44.エミリオの罠
「ヴィア、大丈夫?」
「はい。」
「ヴィア、足元気をつけて。」
「はい。」
「ヴィア、結婚しよう。」
「は…」
「ん?」
「は?」
怖がるシルヴィアに優しく声をかけながら、ゆっくりと進んでくれていたが、その会話の中に思わぬ罠を仕掛けられていた。驚きすぎて暗闇にいる事も忘れ、エミリオの手を離して足を止める。エミリオは美しい笑顔でシルヴィアを見つめる。
「絶対にしません。冗談はやめて下さい。」
「冗談ではないよ。ずっと考えていた事だ。」
「……困ります。」
本当に困る。私の人生計画が……すでに大幅に崩れているのに、エミリオと結婚なんてしたら大崩壊だ。
「何故?」
「何故ってそれは……。」
「それは?」
「私に王太子妃など務まらないからです!身に余ります!」
「なるほど、私が王太子だから結婚はできぬと。」
「そ、そうですね。」
本当にそう。
「分かった。」
意外とあっさり引いてくれた。やはり冗談だったのか。
「納得していただけたようでよかったです。」
シルヴィアはこてりと首を傾けて微笑み、エミリオの顔を見上げる。すると、エミリオも同じように首を傾けて今まで見た事がないくらい甘やかな笑顔を浮かべる。
「では、今からありとあらゆる手段をとり、廃嫡に向けて動くとするよ。」
「えっ?」
「この旅の後は公務を全くせずに、一年くらい遊んでいればいいかな?」
「えぇっ!」
甘い笑顔のまま、その美しい唇からとんでもない発言が次々と飛び出す。いやいやいや、王国の危機!ダークホール浄化しても国滅ぶ!エミリオは既に陛下の仕事の半分を代理として行なっていたと聞く。今更廃嫡しても、代わりなど立てようもない。
「君が私の隣に居てくれぬのならば、王座などに微塵も興味はない。喜んで捨ててしまおう。」
「やーめーてーくーだーさーいー。」
半泣きになりながら止めても、エミリオの口から紡がれる言葉は止まらない。キラッきらの笑顔でシルヴィアを脅迫する。
「幸い私には優秀な弟たちが3人もいる。私がいなくても何も問題はない。」
「第二王子は次期騎士団総督として、騎士団の要職に就いて居られますし、第三王子は留学中の学生。第四王子に至っては生まれたてです!優秀かどうかも分かりません!」
「ああ、楽しみだなー。王都を出たらどこに住もうか?王城ほど大きな家は建てられないけど、期待してていいよ。私の個人資産はなかなかの物だからね。私個人名義の事業もいくつかあって、一生生活に困らせないし、ある程度の贅沢も…。」
全然話を聞いてくれない。
「わぁーごめんなさい、ごめんなさい。王太子殿下だから結婚できないのではありません。申し訳ございませんでした!」
半泣きになりながら必死に謝るシルヴィアであった。
その頃地上では。
ガラガラ、ズズズズ…どしゃーん。
「え?」
後ろでものすごい音がしたため、イレーネが振り返ろうとする。
「続けろ、イレーネ!」
「はい!」
オズワルドが叫び、イレーネはダークホールに向き直る。
「大丈夫だ、心配するな。」
オズワルドがイレーネの隣まで行き、優しく声をかける。イレーネは前を向いたまま頷いた。
「ああっ……ヴィア。……ヴィア。」
アーノルドが慌てて塞がれた穴を覗き込む。
「くそっ!穴が塞がってしまっちゃここからの救出は難しいな。」
ランドルフが吐き捨てるように言う。
「……っ。こんなに簡単に崩れるなんて、恐らく地下室か何か空間があるのだろう。下手に動かして、その空間まで埋めてしまっては、生き埋めにしてしまう。」
アーノルドが絶望から何とか立ち上がり、周囲を見渡す。
「浄化が終わり次第、地下室の出口を探そう。ヴィアは絶対に生きている。」
「…エミリオも。」
ノエルが隣でボソリと呟いた。
「そう、エミリオも。」
「完全に忘れてたな。我が国の王た…。」
「そんなわけないだろう。」
ランドルフのツッコミに食い気味に否定するアーノルドであった。




