緋色と館と湖
お待たせしてすみません。あとパチュリー&小悪魔ファンの方すみません。
大ちゃんは出ますから勘弁してください。
霊夢が魔理沙に説教をしていたころ。
湖のそばにある洋館でもちょっとした騒ぎが起きていた。
ここには外の世界からやって来た吸血鬼の姉妹とその友人、そして従者が住んでいる。真っ赤な外観に恥じることのないその名を紅魔館という。
そのバルコニー。館の主がお茶を楽しんでいる。
緑茶をくいっと飲み干した少女。背中から覗く翼がなければ小学生ほどの女の子にしか見えない。彼女はレミリア・スカーレット。この館の当主で誇り高き吸血鬼だ。
「そういえばさっき向こうで大きな音がしてたけど何かあったのかしら?」
「魔理沙が来たみたいですよ。大方本を盗もうとしたんでしょうね。今妖精たちが図書館の復旧をしています」
横に控えるメイド姿の女性がそれに答えた。彼女は十六夜咲夜という。見てのとおりこの館のメイド長だ。
どうやら霊夢のところへ行く前に魔理沙は意外な寄り道をしていたようだ。
「まったく……普通に来たらお茶くらいなら出すのに」
レミリアは門を見下ろす。チャイナルックの女性が目を渦巻き状に回しつつ倒れているのがよく見える。魔理沙の侵入時に巻き添えを食った館の門番だ。
咲夜も呆れた表情でそれを眺める。
「あそこでのびてる門番はどうなさいますか?」
「貴方に任せるわ。私は一眠りしてくる」
空になったティーカップを返し、レミリアは自身の部屋に引き返す。
「あ、そうだ」
何か言い忘れていたようだ。
「近々この幻想郷でまた異変が起きる。私達に火の粉が飛んでくることはないけど一応準備しておきなさい。うちの代表として解決に向かってもらうから」
真顔で言いきった。
レミリアには『運命を操る程度の能力』というものがある。これには様々な解釈があるのだが、今回はちょっとした未来予知といった形で発揮されたようだ。
そしてメイド長たるもの突然のことにも驚かない。
「はい、お嬢様」
一瞬でカップとスプーンを片付けて戻ってきた咲夜は瀟洒に微笑んだ。
***
先ほどの咲夜の台詞にもあったようにここ幻想郷にはたくさんの妖精が棲んでいる。
彼(彼女?)らは仲間と遊んだり、人間に悪戯をしかけたりして過ごしているのだがなかには紅魔館の妖精メイドのように大きな組織の傘下に入る気まぐれな者もいる。
そしてここにもコンビの妖精。レミリアくらい幼い見た目だが、人間の数えではとてつもない年齢だったりする。
紅魔館の門の前。レミリアが見下ろしていた気絶門番を見物しに来たようだ。
「あれ? この人なんで寝てるの?」
「あたい知ってるよ。これは『しえすた』っていうんだって」
「『しえすた』? よく分からないなぁ……」
緑の髪の妖精が門番をつつく。当然起きない。
「『しえすた』ってサボりのことなのよ。ここはあたいがバッチリ起こしちゃうんだから!」
違うようでいて、かといって的を外してもいない。
「さすがチルノちゃん! 人間、いや妖精ができてるね!」
「それほどでもある!」
チルノと呼ばれた青い髪の少女が胸を張る。緑の髪の妖精はチルノを妖精にカウントしているが、正確には彼女は雪ん娘という妖怪である。
「じゃあいくよ!」
危ないと緑の髪の妖精を少し遠ざけるチルノ。意外に思慮深いようだ。
チルノの手のひらから青い光が迸る。
「ええい!」
彼女から発せられた凄まじい冷気が門番に降りかかった。彼女が妖怪でなかったらえらいことになっていただろう。チルノも一応相手を選んではいるようだ。
「すごいよ。カチカチになっちゃった」
「へへん、どんなもんよ!」
得意気なチルノ。彼女は『冷気を操る程度の能力』を持っている。レミリアのそれよりも分かりやすく、物を冷やすことができるというものだ。そこらの妖精と比べて格段に強い力を持っているのがお分かりいただけただろう。
しかし、冷気をその身に浴びたものの寝ている門番の『しえすた』は相当のものでまったく目を覚ます気配がない。
しばらくそれを眺めていた二人だが直に飽きてしまったようだ。
「起きないや。行こう、大ちゃん」
「うん。ルーミアちゃん探しにいこうか」
湖のほうへ飛び去る二人。門番は冷やされ損である。
「はーっくしょん! はーっくしょん! なんで私はーっくしょん!」
その夜。紅魔館からくしゃみの音が絶えず聞こえたという。
門番の本名ネタはまだとっときます。レミリアが異変起こるって言ってるので多分起きるんでしょうね……
次回は白玉がどうとからしいです。