守りたいモノ
「あー、流石に夜中は寒いな・・・。」
やっぱりマフラーぐらいもってくればよかったと
今更思っても仕方が無いことか。
と、自己紹介がまだでした。
私の名前は阿武隈、ミリタリーオタクの日本人だ。
噂話のためにわざわざドイツまで来たわけだが
少し、いやかなり欧州の夜をなめていた。
あ、そうそう、自分の名前は父が母の反対を押し切って決めたらしい。
阿武隈「にしても・・・本当に出るのかなぁ・・・。」
もし出なかったら旅費がもったいないな・・・。
「そこの少年、早く逃げな」
阿武隈「え?」
突然の声に振り向くとそこには守備部隊と思わしき兵士達が居た。
中央にⅥ号戦車B型が鎮座し、それを中心に土嚢で囲った簡易陣地があり
兵士達はそれぞれが銃座についたり、銃器を持ち警戒していた。
その中でも老兵と思しき雰囲気を出している人物が
顔をこちらに向けて話しかけてきている。
老兵「だから早くここから逃げな、少年。」
阿武隈「あ・・・あなた方は・・・どうされるのですか?」
突発的な事に対して自然と言葉が出た。
不思議な事にその兵士達が幽霊だと感じず、普通の人間のように思えた。
老兵「わしらはここで敵の攻撃を食い止める。
その間に多くの市民を逃がすためにな。」
阿武隈「それではあなた方が全員死んでしまいますよ・・・。」
老兵「この町の市民が一人でも多く逃げれればそれでいいのさ。
それにもう先も長くねぇ気がしてな、どうせここで死んでも何もかわんねぇ。
ならば敵兵を一人でも多く道連れにしようって考えよ。」
阿武隈「あなたの・・・あなたの家族はどうなるのですか?
残された家族はきっと悲しみますよ!」
老兵「ふ、女房などとっくに死んだわい。
イギリスの奴等が夜間爆撃をしてきてな。
その時に落とした爆弾が女房と子供が住んでいた家に直撃しての。」
阿武隈「・・・すみませんでした・・・。」
老兵「謝る必要はないぞ、少年。
とにかく早くここから逃げな。
西に行け、西には連合の奴等がいると思うが
ソ連の馬鹿共に捕まるよりゃマシだ。」
阿武隈「わかりました、皆さんもがんばってくださいね!」
老兵「お前さんもがんばって生きろよ!」
そうして広場から出るために歩き始め・・・あ!
いつの間にか忘れてたけどあの人達は幽霊のはず――――
そう思い、足を止めて振り返った。
最初に目に入ったのは所々に弾痕のある戦車の残骸。
次にボロボロの簡易陣地。
そして―――――
―――――人だったモノ―――――
その光景に驚き、瞬いたら
ただの普通の広場に戻っていた。
結局、あれから何度かあそこに足を運んではみているが何も無かった。
今でもあの光景は目に焼きついたままだ。
彼らはきっと勇敢に戦ったのだろう。
彼は国の事など一切考えていないように思えた。
その代わり市民を守るという思いがあった。
よく、「お国の為に」などといった言葉を見聞きするが
やはりあのような状況になると
その国の市民を守る、といった思いになるのだろう。
考えを改めさせてくれた出来事であった。