とある神様のおとぎばなし
むかしむかし ある処に 一振りの刀がおりました
刀はいつも ヒトと共におりました
むかしむかし ある処に 一人の刀がおりました
刀はいつも ヒトを見ていました
刀は 自分が咲かせる緋い華より ヒトの笑顔が好きでした
だから刀は 抵抗もせず ヒトにその身を委ねていました
ある時 刀は思いました
「僕もヒトと一緒に 笑ったりしたいなあ。
僕もヒトになりたいなあ。」
そのちいさなお願いを叶えてくれたのは 不思議な力の悪戯でした
刀は最初 とても喜びました
「これで僕も ヒトになれた。――これで僕も、ヒトと笑えるんだ。」
でも刀は自分が 「ヒトに似て非なるもの」だということを知りませんでした
むかしむかし ある処に 一人の神様がおりました
月光のような銀の髪に 紅玉のような緋色の瞳
美しく優しいその神様は ヒトにとても愛されました
神様は 今も変わらず ヒトが好きでした
けれど皆いつか 神様を置いて 逝ってしまうのです
その度に 神様は泣きました
その人が 好きであればあるほど たくさん 泣きました
何度も 何度も 繰り返して 何度も 何度も 泣きました
何度も 何度も 繰り返して 何度も 何度も 心は砕けました
何度も 何度も 心はばらばらになって 元の形さえわからなくなりました
それでも 神様は ヒトを愛し続けました
輝く記憶と 底なしの哀しみだけが 残りました
何処も怪我をしていないのに 何故か胸が痛みました
「哀しいよ 痛いよ」
それでも 神様は
「寂しいよ」
愛さずにはいられませんでした
たくさん たくさん 愛しました
たくさん たくさん 愛されました
けれど 涙は止まりません
みんな 神様ひとりを残して 逝ってしまうのでした
ある時 神様は 思いました
「これを 永遠に 繰り返すの?」
神様は こころに鍵をかけようとしました
それでも 寂しさには勝てなくて
ヒトの温かな優しさに触れたくて 愛さずにはいられませんでした
「このままでは いけない」
戒めのために 神様は
自分で自分に 呪いをかけました
二度とヒトを愛さないように 二度とヒトを愛せないように
愛してしまえば 永く遠い苦しみを 味わうこととなる呪いを
神様は初めから 全部全部 分かっていたのです
ヒトをどんなに愛しても 最期は 風のように儚く消えてしまうこと
消えてしまえば ヒトは自分のことなんて 忘れてしまうこと
――そんなヒトを 自分は 愛さずにはいられないこと
むかしむかし ある処にいた 独りの神様を
知っているヒトは もう いません