5.父との攻防戦
父との攻防は何年も続いた。
「…却下。」
「分かりました。」
「やり直し。」
「はい!」
「話にならん。」
「はい…。」
「出直してきなさい。」
「うぅ…。」
「全然ダメだ。」
「…。」
「まだダメ。」
「くそ!」
「え?」
「いえ、悔しいです。頑張ります」
最後の方は心の声が漏れ出てしまうぐらいの死闘であったが、どうにか15歳の誕生日の前日に独立の許可がもらえた。
「う、うまい!」
「本当ですか?」
「ああ、これは本当にシルヴィアが作ったのか?」
父は立ち会わせていた公爵家の料理長に確認する。
「はい。わたくしたちは何ひとつ手出しはしておりません。」
「ふむ…これは合格と言わざるを得ないな。」
「やったー。これで独立の許可もらえますか?」
「ああ、約束だからな。手続きは進めておく。」
「ありがとうございます!」
両手をあげて喜ぶ私を見て、父は首を傾げる。
「シルヴィアの幼い頃からの夢だから許可はするが、決して楽な選択ではないぞ?」
「はい、分かっています!」
満遍の笑みで喜ぶ私の姿に、「本当にわかっているのか…。」とぶつぶつ呟いてはいるが知ったことではない。
「これで私は自由だー。」
私室に戻りベットに倒れ込む。
「長かった。本当に長かった…。」
5歳の時に前世の記憶を思い出してから10年。独立後の計画については意外とすぐにOKが出たのだが、独立の許可がなかなか下りず結局ギリギリまでかかってしまった。
父が出した独立の条件その1、メーティス学園卒業程度の学力を身につけること。これは楽勝で、前世の記憶がある私にとっては中高レベルの復習のようなものなのですぐにクリアした。
条件その2、公爵令嬢としてどこに出しても恥ずかしくないレベルのマナーやダンスなどを身に付けること。これが前世では縁のなかった分野で少し時間がかかったが、割と器用な方なので、これも数年で突破。
条件その3、自分の身を守れる程度の魔法と剣術が使えること。これも5歳の頃からずっと練習していたので、すでに習得済みであったが、独立後も魔法や剣術が同意な方が有利なため、それ以上に鍛錬を続けた。
条件その4.、独立資金を貯める。これも5歳の時からお小遣いは貯めて、頂き物は綺麗に保存して売却したため、父がこの条件をあげた時にはすでに目標金額を超えていた。
条件その5、独立後の居住地や仕事先を確保する。これも店舗兼自宅用の物件を使用人に付き添ってもらってすぐに確保し、独立までには改装予定である。
独立の条件その6、1人で生きていける生活力を身に付けること。これも前世で社会人経験のある私であれば余裕だと思ったが、子どもの体では物理的に出来ないことも多々あり、なかなか合格まで辿り着けなかった。大きなリネン類を洗って運んで物干しにかけたりはなかなか難しく、掃除も高いところは届かないし、重い荷物も運べない。
極め付けは自炊で、『調理場は危ないので10歳にならないと使えない』『1人での買い出しは12歳まで行えない』などというルールを次々と後出しされ、意図的に合格への最短時間を後ろ倒しにされた。それも偏に父の愛ゆえだとは思うが、本当に肝が冷えた。しかも、この世界の食材は、前世での見た目と味の組み合わせとは全く違う物が多く、出来上がりの味の想像がかなり難しかった。決して、前世で全然料理をしていなかった事が災いしたわけではない…と思う。まあ、今となってはどれもこれもいい思い出だ。
次の日から、大急ぎで公爵家から籍を抜く手続きと、店の開店準備を同時進行で進めた。そして、メーティス学園の入学式を1ヶ月後に控えた早春の晴れの日、シルヴィアはついに独立を果たした。3年後に事業が軌道に乗っていなければ公爵家に連れ戻すという条件付きで。
シルヴィアは、『ドトーリエ公爵家からの独立の権利』を手に入れた。




