――――




「尾崎さんたち、こちらへ」


 真央は尾崎たちを呼ぶが、かれらには手枷で拘束され自由には動けない。


「コロン王、尾崎たちをこちらに解放しろ」


 上から口調の要を、憎憎しげににらむ王。 その時、大人しかった宰相が近衛兵に命令する。


「近衛兵、オザキたちを人質に取……!」


 ドサッ!


「へっ!? う、うわー! なんで私の腕が、腕が! 誰か、治癒、治癒魔法を掛けてくれ!」


 宰相が尾崎たちを人質にするよう指示を出した――否、出そうとした時、王や近衛将軍たちゼント王国側の誰も気付くことなく突然現れた人影が、宰相の右腕を斬り落としたのだ。


「一応キレイに斬っといたから、今ならまだ手術でくっ付くと思うよ。 これにりたら要様の邪魔はしないことねー。 じゃね!」


 その人影はわめく宰相に、何でもないことのような口調でそう言うと、現れた時同様また突然消えた。

 誰も知らないうちに突然現れ、突然消える。 その驚くべきわざに戦慄するゼント王国側。

 誰もが思った。 迂闊なことを言えば、次は殺される――。


「ダメです! 治癒魔法も発動しません!」


 宰相の治療にあたっている魔法使いが、悲鳴のような声で報告する。 その声にハッとするコロン王たち。


「ご苦労様。 ――ああ、魔法のたぐいは使えないよ。 ってかいい加減、それくらい気づいているだろ。 早く止血したら?」


 後ろを振り返って誰とも言わず部下を労う要が、正面の対応の遅いコロン王にどうでも良さそうな口調で止血を促す。


 それを聞いた主席魔法使いが部下に止血を指示するが、部下は魔法でしか治療をしたことがないらしく、オロオロと戸惑っている。 見かねた近衛兵が代わって止血する。 どうやら近衛兵は傷の手当を心得ているようだ。


「おい、魔法を使えるようにしろ!」


「あ? バカか? 何が起こっているのか、説明する気はない、って言ったろ。 当然、対処もしないし、方法を聞かれてホイホイ教える訳ないだろ。 それで? 早く尾崎さんたちをこちらに引き渡せよ。 次、舐めたことしやがると――」


「近衛兵、は、早くオザキたちを引き渡せ!」


 要が不機嫌な声で再度要求すると、コロン王は焦ったように近衛兵に命令する。 それを聞いた近衛兵は素直に手枷を外して、尾崎たちを解放する。 


 尾崎たちは何が起きたのかイマイチ把握できないまでも、手枷の外れた手首をさすったり怪我している部分をかばいながら、要というより真央と合流する。


 要の部下が何人か動き、救急隊員が災害被害者にするように、尾崎たちに毛布を掛ける。


「んっ?」「これはっ!?」「あれっ!?」


 毛布を掛けられた尾崎たちが、驚きの声を上げる。


「尾崎さん、どうしました!?」


 真央が慌てたように声を掛ける。 尾崎が真央に向けて、大丈夫というように片手を上げるしぐさをする。


「神崎さん、大丈夫。 あの毛布はこのロングコートや服と一緒で、着用者の周りの気温を調節しいつでも快適に過ごせる機能がありますし、さらに怪我人や災害、犯罪等の被害者の着用を前提としていますから、疲労の回復を促し怪我の回復を早める効果もあります。 後、毛布自体に自動で勝手にクリーニングされる機能もありますので、一年中使用したままでも全く問題ありません」


「ええーっ!?」「なんだその出鱈目な効果は!?」「どこの国の国宝!?」「これ一枚でどんだけの値段がつくんだ!?」


「いえ、それは我々が普段から使っている備品ですから、国宝なんて凄そうなものじゃありませんよ」


 要の説明を聞いていた真央と尾崎たちは、そろって驚愕の声を上げる。 さらにこの会話が聞こえていたのであろう、ゼント王国側のメンバーも驚愕している。 大陸一の王国を謳っていても備品の毛布一枚一枚に、要たちの言うような複数の効果は付与できない。 そのことを要は勿論調査済みであり、これも相手の心をヘシ折る交渉術だ。


「なんだそりゃあ!? 真央嬢ちゃん、彼らはほんとに日本の人間か?」


 尾崎が要の説明に納得がいかず、真央に説明を求める。 コロン王たちは憔悴した青い顔で、要たちを茫然と眺めていた。


「そうですね。 神崎さん、あなたは尾崎さんたちについていてあげてください。 それとついでに説明もお願いします」


「あ、はい」


 要は真央に尾崎たちのフォローを任せ、コロン王に向かって話を切り出す。


「おい、いつまで私たちをこんなところに立たせているつもりだ?」


 要は王にどこか話のできる場所へ案内しろと要求する。 まだ、交渉は始まったばかりだ。 コロン王たちに、賠償の額の取決めやら今後の召喚の禁止を約束させる必要がある。




――――――――――――――




 腰を落ち着けて交渉する場所として案内されたのは政務室だった。 そこそこの広さと、大きなテーブルには筆記具も沢山ある。 ここはこの国の国王や宰相や公爵といった身分の高い者たちが集まり、次の勇者召喚の儀式について話し会っていた場所だ。


 早速賠償問題が話し合われた。

 そこで圧倒的な武力と技術力を持つ要たちが交渉の主導権を握り、謝罪と賠償を迫って来てコロン国王たちはかなりの煮え湯を飲まされた。 しかし、事実上一国の首都を落とし王城を制圧した要たちが、国王他重臣たちの身柄を押さえているものの、それを盾に国を乗っ取るでもなく、あくまで拉致問題の賠償交渉を望んでいることに、コロン国王たちは安堵と困惑を感じていた。

 まあ、当初の賠償額は国家予算の一年分を吹っ掛けられ、それを交渉で半分に負けもらい、なおかつ即金で払えない分を、要たちにたいして価値のないガラクタと断言された国宝や魔道具やらの物納にされゼント王国側は全員涙目だったが。

 だが、要からすればコロン王たちがどう思おうがそんなことはどうでもよいことだった。 日本政府の役人なんかは、そのまま石油や鉱物などの資源や財宝なんかを押さえろというかもだが、要からすれば異世界の国なんぞに興味はなかったというのが本当のところだ。


 因みに現金の支払いは王国金貨で行い、金貨の純度もきちんと調べて、粗悪な物は容赦なくはじいてある。


 そして交渉は異世界召喚の取り扱いに移る。 召喚の拉致被害者奪回と並んで、もっとも重要なことがこの案件だ。 いくら被害者を奪回しても、また召喚で拉致されては堪らない。 その為には術者も逮捕する必要がある。


「異世界より勇者を召喚する魔法と施設、及び関連資料等は一切の例外なく、これを完全に廃棄、それと実行した術者の身柄の引き渡し、です」


 要は一切妥協ぜずという態度で、キッパリと言い切る。


 要の要求を聞いたコロン王はチラッとある男を見る。


 コロン王の視線の先にいたのは聖職者風の男だ。 もっとも聖職者の見た目は白い法衣だけで、金のアクセサリーや指輪をたっぷりした丸々肥ったブタだ。 日本側のメンバーは一目でこの人物を看破する。 ああ、こいつは金にまみれた典型的な聖職者風の俗物だと。


「ふざけるな! なぜ儀式を依頼された「だけ」の私が、日本などという国に連れていかれなければならない!!」


「あなたは?」


 要のどうでも良さげな誰何すいかに、この大陸で一番大きな勢力を誇るサンバラ正教会の司祭だと名乗る。 それを聞き日本側のメンバーは、ああやっぱりなと思う。


「勇者召喚の儀式は会遥か千年の昔に、魔王に率いられた魔族に世界中の国々が侵略され、人族が滅亡の危機に陥ったとき、神より授けられたという我がサンバラ正教会の秘儀だぞ! これにより、多大な犠牲を払いながらも異世界から勇者を召喚し、魔王を退け危機を脱したのだ。 ただ、その後に何度かおこった人族の国家間の大戦で長く失伝していたものを、苦労して近年ようやく復活させたのだ。 コロン王はその儀式で持って勇者を召喚し、魔族を駆逐しようと……」


「そのようなことは我々日本国の関知するところではありません」


「なんだと……?」


「いいですか、あなた方は勇者召喚などと馬鹿げた儀式で、我々の国の国民を拉致しているのですよ。 それなのにあなた方はこの儀式を続けると言う。 これは拉致の続行を宣言するに等しく、わが国として全く受け入れられないと申していますし、あなた方にとって儀式がどれほど大事かなんて、どうでも良いと言ったのです。 ただ、その儀式が原因で、私たち日本国の国民が不当に拉致され、このような事態になっている。 我々は当然実行犯を逮捕し処罰する。 こんなことはどんな国でも当たり前のことでしょう。 」


「き、貴様……!」


 サンバラ正教会の司祭だと名乗る金ぴかのブタが色々と理屈を並べているが、要は構わずさえぎり、日本の国民が今後も拉致される可能性は認めないことをハッキリ主張する。


「チッ、日本国だか知らんが、平民がどうなろうと、どうでも良いではないか。 まあゼント王国の国民ではない私の身柄を、王がどうすることもできまいが」


 ブタが嘲るように小声で発した言葉は、この部屋にもしっかり配置している光学迷彩の無人偵察機サテライト経由で、要たちの付けているイヤホンマイクにしっかり届いていた。 その発言を聞き、日本側のメンバーのがキラリと光ったのをゼント王国側は知らない。


「さあコロン王、司祭の身柄の引き渡しと、異世界召喚の儀式に関するものをすべて、廃棄していただけますね」


 要は司祭の発言には触れず、コロン王に決断を迫った。










お読み頂き、ありがとうございます。


誤字・脱字、矛盾などのご指摘は、やさしくお願いします。


感想を書いたりブックマーク登録をしていただいた方、本当にありがとうございます。


次回もなんとか早くUPできるよう頑張ります!!

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