楽園と禁忌と有識
「はあ? レミリア倒して調子に乗ってんのか?」
調子に乗るなら私に勝ってからにしろと気色ばむ魔理沙。騒がれると面倒なので霊夢は彼女を羽交い絞めにした。
「私も魔理沙に同意見よ。幻想郷を甘く見ない方がいいわ」
数々の強敵としのぎを削ってきた霊夢だが、今回の相手はどうにもどこかが違うと感じた。
「甘く見ちゃいないさ。だからこそこうして降伏を呼び掛けてるんだ」
「私たちは今までそういう輩を片っ端からやっつけてきたの。悪いことは言わないからさっさと出ていきなさい」
もっとも、その前に何発か食らわせようと霊夢は考えていた。
「外来人が好き勝手していると聞いたけどずいぶんと面白い方なのですね」
にらみ合う霊夢たちと赤の間に紫が現れた。
「八雲紫か。ちょうどいい、あんたにも聞いてもらいたかったんだ」
「幻想郷は人間と妖怪が織りなす秩序によって保たれている。それに干渉しようというのならこちらも出るとこ出なければいけませんわ」
大物登場に喜ぶ赤。霊夢は紫の微笑みからいつにない激怒を感じとった。
赤は頭をかいた。それだけで遠くで見守る妖精たちがいっせいに逃げ出した。
「干渉ねえ。俺たちはここを侵略に来たわけじゃあない。実験場兼修行場として使いたいだけなんだけどな」
「修行とは意外ね。ただの人間にして吸血鬼とその従者を倒すほどのあなた方がそれ以上強くなる意味があるのかしら?」
「俺たちじゃない。強い兵をここで育成するんだ。この幻想郷には素養のある人間や妖怪がたくさんいる。そいつらを鍛えるだけでも大幅な戦力アップが見込める。そしてそのまま外へ連れてけば最強の軍団が出来上がりだ」
「それが『幻想郷をよこせ』ということなのですね」
「さすがは妖怪の賢者。話が早くて助かる。あんたがうんと言えば大義名分はほぼほぼ問題ない。どうだろう、俺たちに幻想郷をくれないか?」
紫が答える前に霊夢が魔理沙を解放し、
「さっきから黙って聞いていれば!」
秘蔵の武器である頂門紫針を赤に向けて放った。
「おおっと、女の子がそんな危ないものを持っちゃいけない」
紫針は赤に届く前に彼から放たれた光弾によって掻き消えた。覚悟していたことではあるが、妖怪退治用の武器を防がれた精神的ショックは軽いものではなかった。
「どうしてもダメか? この手は使いたくなかったんだけどな」
赤は右手を高く挙げた。何かを仕掛けられたと思った霊夢と魔理沙はその場で身構えた。
「そら」
一瞬の閃光とともに紅魔館が音をたてて崩れ落ちた。
霊夢も魔理沙もそして紫も言葉が出ない。
「分かっただろ? 俺らに逆らっても無駄だ。あんたの『境界を操る程度の能力』をもってしても俺たちを探れないのがその証拠。次は人里を攻撃してもいいんだぜ?」
ここにきて霊夢たちは事の深刻さを理解した。
赤が見せたのと似たような能力をレミリアの妹であるフランドールも持っているのだが、地下に軟禁されていたフランドールと違い赤は紫にすら捕捉されずに幻想郷を飛び回っている。それがどれほど恐ろしいか。
「待った! そんなにいきなりガンガン来られても困るぜ」
意外にも魔理沙がここで口火をきった。明らかにうろたえているが彼女なりに赤のペースにさせまいとした結果だ。
「そうね、幻想郷の行く末がかかった決断ですもの、すぐにはできないわ。一週間でいいのでいただけないかしら?」
敵の言い分を聞くつもりはないが人里をまるごと人質にとられていてはこう言う他ない。紫も魔理沙に同調した。
赤はゴネることをしなかった。
「かまわん。時間はいくらでもやる。そのかわりプラスで条件を出させろ。そこの博麗霊夢に一騎打ちを申し込みたい。場所は人里のはずれ、少しでも多く見物人を集めてもらう。どうだろう?」
なんと彼が望んだのは正々堂々一対一の勝負だった。
「あんた自分が勝つ前提みたいだけど私が勝ったらどうすんのよ」
赤を倒したところで敵が素直に引き下がるとは思えなかったが、彼を倒すことで与しやすくなるのは間違いなさそうだ。
「まあ出ていかざるをえないだろうな」
「その言葉、忘れないで。とにかくそれなら断る理由はないわ。勝負は明日の夜明けでどう?」
「いいだろう」
赤はそのまま姿を消した。
「紫!」
「だめね。完全に自分の痕跡を断ってしまった。破壊より厄介な能力かもしれませんわ」
気落ちした様子の紫は皆にこのことを知らせるといってスキマに帰っていった。
「魔理沙、私たちも行くわよ」
外来人との対決といえば早苗が思い出されるがあの時のようにはいかないかもしれないと霊夢の心中には暗雲が立ち込め始めていた。




