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ヒロインは早々にシナリオから離脱したい  作者: 朔島 涼
四章.海を越えたダークホール、恋愛パート

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33.油断大敵

登山の後よりも断然元気そうなイレーネ殿下は、回復魔術を受ける事なくダークホールの浄化を始める。


「今回は悲しそうだね。」

「…はい。」


やはり気のせいではなく、ダークホールにはそれぞれ負の感情が宿っているようだ。声のような音以外にも、頭に感情が流れてくるような不思議な感覚があるのだ。誰かの悲しみを7人で共有し、今回も無事に浄化は終わった。シルヴィアはダークホールの欠片が飛んでいく様子をしばらく眺めて何かを考え込む。


「ヴィア、どうかした?」


そんな様子を見て、アーノルドが声をかける。


「いえ、あの欠片はどうして飛んでいくのかな?と思いまして。」

「どういうこと?」


アーノルドは首を傾げる。


「呪いとかなら、浄化すればそのまま消えてしまうと思うんですよね。」

「まあ確かに?」

「何だか分かるような分からないような話だな。」


オズワルドが会話に加わる。


「難しく考えすぎなんじゃないのか?」


ランドルフも横から口を挟む。ノエルは無言のまま傍観する。


「とにかく今はポンテの港町に戻ろう。」


エミリオの一言で一行は移動を始める。島を縦断し乗ってきたボートに乗り込むと、スッド海岸を目指す。ダークホールを浄化し、凶悪な魔物も姿を消して、彼らは完全に油断していた。そしてそれは起こるべくして起こる。


「きゃあ!」

「うわ!」


シルヴィアとオズワルドの腕に突然巨大な触手のようなものが巻き付く。そして瞬く間に海に引き摺り込まれる。一瞬の出来事で何が起こったのか分からなかったが、息もできないし取り敢えず浮上しなければと思い、必死に触手を引き剥がそうとする。しかし、腕に巻き付いた触手は思いのほか力が強く、抜け出すのは難しい。切り落とそうにも武器の解除をする余裕もない。シルヴィアは前世から水が苦手だった。パニックになりかけていたシルビアの腰に、見覚えのある何かが巻き付く。


『オズワルド様の鞭だ!』


そう思った瞬間に身体が引っ張られて、気がつけばオズワルドの腕の中にいた。私の姿を確認したオズワルド様は魔物の本体と思われる黒いモヤに向かって片手を突き出して何かを口にした。おそらく魔術を唱えたのだろう。目の前がスパークして驚いたが、自分の身体には衝撃は感じない。するりと触手が腕から落ちて、ようやく解放された。


オズワルドに抱かれたまま、水面まで浮上する。


「ヴィア、大丈夫か?」

「ゲホ、ゲホ、ゲホ…。はい、ありがとうございます。」


私の返事を聞いて、オズワルドはホッとした表情を浮かべる。


「全く動かないから意識がないのかと。」

「すみません、水が苦手で…。パニックになって何もできませんでした。」

「泳ぐ事は?」

「…多分できません。」

「大丈夫だ。また魔物が出てくるかもしれないし、私が抱えていよう。私に触れていれば、魔術のダメージを受けることもない。」

「なるほど…。」


それで腕の中に収まった後に魔術で攻撃したのか。オズワルド、あんな状況の中でも落ち着いていてすごい。


「しかし、かなり引っ張ってこられたみたいだな。先ほどの島もボートも全く見えないところまで来てしまった。」

「た、確かに。」


辺りを見回すと、魔物に攫われる前に見た景色とは一変していた。


「でも、あそこに小さな島がありますよ。」


ダークホールの浄化を行なった小島よりも10分の1ほどの本当に小さな島を見つける。


「取り敢えずあそこに避難しよう。」


私を抱えたまま泳ごうとするオズワルドを静止する。


「ちょっと待ってください。【土魔術 重力軽減】」


体重をかなり軽くして、何も考えなくても浮く程度に調節する。溺れる心配が無くなったところで、次の魔術を繰り出す。


「【土魔術 陸路建設】」

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