17.ご褒美シチュエーション、ではありません!
「君は何者なの。」
シルヴィアは今、氷の皇子様ことノエルに壁ドンされている。何故このようなご褒美シチュエーション…ではなく、おいしい状況…でもなく、危機的状況にあるのかというと。
プリモの森から馬車で今朝と同じホテルに戻り、すぐに解散して今日は早めに休む事になった。昨日の今日で、流石に後をつけてくる者もいない。今日はゆっくり休むぞーっと思って自室に向かっていたところ、ノエルの部屋の前で身体が急にダンスを踊るお姫様のようにくるりと回った。そして、気がついたらノエルの腕と腕の間にいたのだ。
プリモの森の中のように動けば避けれたんじゃないか、と思われるかもしれないが、警戒体制を解いていたらそんなに早くは動けない。決してわざとノエルの部屋に、ましてや腕の中に入ったわけではない。決して…。
「私はアトリエの店主、ヴィアですわ。」
シルヴィアは何とか笑顔を作り、声を絞り出す。
「…。」
ノエルは表情を変えることなくシルヴィアをじっと見つめている。質問には素直に答えたのに、ご納得頂けないようで解放はしてくれない。
「あの…。」
「君の使う魔術は何?」
「うぐ…。」
「何で誰も疑問に思わないの。」
ごもっともな意見だなと思う。せっかくの素晴らしい御声を何も考えずしっかりと耳に染み込ませたいのに、頭をフル回転させていてその声に浸っていられない。とりあえず、まずは答えやすい方の質問を片付ける。
「エミリオ殿下とアーノルド様は私の事をびっくり人間とかおもしろ人間とか思っているんじゃないでしょうか?オズワルド様は言葉に出していらっしゃいましたが、私の事はバケモノだと思っているようですし。ランドルフ様もイレーネ殿下も同じようなものだと思います。普通の人間のように扱ってくれるのはノエル殿下だけですね。」
シルヴィアはニコリと微笑む。
「…で?」
笑顔で押し切ろうと思ったが、失敗に終わった。
確かにシルヴィアの魔術はこの世界で一般的なものではない。というか、自分しか使っていないと思う。何故ならば、シルヴィアの使う魔術は前世の記憶をフル活用したオリジナルのものばかりなのだ。
この世界の魔術は光、白、炎、氷、風、雷、土に分類される。この大陸ではほぼ全ての人が魔力を持っていて、その魔力にはそれぞれ個性があり、適した属性がある。と言っても、一般の人の魔力の強さでは属性の違いなどほとんど分からないが、戦えるレベルの魔力量を持つ魔術師と呼ばれるものたちにとっては重要な意味を持つ。得意な属性をいち早く見つけて、それを極める。魔術師は同じ属性を持つ魔術師から、その属性の魔術を学んでいくが、それにはもう確立されたメソッドがあり、その事が良くも悪くも変化をもたらさない。各々の属性で使うことのできる魔術はすでに決まっている。…と誰もが思っている。それなのに、シルヴィアは今日1日だけで意味不明な術を連発したのだ。
「僕は、幼い頃から魔術の天才と言われてきた。」
「そうなんですね!すごいで…」
「完全に井の中の蛙だったけどね。」
ノエルが頭をがくりと落とす。無茶苦茶いい香りがする。そして顔が近い。ノエルとはそこまで身長差がないため、頭を下げると目の前に顔があるのだ。下を向いているとはいえ、絵画レベルの美しい顔が目の前にある。そろそろシルヴィアの心臓が爆発しそうなので、解放してほしいと切実に願っていた。




