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ヒロインは早々にシナリオから離脱したい  作者: 朔島 涼
一章.プロローグ

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2.前世の記憶

ドトーリエ公爵令嬢シルヴィアは前世でプレイしていた『ロゼフィアーレ王国の恋愛事情』という乙女ゲーム、略して『ロゼ恋』のヒロインである。舞台となるメーティス学園は、ロゼフィアーレ王国全ての貴族子息令嬢が15歳から入学する学校だ。システムは単純で、授業や特別レッスンまたイベントなどでステータスを上げて、攻略対象のルートに入る。3年間愛を育み、卒業と共に婚約もしくは結婚するという流れだ。


身分が公爵令嬢ということもあり、悪役令嬢から虐げられることもなく、R指定もついてない事から、危ないことに巻き込まれたりする事もない。また閨事情なども描かれることもなかった。小さなハプニングなどはあるが、内容としては平穏そのものであり物足りなさを感じそうだが、攻略対象が美形揃いであり個々のキャラの魅力高く、CVには人気声優を起用。さらに作り込まれたストーリー展開に、スチルの美しさも相まって、なかなか幅広い層に愛されている作品であった。


転生ものといえば、過酷な運命に翻弄される悪役令嬢や、ヒロインなのに攻略対象の性格や性癖が個性的で振り回される損な役回りのイメージが多いが、シルヴィアは比較的優良物件だ。


しかしそれは一般論である。平穏とは何なのか。

それはまさに人それぞれなのだ。


王妃になること、近衛隊指揮官の婚約者になること、国立騎士団団長のパートナーになること、王立魔術研究所長官の妻になること、他国の皇子に見初められることは、シルヴィアにとっては不穏でしかない。


「荷が重すぎる。」


ドトーリエ公爵家の私室で目を覚ましたシルヴィアは、広い天井を見ながら呟いた。そこら辺のモブで良かったのに。せめて悪役令嬢だけど、ほそほぞとひっそり生きていくパターンか。ああ、でも転生者は何か特別な力が働いて、もれなく厄介ごとに巻き込まるのよね。


「ということは、逆もあり得るんしゃない?ヒロインなのにストーリーに全く参加しなければ…。」


腕を組み、天井を見上げたままコクコクと頷く。


「そうよ、それでいきましょう。題して、『ちょっと荷が重いので、早めに離脱してヒッソリと1人で生きていきます』作戦!」


シルヴィアはがばりとベッドから起き上がると、胸の前で右手をぎゅっと握りしめた。






次の日、シルヴィアは屋敷の誰よりも早く起きて、私室にある机に向かっていた。昨日のうちに侍女に用意してもらった、1冊の新しいノートに必死に何かを書き込んでいる。しばらく考え込んだと思ったらまた書き込み、それを幾度も繰り返す。


『舞台はロゼフィアーレ王国

R指定なしの恋愛アドベンチャーゲーム


ヒロインはわたくし、シルヴィア・ドトーリエ

ドトーリエ公爵家の三女


攻略対象はおそらく5人

(隠れキャラがいなければ)


1人目がこの国の第一王子で後の国王 エミリオ

2人目は侯爵家長男で後の近衛隊指揮官 ランドルフ

3人目が筆頭公爵家次男で後の王国騎士団団長 アーノルド

4人目は辺境伯長男で後の魔術研究所長官 オズワルド

5人目が隣国の第三皇子で後の皇帝 ノエル


…………。』





昨日倒れたこともあり、朝ご飯の時間になっても出てこないシルヴィアを心配して、次兄と長姉が様子を見にやってきた。


「ねえ、ビアンカ。ヴィアは一体何をやっているの?」

「シルヴィアはあんなに文字をスラスラかけたかしら?」

「いえ、公用語の文字は以前から書けていましたが、あんなにスラスラとは…。しかも、今書かれているのは別の国の言葉のようでして、私にはさっぱりです。『一度休憩されては』、『食事の時間です』と何度も声をかけていますが、全く気づいてくれません。」


シルヴィアの専属侍女ビアンカがしょんぼりと答える。専属侍女でありながら、自分の知らないシルヴィアの一面を見て情けないと思っているようだ。


「外国語をあんなにスラスラと書いているのか?」


次兄エンリルが驚く。


「まあ、流石シルヴィア。将来有望ね。」


長姉フレイヤは呑気に答える。


部屋の外の喧騒にも集中は切れることなく、その日シルヴィアは『ロゼ恋の基礎知識』を手に入れた。

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