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ヒロインは早々にシナリオから離脱したい  作者: 朔島 涼
五章.滅びた街、進化

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39.馬車の座席で椅子取りゲーム

準備を整えてロビーに集合した一同。今日は移動日だ。ここから北東に向かい、アンティカの隣町キエートという街を目指すという。アンティカが滅んだ一年前は、まだシルヴィアが本格的に魔物討伐に参戦し始める前で、その時期は採取のついでに魔物を倒している程度であった。ギルドの頼みで魔物討伐の臨時パーティーを組み始めた頃には、すでにアンティカは滅んだ後だった。もう少し早く参戦していれば……アンティカへのダークホール出現がもう少し遅ければ……と思う気持ちもあったが、いくら悔やんでも街が元通りになることはないし、死者を蘇らせることもできない。今やるべきことは、街にあるダークホールを浄化して魔物を一掃し、街で亡くなった人々を弔う。ただそれだけだ。


「行きましょう。アンティカへ。」


シルヴィアの声掛けに頷き、皆が馬車へ向かう。


「あ、ちょっと待ってください!」


しかし、皆を止めたのもシルヴィアだ。


「どうかした?」


シルヴィアの奇行にエミリオは首を傾げる。


「今日はランドルフ様たちの馬車に乗っても?」

「何でかな?」


食い気味で理由を問うてきたのはアーノルドだ。ずいっとエミリオとシルヴィアの間に割り込む。


「ちょっとランドルフ様とオズワルド様にお話ししたい事がありまして。」

「それじゃあ、私もそちらの馬車に乗せてもらうね。」


アーノルドはシルヴィアの後に続く。


「いや、重量オーバーですよ。」


シルヴィアはアーノルドの方に向き直り、両手を前に出して静止する。


「…。」


アーノルドは満遍の笑顔のまま動こうとしない。納得していないようだ。


「僕がエミリオ達の馬車に乗るよ。」


困り果てているシルヴィアにノエルが助け舟を出す。


「すみません。」

「ふふ、大変だね。頑張って。」


朝からノエルの声と笑顔で元気をもらってしまった。何だかラッキーだ。


「ヴィアはノエルの事大好きだよね。」

「へ?」


幸せな気分に浸っていると、頭上から急に爆弾が落とされた。


「見てれば分かるよ。ノエルと話す時は特に嬉しそうだよね。」

「いや、そんな事は…。勘違いで…。いや大好きですけども。」

「へぇ?」


アーノルドの声がワントーン下がる。推しに関して嘘がつけない自分が嫌になる。


「と、とりあえず馬車に乗りましょう。」


アーノルドをぐいぐいと引っ張って馬車に押し込む。シルヴィアも同じ馬車に乗り込もうとすると、アーノルドが手を出してくれる。しかしその手を取る直前でシルヴィアはピタリと固まる。手を見つめたまま急に動かなくなったシルヴィアを見てアーノルドは首を傾げる。


「あの、えーっと…。」


何か言わなければと思うが、うまく言葉が出てこない。


「どうした、早く座れ。」


先に馬車の座席に座っていたオズワルドだ。ぶっきらぼうな言葉とは裏腹に、その声も表情も優しい。その笑顔を見た瞬間、涙が込み上げてきた。使用人の馬車に押し込もうとしたオズワルドはもういない。昨日の遭難事件で本当の仲間になれたと思っていただけに、今ここで同乗を拒絶されてしまったらと急に怖くなったのだ。シルヴィアはふわりと微笑む。


「はい!」


元気よく返事をして、今度こそアーノルドの手を取った。その様子にアーノルドはシルヴィアの言動の理由に気がつく。


「よかったね、ヴィア。」

「何でそんなににやけてんだ?」


ランドルフはシルヴィアか同じ馬車に乗り込んでいることに何の違和感もない様子だ。


「ふん。」


オズワルドは優しい笑顔のまま、言葉はあくまでもぶっきらぼうを貫く。


「いえ、何でもありません。お待たせしました。」


いつもの馬車とはまるで違う雰囲気ではあるが、ここもまた自分の居場所であることにシルヴィアはとても嬉しく思うのだった。

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