26.ランドルフとの密会
「ランドルフ様、一体どうされたのですか?」
今夜シルヴィアがお邪魔しているのはランドルフの部屋だ。ノエルの時と同じように扉を背にして壁ドンを喰らわされている。ノエルの目線はさほど変わらないが、ランドルフは身体が大きすぎて圧が半端ない。普通に怖い。赤茶色の髪からのぞく真っ赤に燃えるような瞳と視線を合わせ、何とか笑顔でその意図を確認した。
「…炎魔術でもヴィアのように応用した技を使えるのか?」
「!」
シルヴィアはそのたった一言で色々な意味で衝撃を受けた。『私の名前知っていたのか』とか『私の魔術見てくれていたのか』とか『視線を合わせて会話するのは初めてだ』とか『その声が思ったよりも穏やかで心地のいい低音ボイスだな』とか。
「もし、あるのならば教えて欲しい。」
あれだけガン無視を貫いていたランドルフが、自分と会話している。そしてお願いしている。もう、何もかもが驚きで胸が熱くなる。しかし、シルヴィアは自分の中にある答えを素直にそのままランドルフに伝える。
「私は多くの魔術を知っているわけではありません。元々ある魔術から着想を得て考えたオリジナルに過ぎません。なので、炎魔術を得意としていない私に炎魔術の応用技が思いつくのかは分かりません。」
「そうか…。」
明らかにシュンとした様子のランドルフに不謹慎ながらキュンとしてしまう。叱られた大型犬みたいで可愛い。
「でも、前向きに考えてみますね。出来るだけ早くお伝えできるように頑張ります。」
「本当か!」
そういうと、ランドルフはぱぁーっと笑顔になり、シルヴィアの手を取った。
「ありがとう!楽しみにしている。」
めちゃくちゃ可愛い。人見知りのワンコがやっと懐いてきてくれたような気分だ。頭を撫で回したいくらいだが、本当にやったら怒られるかもしれないのでやめておこう。
そんな事を考えながら微笑んでいると、トントントンとシルヴィアの背中にある扉がノックされた。自分が返事をするとおかしいので黙っていると、ランドルフが返事をする。
「ランドルフ?何だかヴィアの声がするように思ったんだが、まさか彼女を部屋に連れ込んだりしていないよね?」
シルヴィアとランドルフの肩がビクリと揺れる。アーノルドだ。いつものアーノルドからは想像ができないくらい低い声に驚く。それはランドルフも同じようで、「いや…あの…」と返事を躊躇している。
なかなか返事のない扉の向こうに焦れたようにアーノルドは声をかける。
「入るよ?」
その声と同時にガチャリと扉を開けられ、シルヴィアは慌ててランドルフの手を離した。何もやましい事はないが、ノエルの時のように変な疑いをかけられては困る。しかしそれは遅かったようで、アーノルドは扉を開けた瞬間私たちの手元を一瞥した。アーノルドの美しい眉がピクリと動く。
「これはどういう事かな?」
ノエルの時と同じように全く目が笑っていない笑顔で問われる。
「あの…。」
蛇に睨まれたカエルのようにピクリとも動かなくなったランドルフ。彼の代わりにシルヴィアが答えようとしたが、アーノルドがシルヴィアの口元に人差し指を置いて黙せる。その様子を見たランドルフが観念したように口を開く。
「ヴィアは悪くない。俺が部屋に連れ込んだ。」
シルヴィアは言葉を失う。まあアーノルドによって元々黙らされているが。『なぜそんな…いや、合ってるんだけど合ってない。皆んな言葉のチョイスが下手すぎる』とシルヴィアは頭を抱える。
「ほう?」
部屋の中の空気がビリビリと震える。これ、やばいんじゃ…。双方怪我させずに制圧するには、【重力増大】で…上手く加減できるかな。【磁石】の反対【反発】とか…。いや、新技をいきなりやってホテルを壊してもいけない。シルヴィアは涙目で頭をフル回転させていた。本当に早く休みたい。




