34.オズワルドとシルヴィアの遭難
海の表面に土がモコモコモコと盛り上がって、島まで続く道ができていく。
「何だその魔術は。」
「海が割れるか、土が盛り上がるかどちらかにはなるかと…。」
シルヴィアは眉を下げて笑う。
「お前の神経は本当にすごいな。この状況で新しい魔術を考え試すのか。図太すぎだろう。」
オズワルドは目を細めてシルヴィアを見つめる。
「えへへへ。」
「いや、褒めてない。しかし、まあ助かった。服着たままお前を抱いて海を渡るのは難しかったからな。」
そう言うと、先にシルヴィアを道の上に押し上げ、自分も続けて登った。海の真ん中にできた道をふたり肩を並べて歩く。隣を歩くオズワルドを見上げてシルヴィアは思った。ひとつ目のダークホールがスッド海岸だったなら、自分は溺れて死んでいたと。『イレーネは守るが、お前は保護対象には入れんぞ。』プリモの森で投げられたオズワルドの言葉だ。『服着たままお前を抱いて海を渡るのは難しかったからな。』先ほどオズワルドが発した言葉だ。自分の安全も確保できない中、シルヴィアの事を守ってくれたのだ。相変わらず表情は素っ気ないが、自分にも向けてくれるようになった優しさに胸が暖かくなる。ふたりはそのまま陸路を歩いて進み、海の中を泳ぐよりもかなり早く安全に島に到着した。
「【雷魔術 雷砲】」
オズワルドが空に向かって【雷砲】を打ち上げる。ボートに残っているであろう5人に居場所を知らせるためだ。この後も30分ごとに交代で空に何かを打ち上げる予定だ。土魔術で何を打ち上げよう…とシルヴィアは悩んでいる。そしてちょっとだけ仲良くなったとはいえ、オズワルドと2人きりは少し気まずい。
「…最初、ひどい態度をとって悪かった。陛下からの招集を断った無礼な平民で、無理矢理連れてこられたやる気のない白魔術師という認識だった。」
沈黙を破ったのはオズワルドだ。独白のような内容のため、シルヴィアは相槌だけ返す。
「しかしイレーネにこっぴどく叱られたし、お前の行動を見ていたらすぐにその認識は間違いだと気づいた。」
「そんな話を聞いていたらその認識になるのは仕方がないですし、陛下の召集断った無礼な平民は合ってますよ。」
シルヴィアは話しながら、本当にその通りだと頷く。
「お前は平民ではないのだろう?イレーネから聞いた。」
オズワルドは首を傾げた。
「あー。公爵家出身である事は間違いないですが、今は平民です。」
「え?公爵家出身で独立して伯爵…いや、まてよ。これ言っちゃまずいのか。」
オズワルドは口元に手を当て、一瞬固まった。
「ま、まあとにかく、出自が公爵家であればお前の方が格上であるし、そのお前にあんな態度を取った俺を咎める事もなかった。ましてや、今までのお前の働きは誰よりも優っている。本当にすまなかった。」
オズワルドが酷かったのは本当に最初の出会いだけで、その後は特に嫌な事もされなかったし、嫌な思いもしなかった。それどころか、当初会話のなかった3人組の中では一番最初に話しかけてくれたくらいだ。内容はさておき、仲良くなろうとしてくれていたのかもしれない。
「はい、謝罪を受け入れます。」
「ありがとう。」
オズワルドがお礼を言った。
「だからこの話はもうおしまいです。いいですね。」
「ふっ…。分かった。」
オズワルドが笑った。
「私の方こそさっきは助けてくれてありがとうございました。」
「いや、大した事じゃない。」
シルヴィアを助ける事は大した事じゃないらしい。一番最初の印象が悪すぎて、後はもう何をしても上がるしかないようだ。




