23.シルヴィアの報告書
彼女を浄化の旅メンバーに加えるにあたって、素性調査も行った。彼女はドトーリエ侯爵家の三女で、本名はシルヴィア。メーティス学園に入学する前に独立し、『白魔術師ヴィアのアトリエ』のオーナーをしている。なぜ独立したのかについては、家族にも話していない様だが、貴族が嫌だったのか。どうしてもアトリエを開きたかったのか。まさか学園に入るのが嫌だったなんて事はあるまい。何にせよ貴族の身分には、こだわりも未練も全くないことは分かった。
冒険者ギルドのスタッフに彼女の印象を尋ねると、「素材集めのついでに難しい討伐依頼も引き受けてくれる優しい白魔術師様」との事。その場にいた冒険者たちからも大人気で、その白魔術師と組めば敵なし、怪我なし、もちろん失敗もなし。皆パーティーを組みたがるし、同じ依頼を受けたがるそうだ。最近、王都の冒険者たちが魔物の討伐に積極的に参加してくれていると聞いていたが、納得の理由だった。
アトリエ周辺での聞き込みによれば、アトリエ自体も大繁盛で、「ヴィアちゃんの薬はよく効くから助かるの」と皆が口を揃えて言った。従業員は2名しかいない様だし、それだけ繁盛していれば冒険者ギルドで依頼を受ける必要もないだろうに。
「討伐依頼はボランティアか…。」
エミリオはつぶやいた。
しかし、あれだけ整った容姿を持っているにも関わらず、それ以上にすごい能力で魅せられているため、彼女に対して恋愛感情なるものを抱いている人は1人もいない様だ。これは、アーノルドへのいい土産話になる。いい話しか出てこなくて逆に不安になるレベルだが、これで性格がめちゃくちゃ悪いとかはないはずだ。浄化の旅もきっと快く引き受けてくれるだろう。
「店を空ける事はできませんので…他の白魔術師をあたってください。」
万が一にもそんな答えが返ってくるとは思わなかった。だって、「討伐と採取で店、空けまくってたよ!」とエミリオは驚きのあまり、報告にきた文官に対して思わずつっこんでしまった。
「どういたしましょうか?」
「時間が無い。私が説得に向かう。どうしても彼女に帯同をお願いしたい。」
エミリオはその美しい顔に焦りの色を滲ませる。
「かしこまりました。」
「彼女が留守の間、アトリエを任せられる白魔術師を派遣する。信頼のできる白魔術師を5人ほど選出して欲しい。」
「すぐに手配いたします。」
文官はエミリオの執務室を足早に出て行った。
「すまない、シルヴィア。どうしても逃してやれないんだ。必ず成功しなければ、我が国は滅びの一途を辿る…。」
シルヴィアについて書かれた報告書を見返しながらそう呟いた。
そして翌朝、エミリオはシルヴィアのアトリエがオープンするなりその扉を開いた。
「どうしても君に帯同願いたい。他の白魔術師では何人いても君の足元にも及ばない上に、保護対象となってしまう。」
「…それは、過大評価が過ぎますわ。」
尚もシルヴィアは首を縦に降ってはくれない。
「いや、私自身の目で見ている。残念だが、諦めてやれない。」
「僭越ながら、殿下とお会いするのはこれが初めてかと…。」
シルヴィアはエミリオが冒険者として紛れ込んでいたことに気がついていなかったようだ。まあ、あれだけの魔術を使いながらあれだけの魔物を討伐していたのだ。他の冒険者の顔など覚えていなくて当然だろう。
「先日、臨時でパーティーを組ませて貰ったが、それはもう素晴らしい戦いぶりであった。」
数秒の沈黙の後、シルヴィアはついに折れた。
「…謹んでお受けいたします。」
半泣きになっているシルヴィアには申し訳ないと思いつつも、エミリオは心の中で大きくガッツポーズをとった。




