式と嘘と刀
前鬼後鬼の守護って人によって難易度に違いを感じたりしますよね。というわけで続きです。
レミリアの命を受けて咲夜は白玉楼にやって来ていた。
霊夢と魔理沙は既に行動を開始しているはず。遅れをとってはならないというのがレミリアの談。
話によるとどうやら幽霊が制御を外れて脱走したらしいのだが、見たところ今は落ち着いているようだ。咲夜が近づいても風にそよいでいるだけ。とても暴走していたとは思えない。
(何か妙ね……)
レミリアは異変の元凶については語らなかったし、そもそもこれは異変と呼べるものなのだろうか。
妖夢は見当たらないが、白玉楼は平和そのもの。あまり考えたくはないが無駄足だったのではとさえ思える。
しかし命令である以上は何か掴まねばならない。咲夜はとりあえずここの主に会うことにした。
「こんにちは」
白玉楼の主、西行寺幽々子の住まい。声をかけても誰も出てこないので咲夜は中へと入っていく。家主は留守なのだろうか。
長い廊下を突っ切り、突き当たりの角を曲がる。そこへ人影。
「あら、ようこそ」
これはとんだ見当違いだった。
「いるなら出てきてほしかったんだけど」
咲夜は現れた幽々子に文句を垂れる。
「ごめんなさいね。ちょっと今立て込んでて」
何やら楽しそうな幽々子。
「それはそうと幽霊が暴走したって聞いたけど? 落ち着いてるじゃない」
まさにそれこそがここに来た目的だ。はっきりさせねばならない。
しかし、幽々子の返答はあっさりしたものであった。
「ああ、それならいいの」
「ちょっと、どういうこと」
思わぬ肩透かしだ。
「あなたのご主人様が何て言ったかは知らないけど、これは別に異変じゃないの。狂言よ」
さすがの咲夜もこれには驚きを隠せない。
「するとお嬢様と私はまんまと一杯食わされたと……いや、お嬢様には確かに運命が見えていたはず……」
「多分私たちの意図を酌んでくれたんだと思う。あなたを引っ張り出すという狙いも一応あったしね」
咲夜の頭はクエスチョンマークで埋め尽くされている。それを見かねた幽々子。
「つまりね、長いこと異変らしい異変がなかったじゃない?」
「まあ言われてみれば」
ここまで異変が短い期間に集中したことが異常なのではないかと咲夜は思ったがあえて口にしなかった。
「だからあなたたちが鈍ってるんじゃないかなと思って。間に合わせだけど異変もどきを起こしてみたのよ」
「じゃ、じゃあ幽霊が暴走ってのも?」
「許可を貰ったうえで幽霊たちに号令を出したの。みんな張り切ってやってくれてよかったわ」
呆れてものも言えない咲夜。そう思ったのは彼女だけではないようだ。
「そんなことだろうと思ったわ。やるならもっと上手くやりなさいよね。計画がガバガバ過ぎるのよ」
外から声がした。再びの訪問者に咲夜と幽々子はしたり顔で反応する。そろそろ来る頃だとは思っていたのだ。
「やっと来たわね」
霊夢に妖夢、そして妖夢と戦っていた妖怪が簀巻きにされて縁側から入ってくるところだった。
幽々子をスルーしその後ろに向かって呼びかける霊夢。
「紫、いるんでしょ? あんたも観念しなさいよ」
誰もいない空間。しかし返事をする者があった。
「さすがは霊夢。思ってたより大分早かったわね」
***
妖夢は敵の頭上へと飛び上がった。今度は先に仕掛けるつもりだ。
「幽鬼剣【妖童餓鬼の断食】!」
懐の刀で真一文字に斬撃を繰り出すと、そこから楔状の光弾が発生し弾幕となって敵へと襲いかかる。妖夢の十八番中の十八番だ。
そのあたりを飛び回っている要請やその他有象無象の弱小ならこれでイチコロなのだがそうはいかなかった。
「いいスペルです。しかし隙がありますよ!」
刀を振るときの溜め動作による隙を突き、敵は弾幕を掻い潜る。狙いは正確だったが敵の身のこなしがそれを上回ったようだ。
避けきった敵は再び攻撃動作に入る。
「今度はこちらの番です!」
今、妖夢たちは『スペルカード』のルールにおいて闘いを繰り広げている。スペルカードというのはこの幻想郷における私闘を禁ずるためのルールのことだ。
人間離れした人間や妖怪が本能のままに争えば単なる殺し合いを通りすぎて災害レベルの事態になってしまう。それを避けるという目的がある。
通常弾を撃ち合い、時に外の世界のヒーロー漫画のように自分の得意技をスペルカードとして宣言しぶつけ合う。殺伐としているように感じるかもしれないが、単なる力比べと違い美しさに重きが置かれているのが特徴である。
「式神【前鬼後鬼の守護】」
妖夢へむけて敵がスペルを発動した。さっきとは違うスペルだ。
黄色、そして緑の大弾が炸裂しそこから分散した弾幕が妖夢に降りかかる。真下からの攻撃なので視界が切れてしまう。
「おっ、とっ、とっ」
間を縫ってなんとかかわした妖夢。このスペルは妖夢を追尾してくるので回避に徹しないとすぐに蜂の巣にされてしまう。
ここで何故かわされることがないように一切隙間のない弾幕を撃たないのかと疑問に思うはずだ。それにも理由がある。
先ほども述べたがスペルカードの試合、通称弾幕ごっこは美しさを求めた試合。勝ち負けを度外視するわけではないが、相手を圧倒し叩きのめすことだけが勝ちというわけではないのだ。
妖夢たちはそうしてはいないようだが、あらかじめ使用するスペルの数を決めておいてそれを全て破ったほうの勝ちというルールがとられることも多い。つまり攻撃することと同じくらい回避が重要であるわけだ。
とはいえ、気まぐれの多い幻想郷。変則ルールもアリアリなので大まかな決まりさえ守ればこれが正しいという絶対的なものはない。
敵のスペルを急降下でかわした妖夢は今度は真下からのショットで敵を狙う。さっきの逆を狙おうというわけだ。
「式――――っ」
これがスペルを宣言しようと構えた敵の僅かな隙を突く形に。バランスを崩し、その場でふらつかせた。
ここで妖夢が一気に勝負をかけた。
「やぁぁっ!」
刀を振り上げとどめの一撃を狙う。真っ直ぐに飛び上がり、放たれた苦し紛れのショットを難なくいなして敵に肉薄した。
「これで終わりだ!」
振り上げた刀の一閃。完璧な奇跡で敵の眉間を狙ったが、横から飛び出てきた何かに防がれてしまった。
「いつの間に……」
霊夢がいかにも巫女らしいお祓い棒で刀を受け止めていた。普通なら木の棒で刀を止められるはずがないのだが、霊夢のそれは特別製なのだ。
「なーにやってんの。こんなことしてる場合じゃないでしょ」
妖夢に刀を返す霊夢。辻斬りから庭師に戻ったようだ。
そして先ほどまで妖夢と戦っていた妖怪の首根っこをひょいと掴む。妖夢を止める作戦に失敗しぶつぶつ言いながらも霊夢が現れたことで観念したようだ。
「あんたの正体は分かってるわ。一緒に来て」
かくしてこの三人も白玉楼に無事到着したのだ。
つまりヤラセだったということです。もちろん幽霊の管理を任されている幽々子の独断でこんなことはできません。
つづく。