十の瞳と森と嘘
続きです。レイマリの見せ場かと思いきやそうでもなか(以下
一般的な幽霊の飛行速度は決して速くはない。三人はすぐに幽霊の一団に追い付くことができた。
ここはちょうど人里の上空。眼下では人々が興味深げにこちらを見あげている。どこからか三人への声援も小さく聞こえてくる。
「いい? 手はず通りいくわよ!」
霊夢が先陣を切って幽霊の群れに向かっていった。その手から御札が次から次へと放たれる。御札に触れるやいなやその中へ吸い込まれていく幽霊たち。日頃の異変解決で培った力だ。
「おお。さすが霊夢。慣れてるな」
霊夢を横目で見つつ自分も見よう見まねで御札を飛ばす魔理沙。霊夢と同じく実戦経験が豊富なので初めてながら手際がいい。
「ぶつぶつ……私も御札やりたかった……」
霊夢と魔理沙によって幽霊が捕縛された御札を袋へつめていく妖夢。彼女も御札を投げる役をやりたいのだが、何をかくそう妖夢自身も半霊。つまり半分は幽霊なので空の御札に触れると半霊が吸い込まれてしまうのだ。
作業にはさほど時間は必要なかった。
霊夢と魔理沙そしてもう一人の活躍はめざましく、あれほど数多くいた幽霊もその数残り二体になった。
「あと一息ね。さっさとやっちゃいましょ」
その時。突然幽霊たちの体が痙攣した。一瞬の硬直ののち二体はそれぞれ別の方向へ、これまでからは考えられない高速で飛び去りあっという間に見えなくなった。
「ええ!? 妖夢、これはどういうことだ」
「知らないよ! 私だって何がなんだか」
魔理沙からの呼び掛けに袋を揺らしながら答える妖夢。まさに不測の事態だ。
「もしかしたら白玉楼で何かあったのかも。幽々子様が心配だなぁ……」
意外と鋭い妖夢。ある意味当たっている。
「分かった。あんたは白玉楼に戻りなさい。残りは私と魔理沙でちゃっちゃと捕まえちゃうから」
「そうだぜ! ここは頼れる魔理沙さんに任せな」
「あ、ありがとう! 行ってくる!」
まわれ右して飛び去る妖夢。それを見送る二人。
「幽霊が飛んでったのは魔法の森、あと迷いの竹林方面ね」
「そんじゃ私は魔法の森に行く。霊夢は竹林を頼む」
気心の知れた仲だけあってすぐに作戦がまとまる。二人は見失わないうちに全速力でそれぞれの幽霊を追いかけた。
***
その様子をさらに上空から見ている者が二人。ともになんとも形容しがたい衣装を纏っている。漢服のようなものといえば伝わるだろうか。
「うまくいってるわね」
一人が笑みを浮かべた口許を扇で隠して笑う。巷で胡散臭いだの掴み所がないだの言われる所以だ。
気をよくしたのかさらに続ける。
「幽々子が幽霊を逃がして妖夢に追わせる。その過程で霊夢たちを巻き込んで頃合いを見て鬼ごっこを始めてもらう。完璧ね」
もう一人その横で呆れた顔をする者も。
「こんなことして本当に大丈夫なんですか? 面倒なことになりそうですよ」
「いいのよ。許可はもらってあるし霊夢たちのウォーミングアップが必要だから」
聞きなれない単語に首を捻る。平成の日本なら笑われそうだが、ここは幻想郷なので確かに無理はない。
「うぉ、うぉーむいぐあっぷて何です?」
「準備体操。ここ最近平和だったし喝を入れたかったのよ。それより、妖夢が白玉楼に戻ろうとしてるわね。ちょっと足止めをお願いしてもいいかしら?」
「……分かりました。行ってきます」
妖夢を足止めすべく片方がその場から姿を消した。
「みんな、頼むわよ」
今回はちょっと面倒なことになりそうだから……と彼女は呟いた。
誤魔化しましたけど謎の人物の正体バレバレですね。
彼女とゆゆさまは一体何を考えているのか……そして幻想郷で何が起ころうとしているのか……