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ヒロインは早々にシナリオから離脱したい  作者: 朔島 涼
二章.浄化の旅、ゲームスタート

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9.シルヴィアの推し

しかし、残念ながらシルヴィアの我が儘は叶えられることはなかった。


「ご、ご一緒できて光栄です。この度はよろしくお願いいたします。」


走馬灯から生還したシルヴィアは、咄嗟にカーテシーの姿勢を取った。おそらく変な間があったと思うが、驚いて声が出なかったと捉えてほしい。


「おや、ヴィアは綺麗にカーテシーをするんだね。私はアーノルドだ。」


アーノルドが名乗らなかったため、シルヴィアも名乗らず『よろしく』に対してだけ回答したが、名前はすでにご存知のようだ。


「私は王国騎士団に所属している。貴族ではない者もたくさん所属していて、一緒に過ごしているんだ。私の前では畏まらずに先ほどのような感じで大丈夫だよ。」


美しいエメラルドグリーンの瞳を細めるアーノルド様。その優しい笑顔に、シルヴィアも肩の力を抜き笑顔で答えた。


「ありがとうございます。」

「私もちょうど馬車に向かうところなんだ。一緒に行こうか。」


シルヴィアが緊張していると思って近くに待機してくれていたのかもしれない。さすがは優しさNo.1のアーノルド。彼のルートでは、最初から最後まで甘々でその優しさに何度も溺れそうになった。しかし、ミニゲームの魔物との戦闘では悪魔のような強さで、そのギャップにときめいたものだ。


「勝手にヴィアと呼んでしまったけど、大丈夫かな?」

「ええ、もちろん。」

「私の事も敬称なしでいいからね。」

「そ、それは…。」


かなり無茶な相談だ。なぜならば、前世でゲームのヒロインが『アーノルド』呼びを始めても、シルヴィア自身は『アーノルド様』と呼び続け、崇め奉っていたのだから。この先、一生敬称なしで呼べる気がしない。


「ダメかな?」


アーノルドが美しい眉を下げて大袈裟にしょんぼりとする。


「努力しますね!」


シルヴィアは一瞬で生まれ変わった。


「ありがとう。」


本当に嬉しそうなアーノルドの笑顔に、シルヴィアは頭の中で大泣きしていた。眼福過ぎる…。

しかし、外面は何とか平静を保ち、歩みを進める。


「ヴィアはどこで白魔術を?」


ギクッ。


アーノルドは次から次へと難題をぶつけてくる。


「市井でそんなにすごい魔術を学べたのは、なかなか運がいいよね。」


アーノルドは決して平民を蔑んでいるわけではない。魔法を学ぶには本来お金がかかる。貴族には幼い頃から家庭教師がついているし、メーティス学園でも学べるが、平民だとそういう訳にはいかない。


「そうですね、昔はお師匠がいました。今は遠くに行ってしまいましたが…。」


いつか聞かれた時のために考えた設定であるが、嘘ではない。幼い頃に魔法を教えてくれていた先生は、領地を継ぐために遠くへ行ってしまったのだ。


「そうなんだね。じゃあ、そのお師匠様に感謝しないと。こんなにすごい白魔術師を育ててくれて。」

「足手纏いにならないように頑張ります。」

「絶対にそんな事にはならないよ。頼りにしている。」


シルヴィアは謙遜したわけではなく、心の底からそう思っている。ゲームの中のシルヴィアは、魔術も剣術も別に得意ではなかった。一生懸命頑張って、攻略対象たちに助けられ、何とか戦闘についていく。そういう設定であった。転生によるチートと幼い頃からの努力もあって、ゲームの中のヒロインよりは強くなっている自覚はあるが、攻略対象たちと比べてどうなのかは正直見当がつかない。アーノルドからの言葉にどう答えればいいのか分からず、シルヴィアは曖昧に微笑んでおいた。

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