表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

カーナビゲーションの恐怖

作者: 輝 美津夫

 中古品のカーナビを車に搭載した和也は、その性能を確認するため、東京近郊のとある湖に目的地をセットした。

「中古品とはいえ、でたらめな道案内をする事はないだろう。そういえば店員が、変な現象があるかもしれないなんて言っていたけど、一体どういう事なんだろう。まあ、とりあえず出発するか」

 和也は独り言を言いながら、車をスタートさせた。

『100メートル先の交差点を右折して下さい』

 ナビの音声はなぜか寂しそうな女性の声だった。

「寂しそうな声だなあ。折角のドライブなのにテンション下がるな。まあ2万円のカーナビなら仕方ないか。そのくらいは我慢しよう」

 和也はナビの案内通り、その交差点を右折した。

『300メートル先。斜め左方向です。その先、首都高速に入ります』

「ナビの案内は特に問題なさそうだな。寂しそうな音声以外は」

 車は首都高速に入り、そのまま中央高速に入り、走り続けた。

「富士山も見えてきて、いい景色だなあ」

 1時間ほど走ったところで和也は呟いた。

『いい景色です。あの日と同じように』

 と、どこかから聞こえてきた。

「ん。何だ? ラジオもCDもかけていないけど。気のせいかな」

『気のせいではありません』

 和也は、先ほどから道案内をしているナビの声だと気づいた。

「えっ。ナビ? どういう事?」

『はい。このカーナビには所有者と会話する機能がついています』

「会話って。へえ、それは面白い。会話できるカーナビなんて聞いた事がない。店員が言っていた変な現象とはこの事なんだろうか」

 和也はまた独り言を言った。

「でもそれなら、何で家を出てからここまで、会話しなかったの?」

『それは、あなたとは初めてなので、少し緊張していて』

「えっ。ナビが緊張するかあ?」

『はい。でもあなたが優しそうな人なので、安心しました』

「相手がナビでも、そんな事を言われると嬉しいもんだなあ。こうやって一人でドライブするのには飽きなくていいや」

 和也はそのまましばらく中央高速を走った。

「そう言えば、さっき『あの日と同じように』って言ってたけど」

『いえ。別に何でもありません。このまま進んで下さい』

「気になるけど、まあいいか」

『およそ1キロ先、斜め左方向です。その先、大月インター料金所です』

「えっ。このインターで降りちゃうの?」

『はいそうです。私の案内通りに進んで下さい』

 近道でも案内してくれるのかと思い、和也はそのままナビの案内通り、大月インターで降り一般道を走り続けた。

「狭い山道になってきたけど、この道で間違えないの?」

『はい、大丈夫です。道なりに進んで行って下さい。もうすぐです』

「もうすぐって。目指している湖はもっと先だと思うんだけど・・・。安物のナビだから仕方ないか。はいはい、了解しました」

 道幅は更に狭くなり、太陽の光もあたらないくらいに緑に覆われた山道となり、やがて舗装されていない道へと変わっていった。そのまま左右にカーブが続く道を走り続けた。気が付くと、後続車も対向車もいない道を走っていた。

『次のカーブの手前で、車を止めて下さい。目的地に到着です』

「目的地って。全然違うよ。湖じゃなくて山の真ん中じゃないか」

 和也はそう言いながら、カーブの手前で車を止めた。

『車を降りて、カーブの先を確認して下さい。そこが目的地です』

 和也は車を降り、カーブの先へと歩いていった。そこは崖になっていた。そして崖の下をよく見ると、50メートルくらい下に、車が逆さまになって落ちているのが見えた。和也は急いで車に戻った。

『その車の中に、私がいるの。早く助けて』

 その後、転落した車の中から、20代の女性の遺体が見つかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 最後どうなるかハラハラしましたが、悪いカーナビじゃなくて良かったです。 読み終わって思うと、物腰が穏やかで優しいカーナビだったと思いました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ