空と札と紅白
テンポが悪くなるのでスペル云々については今回の話では語りません。戦闘シーンを解説してくれるヤ○チャ的存在の便利さに気がついた冬の夜。
白玉楼を目指して一直線に飛んでいく妖夢。自分が留守の間に主人に何か起こったとあって気が気でない。
全速力で飛び続けやっと冥界が見えてきた。白玉楼に着くのも時間の問題だろう。
(ここまでくればあとちょっと……)
すぐにでも戻って異変を確かめねばならない。
しかし、それを望まない者がいるようだ。
「ちょっと待った!」
突然目映い光を伴って、何かが目の前に飛来した。
見た目は普通の人間そのもの。人里の者たちが着ていそうな安物の麻を身にまとっている。背丈は空中なので分かりにくいが妖夢を優に越えているようだ。
身体のラインから判断するに女らしい。とはいえ人間は普通空を飛ばないので(この幻想郷には例外が多数いるが)人外の者だろう。
(見ない顔……でもどことなく知っているような)
知り合いが多い妖夢でも知らない相手だ。
「魂魄妖夢さんですね。私とお手合わせ願います」
幻想郷で強者として知られる妖夢に勝ってその名をあげようという妖怪だろうか。有名人ともなればそのような存在が湧いてもなんらおかしくはない。
とはいえ、今はタイミングがすこぶる悪かった。
「そんな暇はない!」
妖夢は彼女をスルーし、ラストスパートをかけようと――
「待ってください。式神【十二神将の宴】」
否、できなかった。妖夢の周りを魔方陣が取り囲んでいたのだ。その魔方陣から放たれる弾幕をなんとかかわす妖夢。不意討ち気味ではあったがさすがはトラブルシューターだ。
「このスペル……何をする!」
『式神【十二神将の宴】』のスペルを放った敵は本気で妖夢に挑戦するつもりのようだ。
「そう慌てないでください。白玉楼の主なら無事ですよ。今のところは、ですけど」
彼女の手には輝くスペルカード。牽制のつもりだったと思われるがそれでも凄い威力だった。
妖夢は目の前の妖怪を完全に敵と認識した。
「……あなたが幽々子様を?」
「そうかもしれませんとしか」
途端に妖夢から殺気が滲み出る。既にその目つきは白玉楼の庭師兼剣術指南役兼その他雑用のものではなく、辻斬りのそれになっていた。
「そうそうその目です。やっとやる気になってくれましたか」
敵の思い通りにことが運んでいる。どうやら逃げられない系統のエンカウントだったようだ。
「答えろ! 白玉楼に、幽々子様に何をした!」
その身に怒りを纏い、妖夢は刀を抜き敵に斬りかかった。
***
妖夢が戦いを始めるしばらく前のこと。霊夢は迷いの竹林の入り口へ幽霊を追い詰めた。お互いに相手の様子をうかがい一歩も動かない。
(まずいわね……)
ここまでは障害物のない空中戦の鬼ごっこだったため一直線に幽霊を追えばよかったが、昼間でも薄暗い竹林に逃げ込まれたら追いかける前に捜索する手間が発生してしまう。
魔理沙と二人がかりなら挟み撃ちにするという手があったが今回ばかりはそうはいかない。
自分が動けば相手も動く。距離を詰めれば竹林へと逃げ込まれる。一種の詰みである。
霊夢が竹林が更地になったらいいのにと現実逃避を始めたその時である。
「鬼ごっこなら私も混ぜてよ」
誰かの声がして、幽霊に向かって背後から弾幕が放たれる。たまらず霊夢の方へ逃げてくる幽霊。
「あれは……」
竹林の中から誰か現れた。白っぽい銀髪に謎のお札が大量に貼られた赤いもんぺの少女。竹林の案内人で通っているあの人物だ。
しかしそれどころではない。予期せぬ乱入に不意を突かれた幽霊は驚いたのか霊夢の頭を越えて飛び去ろうとした。
この大チャンスを逃す霊夢ではない。相手の動きを完全に見切って御札を的確に投げつけた。
「それ!」
今回は逃すことなく幽霊は封印された。
「ふう。これで一段落……というかあんたのおかげね。ありがと」
「いやいや、これくらいどうってことないよ」
竹林から出てきたもんぺの少女、藤原妹紅は照れ臭そうに頭をかいた。
とある事情により人間でありながら外部からの干渉を断ってここを拠点に活動しているが、妹紅にとって人の役に立てることは素直に嬉しいようだ。
「それにしても博霊の巫女が幽霊と鬼ごっこなんて珍しいね。また異変ってとこ?」
「まだはっきりしないんだけど一応そんなとこね。それじゃ、私は先を急ぐから」
「おーう。きばってこー」
飛び去る霊夢にひらひらと手を振る。
霊夢と妹紅。無理やり括るなら紅白コンビ。普段絡むことはあまり多くない二人ではあるが、さっぱりとした性格同士気が合うところがあるのだろう。
これを書くうえで色々調べていたのですが、いわゆる弾幕ごっこにおいて肉弾戦が禁止されていないという事実に驚きました。
つづく。