カーナビゲーションの恐怖
中古品のカーナビを車に搭載した和也は、その性能を確認するため、東京近郊のとある湖に目的地をセットした。
「中古品とはいえ、でたらめな道案内をする事はないだろう。そういえば店員が、変な現象があるかもしれないなんて言っていたけど、一体どういう事なんだろう。まあ、とりあえず出発するか」
和也は独り言を言いながら、車をスタートさせた。
『100メートル先の交差点を右折して下さい』
ナビの音声はなぜか寂しそうな女性の声だった。
「寂しそうな声だなあ。折角のドライブなのにテンション下がるな。まあ2万円のカーナビなら仕方ないか。そのくらいは我慢しよう」
和也はナビの案内通り、その交差点を右折した。
『300メートル先。斜め左方向です。その先、首都高速に入ります』
「ナビの案内は特に問題なさそうだな。寂しそうな音声以外は」
車は首都高速に入り、そのまま中央高速に入り、走り続けた。
「富士山も見えてきて、いい景色だなあ」
1時間ほど走ったところで和也は呟いた。
『いい景色です。あの日と同じように』
と、どこかから聞こえてきた。
「ん。何だ? ラジオもCDもかけていないけど。気のせいかな」
『気のせいではありません』
和也は、先ほどから道案内をしているナビの声だと気づいた。
「えっ。ナビ? どういう事?」
『はい。このカーナビには所有者と会話する機能がついています』
「会話って。へえ、それは面白い。会話できるカーナビなんて聞いた事がない。店員が言っていた変な現象とはこの事なんだろうか」
和也はまた独り言を言った。
「でもそれなら、何で家を出てからここまで、会話しなかったの?」
『それは、あなたとは初めてなので、少し緊張していて』
「えっ。ナビが緊張するかあ?」
『はい。でもあなたが優しそうな人なので、安心しました』
「相手がナビでも、そんな事を言われると嬉しいもんだなあ。こうやって一人でドライブするのには飽きなくていいや」
和也はそのまましばらく中央高速を走った。
「そう言えば、さっき『あの日と同じように』って言ってたけど」
『いえ。別に何でもありません。このまま進んで下さい』
「気になるけど、まあいいか」
『およそ1キロ先、斜め左方向です。その先、大月インター料金所です』
「えっ。このインターで降りちゃうの?」
『はいそうです。私の案内通りに進んで下さい』
近道でも案内してくれるのかと思い、和也はそのままナビの案内通り、大月インターで降り一般道を走り続けた。
「狭い山道になってきたけど、この道で間違えないの?」
『はい、大丈夫です。道なりに進んで行って下さい。もうすぐです』
「もうすぐって。目指している湖はもっと先だと思うんだけど・・・。安物のナビだから仕方ないか。はいはい、了解しました」
道幅は更に狭くなり、太陽の光もあたらないくらいに緑に覆われた山道となり、やがて舗装されていない道へと変わっていった。そのまま左右にカーブが続く道を走り続けた。気が付くと、後続車も対向車もいない道を走っていた。
『次のカーブの手前で、車を止めて下さい。目的地に到着です』
「目的地って。全然違うよ。湖じゃなくて山の真ん中じゃないか」
和也はそう言いながら、カーブの手前で車を止めた。
『車を降りて、カーブの先を確認して下さい。そこが目的地です』
和也は車を降り、カーブの先へと歩いていった。そこは崖になっていた。そして崖の下をよく見ると、50メートルくらい下に、車が逆さまになって落ちているのが見えた。和也は急いで車に戻った。
『その車の中に、私がいるの。早く助けて』
その後、転落した車の中から、20代の女性の遺体が見つかった。