19.勘違いが勘違いを生む
翌朝ミーティングのためにエミリオの部屋を訪れると、入り口でノエルが待ち構えていた。シルヴィアの顔を見るなりノエルがいきなり頭を下げる。
「昨日はいきなり部屋に連れ込んでしまってすまない。しかもあんな終わり方…。」
みんなの目の前で謝られた驚きでシルヴィアは絶句する。そして、言葉の選定が悪すぎる。昨夜至近距離でノエルの顔とその声を独り占めしていた事を思い出し、シルヴィアは頬を真っ赤に染める。
「どう言うことかな、ヴィアちゃん?」
ガシリとアーノルドに腕を掴まれる。笑顔のはずなのに目が全然笑っていない。怖くなったヴィアはその腕を振り解き、ノエルの後ろに隠れる。
「ノ、ノエル殿下、詳細に説明を…。勘違いで私が怒られます!」
そう言ってノエルに泣きついた。美形が本気で怒ると、めちゃくちゃ迫力ある。シルヴィアがノエルを襲ったとでも思ったのだろう。ノエルに近づくシルヴィアを見て、また機嫌が悪くなった気がする。騎士であるアーノルドにとっては、隣国の王子であるノエルも保護対象なのだ。ノエルが焦って説明をするが、なかなか上手く伝わらず、半泣きになっていたシルヴィアであったが、エミリオが横から助け舟を出してくれて、何とか勘違いは解消された。そして、ミーティング前のひと騒ぎの後、エミリオはようやく今後の予定を確認し始めた。
「今日は、ふたつ先の街まで南下してそこで宿をとる。明日はその街の近くにある山へ登ろうと思う。」
「そこにもダークホールが?」
ランドルフが一応確認をする。
「ああ、魔物の討伐に向かった冒険者パーティーから目撃情報が上がっている。」
「王都から南西の山…。」
シルヴィアが小さく呟き、表情を暗くする。
「どうかした、ヴィア?」
俯いたシルヴィアの顔をアーノルドが覗き込む。無事にノエルを狙う変質者の疑いが晴れたので、アーノルドは今日も優しい。
「いえ、何でも。」
シルヴィアは首を横に振る。
「ではこれでミーティングを終了する。各々部屋に戻って出発の準備を。」
皆が一斉にエミリオの部屋から退出する。
「山の上のダークホール。あそこか…。」
「ヴィア、行きましょう。早く準備しないと置いて行かれてしまうわ。」
「あ、すみません。今行きます。」
シルヴィアはその場でしばらく固まったままだったが、先に動き出したイレーネに声をかけられてようやく動き出す。
「まあ、このメンバーなら問題ないか。」
暗い表情を引っ込めて、シルヴィアは自室に向かった。
「何故あんなに回りくどい説明を?」
アーノルドはシルヴィアが扉の外に出たことを確認し、エミリオに声をかけた。表情はいつもの笑顔ではない。
「回りくどかったかな?」
エミリオはにこやかに答えた。
「ヴィアには説明を?」
アーノルドは眉を顰めて尋ねる。
「いや、まだしていない。求められたらね。」
「…。」
「何かまずい事でも?」
「いや、最初は断ったと聞いたから恨まれるかなと。」
「そうなったらごめんね。」
アーノルドはエミリオを睨め付ける。エミリオは笑顔のまま器用に眉尻を下げる。
「…また後で。」
「ああ、今日もよろしく。」
謎のやり取りをした後、アーノルドは扉の向こうに消えていった。アーノルドの背中を眺めながらエミリオは大きくため息をついた。




