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回想:fear

 シェスカがいなくなってから2週間が経つ。

 その間にさらに数人の子供が行方不明になった。

 いずれも年端もいかない子供ばかりだった。


 街は不穏な雰囲気に包まれている。

 

 シェスカの親は娘がいなくなったことに相当なショックを受け、二人共今は仕事を休んで家にいるらしい。

 ドミニエルたちは毎日のように森へ出かけた。もちろん大人同伴でだ。




 ドミニエルたちは今日もマヤトリ森を訪れ、シェスカを探している。

 大人たちも一緒に探していて、ドミニエルたちは少し離れたところを歩いてる。


「シェスカ~、居たら返事して~」

「シェスカ~、返事してくれ」

「お~い」

「シェスカちゃ~ん」


 みんな必死でシェスカに呼びかけるが、返事はない。


「もうマヤトリ森は全部探したぜ?あとどこ探すんだよ?」


 ラルスは少々投げやり気味に言った。


「だが、いるとしたらこの森だと思う」


 ドミニエルに確信はないがそんな気がしていた。


「でもラルスくんの言うとおりこの森は探し回ったよ」


 マドロディも疲労が溜まっているが、決して態度には出さない。


「一箇所だけ探してないところがあるけど……」


 セベサが言った。

 

「……」


 みんな口には出さなかったが、薄々「魔獣の森」が怪しいのないかと思い始めていた。

 一瞬の沈黙のあと、口を開いたのはドミニエルだった。


「大人たちの隙をみて、探しに行ってみる?」

「それしかないろうな。大人たちが許してくれないだろうし」

「ロディは付いてきちゃだめだ。危なすぎる。モンスターもでるんだ」

「そんな、私も行く」


 マドロディは自分にも責任があると思い、付いていこうとする。


「ダメだ!!」


 大声を出され、マドロディは体をビクッと震わせた。

 それで我に帰り、自分では足でまといにしかならないと思い付いていくのを諦めた。

 周りに居た大人たちが何事かと振り向いたが、なんとか誤魔化す。


「いいか、俺たち三人だけで行く」

「ああ、それがいいと思う」

「ええっ?ホントに行くの?」

「当たり前だろう」

「明るいうちなら大丈夫だろうし」

「いつ行くか?」

「早いうちがいい。今日はこのままもう少し探して、明日の朝出発しよう」


 ドミニエルとラルスがどんどん話を進めてしまい、セベサも付いてかなければならない状況になってしまった。




 その日もやはりシェスカを見つけることが出来なかった。

 その帰り道、魔獣の森へ行く話をしていた。


「明日は日が昇る前に森に一番近い僕の家の前で集合でいいかな」

「それで構わないぜ」

「わかったよ……」


 日が昇る前は人通りがかなり少なく、目撃されることも少ない。


「なにか武器になるものを持ってこよう。僕たちしかいないし、どんなモンスターに出会すかわからないからね」

「バットとかでいいよな。さすがに剣とかは持ってないし」

「僕も何か持ってくるよ」


 話は聞いているマドロディは心配そうな顔だ。


「絶対に帰ってきてね」

「大丈夫。シェスカを連れて帰ってくるさ」

「任せろ」

「心配してくれてありがとう」


 


 そして、次の日の朝


「準備はいいか?」

「ああ」

「大丈夫だよ」

「では、出発しよう」



 

 幸い誰にも見つかることなく町を出た。

 一心不乱にマヤトリ森を抜けた。

 日が昇る頃には魔獣の森の入口に着いた。


クルルルゥゥゥゥッ……


 魔獣の森は生い茂っており、昼間でも薄暗い。

 空気も冷たく、どこからかモンスターのものと思われる奇妙な声が聞こえる。


「さぁ、油断するなよ?」

「もちろん」

「うん」

「いくぞ……」



 森では風の音と葉の擦れる音、魔獣奇妙な声のみが聞こえる。

 その中をカサカサとドミニエルたちの足音が響く。


 途中モンスターが現れたりしたが、気がつかれないように慎重に歩を進めた。


「今のところあまり危険って感じがしないな」

「確かに、ただ不気味な森ってだけだ」

「もうやだ……帰りたい」

「何言ってんだ?シェスカに帰って来て欲しくないのか?」

「そ、それは帰って来て欲しいけど……」

「シェスカはもっと辛い思いをしてるんだ」

「そうだよね……ごめん。行こう」




 ドミニエルたちはさらに奥へ奥へと進んでいった。

 すでに日は昇っているはずだが、森の中は相変わらず薄暗いままだ。


 今まで静寂に包まれていた空間に、僅かに今まで聞くことのなかった人の声が聞こえて来た。



「お……だま……この……」


 男の声だ。森が静かなので遠くからでも声が聞こえる。

 ドミニエルたちがさらに慎重に進む。


 やがて大きな廃城が見えてきた。

 全体的にボロボロだが、中は人が住める程度に改修されている。

 いかにもお化け屋敷のようだ。


 近づくと、声以外の音も聞こえてきた。


 ゴンッ という何かを殴ったような音や

 ビシィッ という細くしなる物で物を叩く音

 ガゴンッ と何かを壊した音など


 茂みに隠れながら少しずつ進む。


「なんだこの音?」

「少なくとも聞いてて気分がいいものじゃないね」

「……」

 

 さらに近づくと違う話し声も聞こえてきた。

 声を発していたのはどうやらタバコを吸うために出てきた男2人だった。 


「ここはいい隠れ家だよな。街のやつらは強いモンスターが住んでると思って入ってこねぇ~し」

「全くだよな。馬鹿な奴らばっかり。そんなの迷信だっつぅ~の」


 ゲラゲラゲラと不愉快な声が聞こえた。


 ドミニエルたちは気がつかれないように茂みに隠れた。 


「やっぱり魔獣の森には強いモンスターはいないのか」

「そうみたいだね」


 聞こえた大人の声は5つ。

 それ以外に子供の鳴き声やうめき声が聞こえる。


「たぶんここが誘拐犯のアジトだろう。どうするか?」

「もちろん俺たちだけでみんなを助ける」

「え?僕たちだけで?大人たちに言わないの?」

「もしその間に逃げられたらどうするんだ?」

「うっ、確かに」

「できれば一人ずつ倒したいよな」


 そんなことを話していると、1人がおそらく散歩にでもする気になたのだろう、廃城から出てきた。


「タイミングがいいな。いくぞ」


 音を立てないように背後を付いていく。


「あ~、あんなところにいつまで居るんだよ。さっさと街に戻りたい……って言っても無駄だろうなぁ」


 男は誰にも聞かれてないと思って愚痴をこぼしている」


「よし、背後から3人で攻めるぞ」

「おう」

「うん」


 それぞれ武器として持ってきた、バット、麺棒、角材を構えた。


「いくぞ?」


 十分に近づき、一斉に草から飛び出した。


「ん?あぁっ?」


 男は突然の出来事に反応できず頭に「?」を浮かべていた。


 ガンッ、ゴンッ、ガッ


 男はそのままわけがわからないまま気絶した。

念には念を入れ、さらにボコボコにした。子供は加減を知らない。

 すぐには見つからないように茂みに隠す。

 おそらく暫くは目が覚め無いだろう。


「よし、戻るぞ」


 そして戻ってくるとまた声が聞こえた。


「しっ、誰か来る」


 ラルスがそう言うと3人とも茂みに隠れた。


「全く、ガルロのやつどこいったんだ?ボスは俺に探してこいとか言うしよぉ」


 また別の男が廃城から出てきた。

 そして同じように廃城から少し離れた場所で、油断したところを襲い、気絶させた。


「これであと3人かな?」

「聞こえた声が全部ならね」

「人数はもっと多いだろうな。じゃあ、突入するか」


 再び廃城の裏口の前まで来た。


「入るぞ」


 無言で2人が頷く。

 音を立てないようにゆっくりを扉を開けて入る。

 

 建物の中は外よりは綺麗だったが、物が多く子供が隠れる場所は沢山にあった。


 しばらく進むと大きなホールがあった。天井はかなり高く、左右に計4箇所の扉があり、地面はコンクリートがむき出しになっている。地面や壁には黒いシミが数多く付いている。

 そこに縄で縛られた子供たちが30人以上いた。

 見たかぎりではすぐにシェスカは見つからない。

 誰もが衰弱しているようで、項垂(うなだ)れている。

 目は死んだように光がない。


「ひどい……」


 セベサが思わず声を出してしまった。


「誰だ?」


 運悪く部屋に居た帽子の男に聞こえてしまったようで、辺りを探している。


「ここだ!!」


 そういうとラルスが物陰から飛び出した。

 それに続いてドミニエルとセベサも飛び出す。


 その声に何人かの子供が反応したが、すぐに興味をなくしたようだ。


「ふん、かっこいいヒーロー気取りか?」

「みんなを助ける」

「できるわけないだろう?そんなガキに」

「やってみるか?いくぞ!」

「おう!」

「うんっ!」


 3人で一斉にかかるが、軽くあしらわれる。


 一旦距離を取り、ラルスは帽子の男に聞こえないように小さな声で話した。


「いいか、一斉にかかっていってもダメだ。攻撃のタイミングを変えよう」

「わかった」

「もう一度行くぞ?」


 再び一気に駆け出す。


「何度でも同じだ」


 一歩先に進んでいたラルスは帽子の男の少し手前で止まる。

 ラルスが進もうとしたところに帽子の男が持っていた警棒のようなものが振り下ろされる。


「ちっ、外したか」

 

 ラルスに気を取られすぎていて、ドミニエルとセベサに注意がいっていなかった。


「しまった!」


 ゴンッ ガッ 

 

 帽子の上からでも強烈な一撃を食らわせた。

 子供とは残酷である。

 ラルスは帽子の男の急所を躊躇なくバットで殴った。


「あ……が……ぐっ……」


 帽子の男は痛みに耐え切れず気絶した。

にも関わらず、さらにボコボコにする。


 物音を聞きつけてさらに5人の男たちがやってきた。

 男たちが入ってきた瞬間今まで死んだ目をしていた子供たちの目が一瞬で恐怖に怯える目に変わった。


「なんだ?どうしたドリ……ノ?」


 ホールで泡を吹きながら倒れている仲間にただことでないと判断した。

 ボスと思われる黒服の男が一歩前へ出た。


「お前らがやったのか?捕まえたやつらじゃないな?どうやって入った?」

「まぁいいじゃねぇか。とっとと捕まえて洗脳しようぜ」

「洗脳?」


 ドミニエルが反応する。


「そうさ、俺たちは洗脳をして奴隷として売るのさ、使えないやつはこんな風におもちゃにするけどな!」

「なんだと?」

「子供は洗脳すればただの操り人形さ。恐怖で支配し、逆らえなくする」

「話はそこまでだ、お前らこいつらを捕まえろ。多少傷けてもいい」


 そこからは一方的な暴力だった。

 3対1ならまだしも、数でも負けていては勝ち目はない。


 なんとかホールを抜け出す。


「ど……どうするんだ?これじゃあ勝目ないぜ?」

「俺に策がある。さっきの大人たちを一箇所に集められないかな?」

「何をするの?」

「見てからのお楽しみさ」

「わかった」



 一方ホールでは



「どうしますか?ボス。追いかけますか?」

「いやいい。あいつらはまたすぐ現れる」

「そうですかね」

「現れるさ、子供だけで来たということはおそらく大人の目を盗んできたのだろう。そんな奴らがこのくらいで逃げ帰るわけがない」

「ホントですな。ノコノコやってきましたぜ」

「今度こそ捕まえろ」


 4人の男たちが一斉に捕まえにかかる。

 

「あれ?一人足りないな」

「とりあえずこの2人を捕まえろ。そのあと探せばいい」

「わかりました」


 ラルスとセベサがホールを走り回る。

 それを捕まえようと男たちも集団で追いかける。


 そして、一つの扉の前に追い詰められた。


「さぁ、おとなしくしな」

「大人しくなるのはお前たちだ!」

「なに?」


 ラルスは思い切り背後のドアを開けた。


 次の瞬間ラルスとセベサを飛び越え、ドミニエルが男たちに飛びかかる。


[フレイム・ファウスト!!]


 ドミニエルはユニークスキルを連続で発動し、男たちを吹っ飛ばした。


「なに?」


 声を出したのはボスと思われる黒服の男だ。


 そしてその勢いのままドミニエルは黒服の男に接近する。


 慌てて武器の(むち)を振るおうとするが、すでに接近されすぎていた。


[フレイム・ファウスト!!]


 再びホールにユニークスキル名が響く。


 ドンッ 

グシャリ……


 黒服の男は壁に赤い染みを残して気絶した。


「ドミニエル、お前ユニークスキル使えたのか?」

「ああ、人前で使うのは初めてだがな。そんなことよりみんなを助けよう」


 子供たちをみるとなお一層の恐怖に怯えているように見えた。


「大丈夫だよみんな。悪い奴らはやっつけた」


 ドミニエルが言った。

 しかし、表情は変わらない。


「聞こえてるか?もう大丈夫なんだって」


 そういいながら近くにいた子の縄を解こうと近づいた。


「いや……いやっあああああ!」


 その声に足が止まった。


「やめてください。やめてください。もういや。もういや。痛いのはいや……」

「もう悪い奴は……」

「いぃぃぃぃぃやぁぁぁぁあああああ」


 その時気がついてしまった。さっきからの恐怖の対象は自分に向けられていることを。

 「自分が強くなれば多くの友達を守れる」という信念が崩れていった。


 そこからのことはあまり覚えていない。

 いつの間にか家に着いていて、数日の記憶がなかった。

 

 シェスカは売り物になるはずだったようで、傷もなく無事助かったようだ。しかし、救出された全員心が病んでしまっていた。治療をするためにみんなもっと大きな街へ運ばれた。


 シェスカに何度か会いに行ったが、シェスカはドミニエルのことを覚えていないかのようだった。




 

読んでいただきありがとうございます。


今回でドミニエルの回想は終わりです。

次話でユニークスキルを人前で使うことに躊躇するドミニエルはどうするのか?

次話もお楽しみに




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