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トラウマからのRELEASE

(そういえば……あの時以来人前でユニークスキルを使うことはなくなったのだったな)


 幼い頃のあまりいいとは言えない記憶を走馬灯のように思い出して、ふと我に返った。

 

(あの時とは違う……私を恐れる者はいないはずだ)


 ドミニエルは浮遊する岩の一つに向かって腰を低くしユニークスキルを試してみることにした。


[フレイム・ファウスト]


 一瞬握った拳が紅く輝くが、一瞬で消えてしまう。

 瞬間、脳裏に何か聞こえた気がした。

(こn……こw……あなt……)


「どうしまして?来ないならこっちから行きますわよ?」


(どうしてだ……なぜ使えない……もう一度だ)


[フレイム・ファウスト]

 

 しかし、拳の輝きは一瞬で消えてしまう。

 そして、今度は先程よりもはっきり声が聞こえた気がした。

(来ないで……怖いの……あなたが……あの人たちよりも強いあなたが……)


(ああ……そういうことか……あのあとシェスカに聞いたこの言葉が今でも忘れられないのか……)

 



 スキルが使えないとわかると、スキルを使うことを諦め、攻撃の回避に専念した。

 あらゆる方向から向かってくる無数とも思える程の岩をドミニエルは最低限の動きだけで回避し、回避できないと思った岩のみ迎撃した。

 一方的な回避だけでは体力を消耗するだけだ。徐々に回避が間に合わず、岩が掠めるようになった。



「どうしたんだい?避けるだけじゃジリ貧よ?」

「……」


 今のドミニエルには避ける以外の方法がなかった。




***前日***  


 この日セベサは仕事を休んであるところへ向かっていた。

 

 コンコンッ


 ドアを軽くノックすると中から、はぁーいという声が聞こえた。

 少し待つと中からエプロンをした女性が現れた。


「お久しぶりです。セベサです」

「あら、セベサくん。本当に久しぶりね。元気にしてた?」

「はい、元気です。それで、今シェスカはいますか?」

「少し出かけてるのよ。もう少しで帰ってくると思うわ。上がって待っててちょうだい」

「あ、はい。ありがとうございます」


 中に入ると子供の頃と内装は変わっているが、雰囲気は変わらなかった。

 ダイニングルームのテーブルに座っているとお茶を出してくれた。

 

「何年ぶりかしら?」

「もうかなりの間会ってませんね。シェスカは今はどうなんですか?」

「もう元気の元気よ。1年後にはあの事件を忘れたように元通りだわ」

「それはよかったです」

「でも、頑なにあなたたちに会うのを躊躇っていて。特にドミニエルくんにはね」

「そうなんですか、僕たちもあれ以来疎遠になってしまって。ここ最近になってたまにドミニエルは店に来てくれるようになったんですが」

「でも、あの子本当は会いたいと思っているはずよ。そういえば、今日はどんな用事?」

「そうでした。明日デーメロス武道会があるんですが、それにドミニエルが参加するみたいなんです。今年はみんなを誘って応援しに行こうかなと思いまして」


***ダイニング近く***


 数分後……


(誰か来てるみたい……お客さんかな?)


 いきなり入るのは躊躇われたので、少し中の様子を伺った。

 

(え?セベサ?どうしているの?)


 話を聞いていると、どうやら自分をドミニエルの参加する大会へ誘いにきたようだとわかった。

 その話を聞いて、みんなに会いたかった気持ちが一気に膨れ上がった。特にドミニエルには……


「来ないで……怖いの……あなたが……あの人たちより強いあなたが……」


 捕まっていたとき、心に深く力への恐怖があった。

 病院にみんなが来てくれたときまだ心にその恐怖が残っており、自分でもえsけがわからないうちに言ってしまっていた。

 その言葉を聞いたドミニエルがとてもショックを受けているのはわかっていた。しかし、その場で謝ることができなかった。

 病院を退院したあとは両親と共に遠くの町へ引っ越した。

 ずっと、ずっと謝りたいと思っていたが、どう謝っていいのかわからないまま月日が流れてしまった。

 最近になってまた元の町に戻ってきたが、謝る機会は訪れなかった。




 バンッ


 その時、ドアが勢いよく開かれた。


「行きましょう!」

「え?あ、シェスカ!びっくりした」

「ひっさしぶり!元気そうだね。いいよ。応援行こうよ!」

「じゃあ、決まりだね。ラルスはもう誘ってるよ」

「わかった」


(やっとあの時のことを謝れるんだね……ごめんね……ドミニエル……)




***デーメロス武道会・会場***


 会場の席で応援に来ていたシェスカはドミニエルの微かに輝いた拳の光を見逃さなかった。


(あの光は……あのときみんなを助けに来てくれたときの……でもすぐ消えたってことは……)


 そして、少ししてもう一度試したようだが、やはりすぐに輝きは失われた。


(やっぱり使えないのかな……あの時の言葉が原因……よね……)


 その時、意識せずシェスカは席を立って最前列まで走っていた。




******


「ごめんなさい!」


 急にそんな声が聞こえた。

 あの時のような幼さはないが、声の主がはっきりわかった。


(……シェスカ……?)


 声のする方を見ると大人の顔立ちになっていたが、確かにシェスカだとわかった。

 シェスカは会場に響くような大きな声で言った。


「ずっと!!ずっと謝りたかったの!!でも!怖くて!本当にごめんなさい!!あの時は……」


 その瞬間、ドミニエルは心を縛る冷たい鎖のようなものが溶けていくような気がした。


「それ以上はもう、言わなくていい。元気そうで本当に……本当によかった」


 思わず涙が出そうになるが、なんとか堪えた。


「もう大丈夫だ、大丈夫だ。何も心配しなくていい」

「本当に?終わったらすぐに会いにいくからね!」

「ああ」


 いつの間にか会場のからたくさんの拍手は送られていた。


「頑張ってね!」

「もちろんだとも」


 ドミニエルは今までにないほど心が晴れやかだった。

 

「待たせてしまったな」

「気にしないでいいわよ」

「それは良かった」

「でも、私はこのまま本気で行くわよ?」

「ああ。その上で私が勝つ!」


「”ウォール・ロックズ!!”」


 いつの間にか消えていた数十もの岩がエルゼの周りに再び出現した。


「これくらいの岩など」


 腰を低くし、全ての岩の場所を確認し、狙いを一つの岩に絞った。


[フレイム・ファウスト!!!!]


 紅く輝く炎を(まと)った拳で狙った一つの岩を吹き飛ばした。

 吹き飛ばされた岩は進行方向の岩にぶつかり、砕け散った。そしてぶつかった岩勢いそのままにまた別の岩へぶつかり砕け散る。それを幾度も繰り返し――


「なに?制御できない!」


 本来なら制御できるはずの数十個の岩が全く制御できなくなっていた。

 そして、さいごに残った岩が向かった先はこの岩を作った本人であるエルゼの元へ飛んでいた。


 予想外の出来事で一瞬エルゼは焦ったが、なんとか回避をした。

 焦りから回避をするというところまでは良かったが、岩の回避に集中しすぎた。


 襲い来るドミニエルに気がつかず接近を許してしまい――


「フレイム・ファウスト!」


 威力抑えているため先ほどまでの炎の輝きはなかったが、人をリングの外へ飛ばすには十分な威力だった。

 先ほどの出来事があっての勝利ということもあり、観客席から歓声と共に拍手も送られた。


「エルゼ選手の場外負けにより、ドミニエル選手の勝利!」


 一層大きい拍手が送られた。

 







読んでいただきありがとうございます。


 ついに準決勝の決着がつきました。

 次話ではユニークスキルを自由に使えるようになったドミニエルとの決勝戦になります。響はドミニエルに対してどのような戦いをするのか?

 

 次話もお楽しみに

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