37.オズワルドの反省
辺境伯家に生まれた自分は王国のために生き、王国のために死ぬのだと幼い頃から教えられてきた。ロゼフィアーレの王族への忠誠心は誰にも負けない自信がある。剣術はあまり得意ではなかったが、魔術の才に恵まれ、幼い頃から魔術の練習は特に必死に行ってきた。メーティス学園を卒業する頃には王国有数の魔術師と呼ばれるまでに成長していた。国境を守り、この国を守るために。この旅のメンバーに選ばれた時には、とても光栄なことだと嬉しかった。この国のために自分にできることがあるのだと、自分にしかできないことがあるのだと。そして、イレーネを直接守ることができる最後の機会だと思った。あと数年もすれば、辺境伯領で指揮を取る立場になる。
しかし、この召集に対して断りを入れた無礼な平民がいると聞き、オズワルドは憤慨した。
「そんな無礼なやつはこのメンバーから外せばいいだろ。無理に連れていく必要なない。」
エミリオに直接苦情を入れに行った。半ば強引に引き入れたというが、無理やり連れてきたような奴が役に立つわけがない。騎士の中にもたまにそういう奴が紛れているが、何か困難な場面に遭遇すると主人よりも先に一目散に逃げてしまうものだ。
「これは決定事項だ。アーノルドの推薦でもある。承知してほしい。」
エミリオはそう言って頭を下げた。
「……わかりました。」
オズワルドもエミリオにそこまで言われては頷く他なかった。そしてアーノルドの推薦でもあるという白魔術師。何がそこまで彼らの目を引いたのか疑問に思いながらもオズワルドは出発の日を待った。
王宮の馬車寄せに集合し初めてシルヴィアを見た時、なんて呑気そうな奴だと再び怒りが湧いてきた。怒りに任せて彼女を使用人用の馬車に押し込んでしまった。流石にやり過ぎたと移動中の馬車の中でも少し反省をしていたが、馬車を降りた瞬間にイレーネに首根っこを掴まれて物陰まで連れて行かれ、それはもうものすごい剣幕で怒られた。確かに暴力まがいのことをしてしまったことは反省したものの、それでも彼女を完全に受け入れることはできなかった。
しかしその後間もなく、オズワルドは自分の考えが完全に間違っていたと思い知らされた。彼女は常に最前線を走り、誰よりも魔術を発動し、誰よりも魔物を討伐していた。というかプリモの森ではシルヴィアしか魔物の相手をしていなかった。我々に彼女の実力を示させるため、エミリオがそうするよう彼女に指示したのかと思ったがどうやら違うらしい。森のダークホール前でこっそり確認をしてみたが、エミリオは苦笑いで首を振った。彼女自身が我々の信頼を勝ち得るために仕組んだことかとも一瞬思ったが、それは一瞬だった。彼女は無事にダークホール前まで我々を連れて来れたことを心から喜んでいたし、そんな複雑なことを考える人間でもなさそうだ。エミリオとアーノルドがシルヴィアに魅了された理由がこの時は分かった気がしていた。しかしそれでは理解が足りていなかった。
「平民のくせに、どこであんな魔術を覚えてきたんだ?」
「あら、『平民のくせに』はおかしな言い方だわ。ロゼフィアーレの国民は全てわたくしたちの守る対象であるはずよね。そしてヴィアは平民ではないわ。」
オズワルドは独り言のつもりでつぶやいたが、すぐ後ろにいたイレーネが答えを示す。
「あいつは平民じゃないのか?」
「そうね。というかどう見ても平民ではないわ。ヴィアは隠そうとしているようだからみんな付き合っているけれど。」
オズワルドは衝撃を受けた。耳にした情報だけを信じ、自分の目で得られた情報からは何も感じ取ろうとしていなかった自分に羞恥する。怒りに囚われて目が曇っていたのかもしれない。
「そして平民ではないどころか、公爵家出身なのよ。今は伯爵家当主でもあるわ。」
「公爵家の元令嬢で伯爵家当主になったということか。」
信じられない情報が次々と出てきた。そしてその後もシルヴィアは魔物たちの間を爆走し続けた。そしてさらに新しいことに挑戦する姿に毎度、度肝を抜かれっぱなしだ。オズワルドはすでにシルヴィアを敬意を示す対象であると感じている。しかしなかなか態度に示せずにいたところ、かの事件は起こった。『シルヴィア、オズワルド遭難事件』である。強制的にふたりっきりになれた事で出発当初の非礼を謝罪することができた。彼女は笑って許してくれた。そのことで更に自分の未熟さを実感した。自分はまだまだ魔術も心も成長途中であると、そしてまだまだ伸び代があるのだと。シルヴィアという存在丸ごと全部で示してくれた。オズワルドはこれからもロゼフィアーレのために努力を惜しまず精進していこうと心とイレーネに誓った。




