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ヒロインは早々にシナリオから離脱したい  作者: 朔島 涼
三章.二つ目のダークホール、回想

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21.白魔術師の少女

5メートルほど先で戦闘していた同僚の騎士の背後で、仕留め損なったワイバーンがむくりと起き上がり口を開いた。


その瞬間、世界はスローモーションだった。無我夢中で駆け寄り、彼を突き飛ばして何とか攻撃の範囲外に出せたが、自分は間に合わなかった。顔から左肩、左腕まで炎に包まれて、目も前が真っ赤に染まる。『熱い』と思ったが、しかしそれは一瞬の出来事だった。ぱたりと地面に倒れ込み薄く目を開けると、さっきの白魔術師が私にブレスを放ったワイバーンの首を落としているのが目に入った。ああ、助かったと思ったが、自分が突き飛ばして助けた同僚が走り寄ってきて、私の顔を見るなり表情を崩した。ひどい火傷を負っているはずだ。元の顔は見る影もないのであろう。熱さは一瞬であったがジクジクと痛みが出てきた。


「【白魔術 冷却】」

「白魔術師様、回復を!」


近づいてきた彼女に同僚が縋り付く。


「アイシングしていますので、痛みは多少マシかと。魔術で急激に治そうとすると引き攣れを起こして元のお顔には戻らないかと思います。少し時間はかかりますが、コレを。」


彼女は何かを同僚に手渡した。


「火傷の治療に使う魔法薬です。症状のあるところに1日2回塗ってください。保湿、消炎、殺菌、治癒促進、それから保護の効果も入ってます。初めは塗布の際に痛みが伴うと思うので、眠ってもらいますね。」


そう言うと、周囲にいた騎士3人を呼び私の護衛をする様に伝えた。


「残りの討伐はお任せを。」


白魔術師はアーノルドに向けて片手をかざす。


「【白魔術 鎮静】」


その言葉を聞いて、私の意識は途切れた。






意識を取り戻したのは、王都にある公爵家の屋敷のベットの上だった。3日ほど眠っていたそうだ。渡された魔法薬をきっちり塗っていて皮膚の状態はだいぶ回復しているらしい。私が眠ってしまった後の事を、見舞いに来てくれた同僚たちに聞いてみたが、言葉を濁して詳細は教えてくれない。ただ「凄かった。怖かった。」と皆口を揃えて言う。ただ一つ分かることは、「凄かった」のはもちろんその白魔術師であるし、「怖かった」のもおそらくその白魔術師であろうということ。最後まで立ち会いたかったと心の底から悔やむ。


「彼女は一体何者なんだ…。」


アーノルドは療養中もあの白魔術師の事を考えて夜も眠れぬ日々を過ごした。10日後、騎士団に復帰したその日にエミリオに直談判に向かった。


「先日の討伐でとんでもない白魔術師を見つけた。彼女の事を調べて欲しい。」

「とんでもない、白魔術師?」


エミリオが首を傾げる。


「ああ。白魔術師の格好をしていたが、彼女を真の意味で分類することは難しい。彼女の存在は唯一無二だ。」


アーノルドはラヴィア火山で実際に起こったことをエミリオに正確に伝えた。騎士団が提出したラヴィア火山の討伐の報告内容とはかなりの齟齬があるようだ。それは主に彼女に関する記述についてで、おそらく自分のことは報告しないよう口止めをしたのだと思う。しかし、アーノルドの報告内容と火傷の治療の速さが異常な事は誰の目にも明らかなため、エミリオは二つ返事でOKした。


「私の権限を最大限活かして調べるとしよう。」


エミリオは諜報部に白魔術師の事を探らせつつ、自身も冒険者に変装して彼女への接触を試みた。

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